2
俺達の高校生活一日目が始まった。
やはり初日とあっていきなり授業をはじめる先生はなく、そのほとんどを自己紹介や自身の教育理念を語る事に費やした。
そして昼休みが訪れた。
教室の中の生徒はそれぞれ弁当を取り出す者、食堂、購買に向かう者に分かれた。
さらに弁当を食べる者も、それを持ち教室を出る人と残る人に別れる。
移動する人は知り合いのところへ行くのだろう。
小学校、中学校の昼食は普通机をくっつけ合って島を作り、班ごとに食事をする。お弁当持参なんて事は遠足ぐらいである。そのとき昼食はやはり班ごとに摂るが、その班は普段のとは違い好きな人同士で組んでいいよ、なんて言われることがある。しかし組む相手がおらずあぶれる人が出たりする。この高校の自由な昼食時間もそんな危険をはらんでいる。
「昼食一緒にするか?」と玲惟羅に朝方に聞いてみたのだが「心配無用」と簡単に返事をされている。おそらく同じクラスの女子とお昼して交流を深めるのだろう。
祐乃はどうだろう、昼食するを一緒にする相手はいるのだろうか。
あまり世話を焼きすぎるのもどうかと思い、朝会ったきり連絡を取っていない。
まあ、いざとなれば広瀬もいるし彼女がなんとかするだろう。
永一郎が、今朝玲惟羅から受け取った弁当入りの巾着袋を持って、俺の机までやってくる。
俺も彼のものとは色違いの巾着袋を鞄からとりだし、二人で机の上に並べた。そしてそれを間に挟み、立ったままお互いの顔をにらみつけ、構える。
「最初はグー! じゃんけーんぽん!」
俺はグー、永一郎はパー。俺の負けだ。
「じゃあ、僕はドクペね。早くしないとお昼時間終わっちゃうから急いで。ダッシュ! ダッシュ!」
「へいへい」
気軽に言ってくれるがここは五階で飲み物の自動販売機は一階にしかない。それとそのよく聞く割にはレアな飲み物は、ここの自動販売機に売っているのか。まさか外まで買いに行けと言うんではあるまいな。
売っていた。そのチェリー色の缶は自動販売機の見本部分に並んでいた。金額も受け取った金額でぴったりだ。どうやら事前にリサーチ済みで彼は適当に言ったわけではなかったようだ。
俺も自分用にペットボトルの冷たいお茶を買って、急いでまた来た道を引き返し階段を駆け上がった。教室に戻ると俺達とは違い飲み物を持参している人、それが不要の人達はもう食べ始めている。
俺達は机に向かいあって座り、巾着袋からそれぞれの弁当を取りだし開いた。弁当箱は二段重ねの細長い俵型の構造で、一段目は白いご飯のみで梅干しが一個真ん中に入っている。二段目にはおかずと簡単にサラダが盛りつけてある。
二人の弁当箱と箸は、色が違うだけで形、大きさは同じで、当然俺の弁当も、玲惟羅が作ってくれたものだ。
「うほ~うまそ~」
弁当箱のふたを開けた永一郎は感激して声をもらす。
「いただきます」
二人で手を合わせて合掌する。
「ん~。この卵焼き、甘さ控えめで僕好み。たこさんウインナーなんて遊び心がある。ご飯の真ん中には梅干し、野菜はトマト、セロリ、アスパラガス。ちゃんと栄養のバランスも考えられている」
永一郎は一口一口食レポしながら箸を口に運び、それを甘いジュースで流し込む。
「う~んいかんいかん、せっかく玲惟羅様手ずから作ってくださったお弁当、もっと味わって食べないと。しかしこのジャガイモの味がしみていること。さすが玲惟羅様」
残念、その肉じゃがは昨日の夕飯の残り、つまり俺の母さん製だ。
「ところで僕、今大事なことに気がついたんだが」
「なんだ大事な事って」
「ひょっとしてこのお弁当、今日だけでなく毎日作ってもらえるのかな?」
「そうじゃないのか? 俺と玲惟羅本人とおそらく母さんの分のお弁当も作ってるんだ、あと一人分作るのはたいした手間じゃないだろう」
学校が始まる前に玲惟羅と二人で新高校生活に必要なものを買いに行った。そのときに俺と永一郎と自分用の弁当箱その他一セットを買いそろえている。一日だけの気まぐれならわざわざそんな費用はかけないだろう。
「なんと! くぅ、この喜び。なんと表現して良いのだろうか」
彼は今にも踊りだそうだ。
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