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 学校に近づくにつれ通行人の中に同じ制服を身につけた男女が増えてきた。

 中には俺たちみたいに二、三人のグループで、おしゃべりながら登校してくる生徒もいる。始業には十分時間があったが、登校してくる生徒は多い。さすが進学校、授業が始まる前に予習でもするのだろう。


 嵐川高校は歴史が古い、と言っても校舎自体は数年前に建て替えられていて新しい。校舎が立て替えられたとき、この高校では大騒動が起きた。それは女子校から男女共学校へと変えることが前提だったのが原因だった。


 共学化に反対するOG達が連日駅前でデモ活動をやっていたのを覚えている。彼女たちは自分たちがどれだけ母校を愛しているか、そしてそこが持つ伝統がいかに未来へ残すべき宝で、共学化はそれを汚す行為であるかを訴えた。


 連日集団でシュプレヒコールをくり返し、道行く人達にビラを配り反対の署名を求め、ときには活動の場が駅前や学校周辺から離れ、街の中にまではいりこむこともあった。彼女たちは各家の呼び鈴を押し、対応した家人にも同じことを説明し反対の署名を求めた。


 うちにもスローガンを書いたはちまきを頭に巻いた、強気そうなおばさん達がやってきたのを覚えている。そのとき対応した両親が署名したかどうかは知らない。


 学校側は対応に苦慮したらしい。それは彼女たち自身が社会の中心で働いている人、もしくは名家に嫁いでいて、それをバックにした発言力が無視できない人達だったからだ。

 結局は少子化が理由で経営が苦しくこのままでは廃校になると学校側は説明し、彼女たちは母校がなくなるよりはと共学化の上の存続を呑んだようだ。


 あまり知られていないが、彼女たちOGを先頭になっていさめたのはそのときの嵐川高校の在校生だったと聞く。彼女たちは伝統を重んじるあまり学校が閉鎖的になっている、それを大事にするならば広く門戸を開き共学化で男子にもその教育を受けさせるべきだと説いたという。


 OGに負けず劣らず、在校生も気が強かった。まさに伝統ある学校教育のたまものである。そういえば生徒会は今も全員女子だという。


 そのときOGたちは共学化を呑む代わりにいろいろな条件を出した。今の理事長がこの学校出身者で女性なのは、このときの決まり事らしい。そのほかにも女子校だった名残で華道や料理等、女子に対する個別授業があり、弓道や長刀のクラブもある。


 新しくなった校舎は大きく二棟あり、一年から三年の教室がある普通棟と音楽室や理科室がある特別棟に分かれている。体育館も二つあり、第一体育館がバスケットボールやバレーボールなどができる普通の体育館。昨日の入学式もここで行われた。

 第二体育館の床の半分は畳が敷き詰められていて、合気道部と長刀部が主に使っている。ここは通称武道館と呼ばれている。

 校庭はサッカーと野球が同時に試合をして邪魔にならないほどの広さがあり、それとは別にテニスコートも四面ある。高校は大きな通りに面したところにあり、敷地の界を示すフェンスと、高校の長い歴史を表す大きな木々が周りを取り囲んでいる。


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