第16話 専属心機技師

「専属心機技師、ですか……?」


「そうや。まあ、正式にそんな制度があるわけやないんけどな。要は須佐すさくんの『心機しんき』を作らせてほしい、って事や」


 聞き慣れない言葉に純一じゅんいちが戸惑っていると、村正むらまさが簡単に説明してくれる。


「ウチはな、自分で言うのもなんやけど近接系の『心機しんき』を作らせたら、都立士官学園アカデミーの中で一、二を争う技術を持ってる」


 純一たちは知らないが村正の言葉の通り、近接系の『心機しんき』を扱う上級生の中で、村正の名を知らない者はいないくらいだった。

 最近は刀型ばかり作っているが、技術を磨くために作っていた剣型の『心機しんき』は愛用者がいるくらいだ。


「もともと刀に魅せられて此処に入学したくらいや。3年間研鑽を積んで、それなりの物を作れるようにはなったけど、今度はそれを使う人の方がいないときた。作るのは楽しいけど、それが使われないってのは中々寂しいものなんやで」


 村正の言葉に、純一は納得できるものがあった。

 『心機しんき』は作られるだけでなく、使われてこそその真価を発揮する。

 装飾品や置物ではなく、兵器なのだから。


「それで僕、という訳ですか」


「そうや」


 ここまで言われれば、純一も村正の言わんとするところを察した。


「4年目にして会えた太刀を使える人。加えて、ウチの作った『心機しんき』の限界を超える実力を持つとなれば、専属にしてもらおうって考えるのは当たり前やろ?」


 村正が純一に向ける視線が、生来の鋭さも相まってギラギラと得物を狙うように輝いている。


「そ、それは僕としても大変ありがたい話なんですが、いいんですか?」


「なにがや?」


「僕、Fランクですよ?」


「あほくさ」


 一刀両断だった。

 悩む間もなく、一瞬でその4文字は放たれた。


「あんなぁ、勘違いされると嫌やから、ハッキリ言わせてもらうで」


 呆れたとばかりに頭をかきながら、村正は続ける。


「ランクを後生大事にするやつは確かにいる。実力を測るうえで効率的なのも認める。せやけど、ランクだけに拘って自分の意思を曲げるのは好かん!」


 そう言い放った村正に、後ろで見ていた深愛みあたちは嬉しそうに頷いていた。


「そもそもや、アンタら新入生やろ?新入生のランクは『心力しんりょく』のランクだけなんやから、目安も目安や。そんなん当てにしてたら、いくらでも足すくわれるで」


 村正の言葉は真っすぐで、本心からそう思っている事がよく伝わってきた。


「せやから、須佐くんもそんなこと気にすんなや」


「……分かりました。若輩者ですが、よろしくお願いします」


「嫌やわ。ウチの方が勉強させてもらう立場や。これからよろしゅうな」


 そう言って差し出された手を、純一も握り返す。

 握った手は女性的な柔らかさもあったが、所々硬くマメの出来た職人の手だった。


「それじゃあ、ウチは戻るな。色々と準備せなアカンからね。あ、須佐くん専用に調整せないかんから、今度ウチの工房に来てや。工学科に案内板あるから」


「分かりました。それと、僕の事は純一でいいですよ。その方が呼ばれ慣れていますから」


「ほうか?そしたら、ウチのことも鈴香すずかでええよ。後ろの娘たちもな!」


「は、はい!」


 深愛たちにもそう声を掛けた村正は、来た時と同じようにあっという間に居なくなってしまった。


「……なんだか、嵐みたいな人だったね」


「うん。でも、良い人だった」


「それよりもさ、純一よかったじゃん!」


 村正が居なくなったことで、蚊帳の外状態だった3人に活気が戻る。


「そうだね。初めはびっくりしたけど、僕としても有難い話だったし良かったよ」


「……あ、あの~……」


 そうしてしばらく話していると、遠慮がちな声が入り口から聞こえてきた。

 今度は何だと4人が視線を向けると、入り口にいた学生は困ったような表情をしていた。


「次、私たちが使う事になっているんですけど……」


 その言葉に時計を見ると、予約していた使用時間は過ぎていた。


「ご、ごめんなさい!すぐに片付けますね!」


 深愛の慌てた声を合図に、帰る準備をする。

 幸いなことに、そこまで物があるわけではなかったのですぐに施設を後に出来た。


「いや~、話し込んじゃったね」


「うん。まだ話し足りない」


「それじゃあ、少し街に出ませんか?丁度、キャラバンも来ていますし」


「賛成!」


「じゅんくんもいいですか?」


「うん、もちろん!」


 こうして4人は学園を後にすると、街へと向かったのだった。

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