第3話 仲良し3人組
「さて、
深愛の席は教室の一番奥、前と横に一人ずつ友達が座っている。
つまり、後ろが空いている。
10年ぶりの再会を果たした幼馴染が、そこへ来ることを必死に祈っているのだ。
しかし、教室にある空席はそこだけではない。
だからこその必死さだった。
「
「分かりました」
そんな深愛の願いが届いたのか、あるいは余りにも必死な深愛の姿に免じてか、深愛の願い通りに
喜びに笑みを零す深愛とは対照的に、教室内の男子達からは嫉妬に塗れた視線が投げつけられていた。
特に、
一方で女子はというと、深愛の今まで見せたことの無い表情に興味津々だった。
「久しぶり、あいちゃん」
「ッ……本当に、久しぶりですね……じゅんくん」
かけられた言葉に、収まった筈の涙が溢れかける。
「もう、遅刻ですよ?」
「ごめんごめん、大和に帰る前にひと悶着あって……」
「でも、ちゃんと帰ってきてくれたから許します」
「ふふ、ありがとう」
10年ぶりとは思えないやりとりに、純一の声が弾む。
この時を待っていたのは、深愛だけではなかったのだから。
「あの~、良い雰囲気を出してるところ申し訳ないんだけど……」
そう言って二人の間に入ってきたのは、深愛の前に座る女子だった。
あっち、あっちと示す方向では、氷室教官が微笑ましいものを見るような視線を向けていた。
もちろん、教室内の空気は嫉妬と好奇心で更に混沌と化していたが。
「そろそろ私も話していいかな?」
「は、はい!すみません……」
そう言って、純一は深愛の後ろの席に着いた。
「君らもいい加減にしろ。傾注だ」
凛とした声が響くと教室の雰囲気が一変し、クラスの全員が氷室教官に集中していた。
入学してから1か月と経たないうちに此処までクラスを統率している事実が、氷室の優秀さを表していた。
「君らの気持ちも分からない訳じゃない。そこでだ、この時間を自由時間とする。自習するもよし、新入生を質問攻めにするもよし、チーム勧誘をするもよしだ。異議のある者は?」
突然の提案だったが、誰も手を挙げる者は教室内に居なかった。
「ならばよし。好きにするといい」
それだけを告げると、教室の隅にある教官席に腕を組みながら座る。
本当に全てを生徒に任せるようだった。
「あ、あのじゅんくん……」
「みゃーちゃん!私達に愛しの王子様を紹介してよ!」
「そうそう、私達耳にタコが出来るくらいに聞かされてるんだから」
深愛が純一に声を掛けようとした瞬間、それに被せるように二人の女子が声を掛けてきた。
その女子たちは声を掛けると同時に、ちょうど深愛たちとクラスメイトの間に壁を作るように立ち上がっていた。
その動きに気勢を削がれたクラスメイトたちが、互いに話しながら視線だけをこちらに向けている。
(この二人、これを狙って……)
「えっと、二人は?」
声を掛けてきた一人は深愛よりも背の高い快活そうな子で、もう一人は深愛と同じくらいの背をした大人しそうな子だった。
「もう、二人とも……。じゅんくん紹介するね、こっちの背が高い方が
「はいは~い!みゃーちゃんの親友の宮下咲だよ!よっろしくぅ!」
深愛の紹介に勢いよく答えた咲は、金髪のセミロングを変則ポニーテールにした太陽のような笑顔が特徴的の子だった。
一声聞いただけで、彼女が3人のムードメーカーであると予想がつく。
「それでこっちが……」
「いえーい、深愛の親友の
ほとんど抑揚を感じさせない自己紹介だった。
予想していなかった自己紹介に純一が驚いていると、してやったりとばかりに笑みを浮かべていた。
どうやら彼女なりの歓迎の意だったようだ。
落ち着いた雰囲気と変化に乏しい表情が大人びた印象を与えるが、その中身は中々に曲者なのかもしれない。
自己紹介の時に思わず雫の一部分へ視線が向きそうになったが、嫌な予感がした純一は自制することに成功した。
名前と実際は必ずしも一致しない、ということだ。
「よろしく。須佐純一です」
差し出されたそれぞれの手と握手を交わす。
「でさでさ、“外”から戻ってきたって本当なの?」
「本当だよ。予定では入学式に間に合う筈だったんだけど、ちょっと色々あってね。それで今日になっちゃったんだ」
「深愛を迎えに来たの?」
「ちょ、ちょっと雫!」
雫の言葉に、深愛が頬を赤らめて慌てた様子をみせる。
「だって、深愛言ってた。私には将来をやくそ……」
「ああ!あああ!」
「…………深愛うるさい」
「ご、ごめんなさい……でも!雫があんなことを言うから……」
「いや、それはウチも気になるなぁ」
「咲まで……」
いつの間にか、純一を放って話し始める女子3人組。
その姿を見るだけで、3人の仲がとても良いことが分かった。
(僕が大和から居なくなった後も、あいちゃんが元気そうで良かった)
離れている間に一番気になっていた事が解消され、純一はホッと息をつく。
そんな4人を見て、険しい視線を向け始めるクラスメイトたち。
それを氷室教官は、面白そうに教室の隅から眺めていた。
「あ、そうだ。ウチら3人でチーム組んでるんだけど、もう一人を決めてなかったんだよね」
不意に、咲が話を変える。
それと同時に、3人の視線が純一に向けられた。
「確かに、でもそれは深愛が……」
「ああ!もうその話はいいですから!」
出会って短い時間だったが、3人の関係性がハッキリと分かった。
深愛がその関係性を受け入れているという事は、それだけ咲と雫が良い子なのだろうと、純一は思い至った。
「まあ何が言いたいかっていうと、ウチらのチームに入らない? ってお誘いだよ」
雫と深愛のやり取りを横目に、咲が言う。
もちろん純一としても異議はなく、むしろ申し出が無かったら自分から言うつもりであった。
「もちろん、喜んで━━━━」
「それについては、待ったを掛けさせてもらうぞ」
了承の意を伝えようとした純一の言葉が遮られる。
振り返ると、そこには数名の男子を引き連れた景之の姿があった。
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