第2話 遅れてきた新入生
次の授業のために新た出しく教室へ戻っていく学園生たち。
そんな中で、深愛に声を掛けてくる学園生がいた。
「深愛」
「あ、
長身な上に整った顔立ちという、イケメンに部類されることが間違いない男子だ。
周りの学園生が授業前を言う事もあり深愛に遠慮する中、景之が気にせずに声を掛けられたのには訳があった。
二人が学園内でも有名な幼馴染であり、深愛と同じく鳴り物入りで入学してきた新入生だったからだ。
その理由は、数多くの心装兵を排出する八岐家の長男でありながら、学園内でもトップクラスの『
それは、未だ
「折角の休み時間に災難だったな。さっさと俺のチームに入っていれば、こんなバカ騒ぎに付き合う事にもならなかっただろうに」
「それは、そうなんだろうけど……」
チームのメンバーは基本的に、学園生たちの自主性に一任されている。
自分たちの今後を共にするメンバーであるから、それを教官が決めてしまうのは後々軋轢を生む切っ掛けになると考えられているからだ。
ただ、自主性に任せたばかりに今回のような、優秀な人材を巡る争奪戦が勃発することは毎年のことであった。
今年は特に、都市内でも数少ない能力を持つ深愛が居た事で争奪戦が激化していた。
「放課後は俺のところに来い。そうすれば、またあのバカ騒ぎに追いかけ回されることもないだろうよ」
「う、うん……」
歯切れ悪く答える深愛。
深愛と同じく新入生の的となり得る筈だった景之だったが、早々に門下生を集めると3人チームを作っていた。
八岐の門下生は今年も多く入学していて、同じクラスになっている者も多い。
集めればすぐに4人組が作れたにも関わらず、3人組にした理由は単純なものだった。
つまり、あとは深愛を迎え入れるだけといった状況だった。
しかし、そんな景之の思惑とは裏腹に、深愛には景之のチームに入りたくない理由があった。
ランク、というものがある。
心装兵の強さの段階を示すものであり、『
そして、ランクにはSからFまでがあり、一番上がSで順にFまで下がっていく。
このランク、心装兵は勿論のこと、それを目指す学園生にも適応されている。
と言っても、入学当初は
基本的に市中で許可なく『
入学前の子供にそんな許可が下りることは、当たり前だが一部の例外を除いて無い。
つまり、入学当初のランクは純粋に『
そして、景之のランクはS。
つまり、最高の『
景之のチームメンバーもAランクと高いため、新入生の中では間違いなくトップクラスチームであった。
そんな景之がチームに誘う深愛のランクは、同じくS。
深愛が景之のチームに入れば、上級生にも見劣りしないチームが出来上がる筈だった。
「でも私、友達とチーム組んでるから……」
景之の誘いに乗らないのは、仲の良い友達とチームを組みたいから。
そんな理由を、景之は受け付けなかった。
「深愛。悪い事は言わない、俺のチームに来い。確かに彼女たちは良い子達で深愛とも仲が良い事は知っているが、それでもBランクだ。仲良しこよしはどこでも出来るが、自分の命が掛かるとなれば選ぶべき選択肢は違うだろう?」
学びを進めていけば、実施に
むしろ恰好の餌として襲い掛かってくるだろう。
それは、この学園の卒業率が9割を切っている事が物語っていた。
だから、高ランク同士でチームを組むべきだ、と景之は言っているのだ。
授業の鐘が鳴り、明確な答えを出さないまま二人は教室に入った。
教室内からは景之と深愛への無遠慮な視線が向けられ、やはり深愛は景之のチームに入るのか? といった呟きが聞こえてきた。
「みんな、揃っているか? 授業を始めるぞ」
深愛たちが席に着くと、それを見計らうかのようなタイミングで教官の冷たい声が聞こえてきた。
深愛たち1組の担当教官、氷室鏡花だ。
長い黒髪に切れ長の目は、見る者に冷たい印象を与えていた。
実際、指導も厳しいものであった。
「さて、お前たちが入学してからそれなりの日数が経ったが……未だにチームが決まらないとはな。今年は通年よりも難航するとは思っていたが、ここまでとは……」
深愛たちへチラリと視線を向けたあと、頭が痛いとばかりに言う氷室教官。
「まだ時間があるとは言え、期限を越えるようであれば我々の方でチームを組む事になるから、そのつもりでいろ」
そう言い放ったあと、氷室教官は何故かニヤリと笑った。
「さて、そんな君らに朗報だ。新たな選択肢の登場だぞ。入れ!」
氷室教官の声に、一人の少年が教室に入ってきた。
「あ……」
その姿を見た深愛は、思わず声をあげた。
入ってきた彼は、ついさっき自分を助けてくれた少年だったからだ。
氷室教官に促され、少年が黒板へ自分の名前を書く。
『須佐純一』
「ッ!?」
その瞬間、深愛の脳裏にかつて幼い頃に交わした約束が思い起こされた。
幼い頃、景之よりも前に出会い、分かれていた男の子。
必ず帰ると約束し、入学式にその名前を見つけられず落胆した人。
それでも、諦めきれなかったヒト。
自然と、瞳が濡れていくのを感じた。
「
暖かな雫が頬を流れる。
次々と溢れる雫を拭う事もせず深愛は、真っすぐ自分へ視線を向ける少年を見つめていた。
そんな光景を、信じられないものを見る景之の様子に気付きもせず━━━━
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