6

 次は先輩の攻撃。

 センターサークルからダッシュしてきた先輩は一直線にゴールを目指す。

 俺は両手を広げ、走るコースを邪魔したが、目の前で進路を急に左側に変えられた。急な進路の変更に対応できず、振り返った俺はリングの真ん中を通るボールを見送ることしかできなかった。


「さすが嵐山高校バスケ部のエース! 完封もいけるぞ!」

「何をやってんだー。本気を出せ旭!」


 先輩には仲間らしい人からの声援が、俺には永一郎からのヤジが浴びせられる。


「あきちゃーん、いい調子なのー」


 祐乃がポンポンを大きく振り、声を張り上げるが、いい加減周りの女子に止められた。

 このたくさんのギャラリーの中、先輩に黄色い声援を送る女子は多数いるが、俺の応援をしてくれるのは彼女だけだったが、それも止められてしまった。

 このたくさんのギャラリーの中、俺を応援してくれるはずのもう一人、玲惟羅は腕を組み、静かにこちらを見据えている。不利な俺に特に焦った表情を見せてはいない。


 気を取り直しボールを持った俺は、今度は丁寧にゆっくりゴールに近づく。

 先輩が両手を広げて進路を遮る。彼に対峙した俺は一旦止まる。

 そして右へ行く、と見せかけて左へ素早く突進。

 ゴールの真下からのシュート。

 だが、ボールはリングを通らなかった。

 外したボールは先輩の両手に収まった。


 攻守交代。

 ハーフライン外からダッシュで攻撃を行う先輩、今度も背中を追うことしかできないず、ゴールのネットを揺らすボールをただ見送ることしかできなかった。

 なるほど、バスケット部のエースと呼ばれているのは嘘ではないらしい。

 センターサークル内でボールを持つ俺に、先輩は笑みを浮かべて言った。


「時間の無駄だ。ギブアップしてもいいんだぜ」

「女を賭けた戦いにギブアップとか無いっしょ」


 と、言い返したもののこちらが不利、完全に相手の手のひらの上だ。


 俺の攻撃。

 ハーフラインを超え、コートに進入した俺は大きくゆっくりと深呼吸をする。  ボールを右手の手のひらの上に、それを左手で落ちないように支え、そして全身のバネを使い、押し出すようにして約十二メートル先のゴールにむけてボールを放った。


 ボールは大きく弧を描き、リングを触ることなく静かに中央のネットに収まった。

 観客がどよめく。


「バスケのルールよく知らないけど、これ三点でいいんですよね」

「あ、あぁ」


 俺のスリーポイントシュートに先輩もあっけにとられた。彼がリングの下に陣取って、俺と距離をとっていたおかげでゆっくりボールを打てた。


「まぐれまぐれ、気にするなー!」


 先輩の仲間から再び声援が飛ぶ。

 次は先輩の番。ドリブルしながらゆっくりとゴールに近づく。

 俺は一応両手を広げ進路を妨害するが、さっと右脇を通り抜けられ振り向くすでにレイアップでゴールを成功させているところだった。


 俺の番。ハーフラインからコート内に入った俺は先ほどと同じように直接ゴールに向けてボールを放つ。三点シュート成功。

 これで計六点。先輩と同点になった。


 次の先輩の攻撃。相変わらず俺は先輩を止めることはできなかった。


 俺の番。センターサークル内で先ほどと同じようにボールを右手の掌に載せ、左手を添え直接ゴールを狙う、様に見せかけて、ボールをドリブルさせ猛ダッシュ。

 完全に気を抜いていた先輩が後を追うがゴール下でレイアップ。

 ゴール成功。


 先輩の攻撃。彼も俺をまねて、センターサークルから直接ゴールを狙うがボールはゴールまで届かず手前に落下。すかさずそれを俺が拾い攻撃終了。


 試合終了となる予鈴が鳴ったとき、点数は39対26。

 俺の勝ちだった。


 俺のスリーポイントシュートを織り交ぜた攻撃に、先輩は完全に調子を崩しミスを連発した。

 それに対して俺のスリーポイントシュートはミスしたのは一回だけだった。

 結果にうなだれる先輩。取り巻き連中も何も言わない。彼を応援していた二年生女子はさっさと体育館をあとにした。


「あらためて言うまでも無いがこの勝負、旭の勝ちじゃ。負けた場合の約束を覚えておるな。おぬしは今日から予の下僕じゃ。予の身の回りの世話ができることを光栄に思うが良いぞ」


 つかつかと彼に歩み寄った玲惟羅は、敗者にむち打つ様な言葉を容赦なく言い放った。

 下僕にする、というのは玲惟羅は冗談ではなく、本気で言っている。


 彼女は、先輩の携帯の電話番号とメールアドレスを聞き出し、自分の携帯電話に登録した。

 そこで初めて俺は今まで対戦した先輩の名前が田中臣弥だということを知った。

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