第206話 猿一番

 現れたのはトーチカの様な鉄でできた要塞が2つ、機銃が突き出ている。そして伝説龍王ゴーリーキングに似たロボのような物体だ。


「あれは何?」


 紫乃がやってきて聞いた。お幸はトーチカのような物を見た事が無かったが怪しさ満点である、紫乃にも勝頼への伝言を頼み、すぐさま


「防御、壁よ壁、急いで。また真似された、来るよあのゴーリーもどきが。こっちは準備に時間がかかるから今は無理。寅松、小龍王ミニゴーリー使ってあの作戦で!」


 と叫び防御用の盾を設置した。この盾は通称 壁と呼ばれていて倒れないように後ろに支えが付いている。人が持たなくて良いため設置してしまえば隙を見て攻撃する事ができる優れものだ。


 敵のトーチカからは機銃が覗いている。兵が気付かずに近づいていたら酷い目にあっていたであろう。大砲様様である。武田軍が慌てる中、敵のゴーリーの目が光った。よーく見ると顔が全然違う。


「あ、あれは。龍じゃない、猿だ」


 と、その時猿が動き出して喋った。拡声器を使ったようだ。


「出動、猿・一・番」


 なんか変わったポーズを取っているゴーリーもどき、どうやら猿一番という名前らしい。猿一番の両肩にはバズーカ砲の様な砲身が乗っている。勝頼がここにいたらきっとこう言ったろう。『こっちがタンクで向こうがキャノンか。ならばこっちはダムだ、ん?ダム?そういえばダムって何だっけ?』


 オタクの話は長いので無視しましょう、気になる人はネットで調べてね!さてさて大阪城では秀吉が望遠鏡で猿一番が動き出したのを見た。


「武田め、龍はお前達だけのものではないぞ。天下を取るのは龍ではない、この猿だ。行けー、猿一番。武田軍を蹴散らせ!」


 それはさておき、寅松は敵の攻撃が来る前に小龍王ミニゴーリーを猿一番の足元へ移動させ猿一番に向かって原油を噴射した。それに気づかない猿一番の操縦士はそのままキャノンじゃあない、砲身から砲弾を発射した、その瞬間跳んだ火花が原油に引火し、猿一番は全身を炎に包まれた。秀吉は、


「そんな炎なんぞ屁でもないわ。鉄の身体に火は効かんぞ、な、何?」


 猿一番が倒れて動かなくなった。そう、機体は何ともなかった。ただ中に乗っている操縦士は熱に耐えられなかったのである。


 そんな攻略法があったのか、いや、あれは原油を持っている武田にしか出来ない攻撃方法だ。秀吉は悔しがったが、直ぐに気を取直し結末を右近に伝えに行った。


 右近は実験室に閉じこもっていたが、秀吉が来たと聞いて部屋をでた。


「右近。猿一番がやられた」


 秀吉は事の顛末を説明した。右近は、


「そうですか、そんな攻撃方法が。恐らく敵陣に操縦士上がりがいるのでしょう。。操縦士の事までは気が及びませんでした。完全に経験の差です、申し訳ありません。ですが、まだ城には沢山の仕掛けがあります。何人がたどり着けるか見ものです」


 と言って秀吉に実験の成果を見せるべく実験室内に案内した。


「殿下。武田の砲弾には螺旋状の模様が彫ってありました。これが飛距離を伸ばしている様で実験では2倍飛びました」


 螺旋状の模様か、ん?ライフルマークみたいなやつの事?あっ、そういえばアームストロング砲とかってそういう原理だった様な。


「右近。でかした。それじゃ。その模様こそが弾を遠くまで飛ばす秘訣ぞ!敵は城の外に集結しつつある。やつらをこの大阪城から砲撃してやるのじゃ。急げ、急げよ」


 そこに石田三成が現れた。


「殿下、右近。それがしは船で敵の大砲を近くで見ました。この様な形をしておりました。砲弾、砲身を真似れば同じ物が出来るのではと思い連絡に参りました。殿下、この後ですが」


「三成、でかしたぞ。右近、直ぐに制作にかかるのだ。さて、三成。海はどうなった?」


「申し訳ありませぬ。河口の敵の船は沈めましたがその船が邪魔でこちらからは海に出る事ができなくなってしまいました」


あやまった三成に対し、秀吉は褒めた。人を乗せるのがうまい秀吉ならではである。


「よくやったぞ三成。それは裏を返せば敵も海から城へ攻めては来れないという事。わしらは陸の敵に集中できるという事だ。それでだ三成。どうやら勝頼が城の門前に現れたようだ」


「ついに来ましたか」


「しかも続々と兵が集まってきておる。毛利や官兵衛はやられたのやも知れん。敵の動きを探れ、それと城の兵を指揮し敵を殲滅せよ」


 三成は大阪城の事は誰よりも知り尽くしている自信があった。あれを全部使えばたとえ兵が十万いようとなんて事ない。




 門の前では猿一番があっけなく撃退できて兵がなんだ、大した事ないなと気が緩んだのを感じたお幸が、


「今のは上手く行き過ぎた。敵の攻撃は甘くない、気を緩めるな。まだあの怪しいのが残っている」


 お幸は防御を緩めず兵を待機させ勝頼の指示を待つことにした。その勝頼だが信勝のところへ到着していた。


「信勝。義足が新しくなっているという事は使ったのか?」


「はい。勝昌にです」


「わしの不手際だ、すまん。勝昌に秀吉の手が回ったとしてもそれに乗せられてしまったのはわしの接し方が悪かったのであろう。辛い役目をさせてしまったな」


「父上。父上だけの責任ではありませぬ。私にも責任はあります。それに今は過ぎた事を語る余裕はありません。どう攻めますか?」


「そう急かすな。情報が足らんのだ。毛利は倒したのか?」


「はい。だいぶ兵を失いましたが昌景の奇襲が成功し忠勝が宇喜多秀家を討ちました。その後、助さんとあずみ殿が毛利本陣へ飛び込み毛利輝元を討ちました」


「何だと?助さんが自分で出て行ったのか?それで助さんは?」


「輝元を討った後、敵兵に。あずみ殿もお亡くなりに」


 その時、陣の外で音がした。同席していた信平が、


「誰だ?」


 と叫び見に行った。走り過ぎていく女の姿が見えた。その後、信豊、真田昌幸の状況を聞いていると紫乃が現れた。


「大御所、今桃がものすごい顔をして走って城へ向かいましたけど何かありましたか?」


 そうか、さっきのは桃か。あずみが死んだ事を聞いたのだな。勝頼は紫乃からトーチカとゴーリーもどきの事を聞いた。秀吉め、トーチカとは考えたな。防御には最適じゃん。勝頼は柴乃にすぐに戻るように指示を出した。


「腹は決まった。戦国飛行隊、高城兄弟はわしと一緒に船へ戻る。お幸は真田と共に門から攻めてくれ。それと昌幸に早く終わらせて城攻めに加わる様。半蔵、いるんだろ?」


 どこからか服部半蔵が現れた。だいぶ疲れているようだ。


「おお、半蔵。だれか、半蔵に湯漬けを、あとかつよりんZもな。半蔵、少し休んで行け。でだ、戦況次第だが直政に海軍を任せる海軍にもまだ戦える者は残っている。直政には三千の兵を預け河口から城を攻めさせろ。それと直江兼続に伝言だ」

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