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こうして玲惟羅と学校に行くのは十年目になる。小さいときの玲惟羅は泣き虫で引っ込み思案で俺が毎日手を引いて学校にいっていた。しかし、今は本人曰く前世の記憶が戻って以来、先頭を一人で堂々と歩くようになった。
「旭みろよ、みんなが玲惟羅様を注目してるぜ」
永一郎が辺りを見回して言った。確かにはっきりジロジロ見ている人はいないが、ちらちらと視線をこちらに向けている人がいる。その視線の先は玲惟羅だ。
「人々から注目されるような主を持つ家来としてはと鼻が高い。玲惟羅様は最近一段とお美しくなられた」
確かに玲惟羅は美人だ、スタイルも良い。彼女の身長は女子の平均より高く俺より低い。スリーサイズもそこらのアイドルなど目ではない。町を歩いていただけで声をかけられたり、芸能事務所のスカウトから名刺をもらったりもする。
嵐川高校の女子の髪型に関する校則は、染め、脱色、パーマの禁止とだけ書いてある。つまり長さについては触れていない。
なので玲惟羅はこのまま切らずに伸ばすつもりだと言っている。
彼女の長髪はきっと似合うだろう。退屈な高校生活に一つ楽しみができた。
「ん?」
ふといやな視線を感じ、周りを見回した。
「どうした、旭」
「いや、なんでもない」
特に怪しいやつは見当たらない。きっと玲惟羅に見とれて邪な念を送ってくるやつだろう、気にするのはやめた。
俺たちが通う、嵐川高校まで徒歩で十五分くらいかかる。この学校を選んだ理由は単に家から近かったからだ。地元の幼稚園、地元の小学校、地元の中学に通い、高校も当然地元の学校を選んだ。しかし家から近ければよい、といっても嵐川高校は進学校でレベルもそこそこ高い。
なので同じ中学校からは俺や玲惟羅、永一郎も含めて六人しか入学しなかった。
「ところで永一郎」
「ははっ」
玲惟羅に呼ばれた永一郎が、腰を低くして前を歩く彼女の横に並んだ。
「例の件、調査が済んだか?」
「はい、全クラブ活動を調査した結果、対象とするのは手芸部がよろしいかと」
「手芸部・・・・・・、文芸部とかでは駄目なのかの」
「文芸部は現在六人在籍しています。人数は少ないものの、その中には賞を取った人物がいるなど積極的に活動しています。それに対して手芸部は実質二年生の女子が一人いるだけで、あとの四人は部を存続させるために名前だけを借りている状態です」
「ふむ、二年生一人だけなら与しやすいと言うことだな」
「左様です、玲惟羅様なら部の頂点に立つことなど容易かと」
「まずは仮入部して様子を見てみるのが良いかもしれん」
「それが良いかと思います」
彼女らが何を企んでいるのかというと、早く言えばクラブ活動の乗っ取りである。魔王を名乗り、世界征服を本気で考えている玲惟羅は、学校内での活動拠点を求めている。それにはクラブをつくるといいとは判断したものの、最近のマンガやラノベのように、なんのために存在するか分からないクラブの新設など事実上不可能である。
そもそもクラブが増えればその分全体のクラブでの活動費が減り、既存のクラブがいい顔をしないし顧問になってくれる先生もいない。そのため、事実上休止状態のクラブ活動を乗っ取ろうというわけである。
中学の時、玲惟羅はボランティア部というクラブを教師に押しつけられた。あとで知ったが実はそのクラブは学校側が用意した問題児を閉じ込めておく檻だったのだ。何しろ魔王に目覚めた小学校時代の玲惟羅は傍若無人で、金髪の悪魔と呼ばれていた。危うく警察沙汰になる事件も一つや二つではない。しかしそこでは学校側の意図に反し、本気でボランティアをしようとする普通の生徒の入部が相次ぎ、その人達を奴隷のように使い我が物顔で過ごした彼女はそれで味を占めたようだ。
しかし高校ではそんなにうまくいくだろうか。
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