第204話 助さん死す

 宇喜多秀家は信勝本陣の側面を突こうと走る兵とともに馬上にいた。そこに本田忠勝の兵が立ち塞がった。双方走って来ていたため鉄砲隊や弓矢隊はまだまだ後ろにいる。と、そこに突然どこからか銃弾と矢が降り注いだ。


「なんだと!」


 宇喜多秀家は周りの兵に守られて無事だったが多くの兵が死傷した。林の中から赤い軍団が現れた。それを見た忠勝は、好機!と叫び、自らが槍を振り回しながら宇喜多秀家に向かって突き進んだ。それを見た赤い軍団は、宇喜多軍の後ろ側に狙いを付け飛び道具を撃ったあと、突っ込んでいった。そう、潜んでいたのは山県昌景の部隊だ。勝頼の命令でもし信勝本陣が危うい場合は横から強襲する予定だったが、宇喜多が迂回した事を知りここで待ち受けていたのだった。


 宇喜多秀家軍は走って移動して来たので一万の兵は広がってしまっている。ここにいるのは先を急いで走った三千程だ。そこに山県昌景率いる赤備え五千が横から割り込み後ろを抑えられた。前からは本田忠勝三千が攻めてくる。宇喜多秀家はしまったと思った時には目の前に鬼がいた。旗本が間に入ろうとしたがそんなの関係ねえと槍を一閃、宇喜多秀家は本多忠勝に討ち取られた。


 山県昌景は後ろからどんどん進んでくる宇喜多兵を倒しながら前進した。大将を失った宇喜多軍は散り散りとなりいつのまにか一万の兵はいなくなっていた。本田忠勝はここはよし、と兵を連れて元来た道を戻り始めた。信勝が心配だったのだが、戻った時には本陣が無くなっていた。


「上様、上様はどこに?」


前方に土煙が見えた。もしや攻め掛けたのかと慌てて本陣を追いかけた。





 その信勝軍は残り六千となっていたが毛利軍残り一万を追いかけた。勢いは信勝にあった。最後尾からは風林火山の旗のもと、信勝自らが騎乗し進んできている。助さん、あずみは手筒を持ち時折爆竹を毛利陣に放り込む。音に驚き慌てたところを武田兵が斬り倒す。一方的な蹂躙だった。毛利輝元のもとに報告が続けて入る。なんだ、なんでこうなった?もう少しで信勝の首を取るはずが味方が逃げ回っているだと。伝令を飛ばし、陣形を改めて組ませた。毛利輝元も馬に乗った。毛利陣から太鼓が連打された。総攻撃の合図だ。


 立て直した毛利軍と武田軍は正面からぶつかった。武田軍は温存していた戦力で疲労している兵が少ないのに対し、毛利は半分の兵が疲弊していた。この場の人数はまだ毛利が優っていたが、ほぼ互角であったといえよう。武田からは旧今川勢が前面に出て戦っていた。もう飛び道具はお互いに残っていない。槍と刀の勝負だった。一時間程経過し双方消耗が激しくなり、戦場の所々に隙間ができていた。そこを狙って吉川広家が200の兵とともに武田本陣を突いた。


 本陣には300の兵しか残っていなかった。皆攻撃に参加していたのだ。そこを突かれ本陣内で揉み合いになった。吉川広家はあちこちを斬られながらも信勝に向かって馬に乗ったまま突っ込んできた。信勝は槍を持った。馬が向かってくる瞬間、横に飛び槍を振るった。


「武田流槍術、水仙花」


 広家の首が飛んだ。勝頼は剣術に優れるが、信勝は槍術の方が得意だ。特に義足になってからは近接戦闘の刀より槍術に磨きをかけた。自己流だったが、忠勝に基本を改めて教わり自らの型を作り上げ、さらに鍛錬を積み重ね今では忠勝に並ぶ槍使いだ。信勝はそのまま本陣内の敵に応対し退けた。


同じように毛利の本陣にも隙ができ仕掛けた者がいた。助さんだ。


 助さんの両肩の上には何やら小型飛行機のような物が浮いている。助さんの両手には雪風改が握られており操縦してはいないようだ。助さんは向かってくる敵を拳銃で倒しながら本陣へ侵入した。


「何者だ!」


 毛利陣の兵が斬りかかってくるのを冷静に銃で撃ち殺す。また、どこからか苦無が飛んできて兵を倒している。陰ながら助さんを守っているようだ。そう、飛行機を操縦しているのはあずみだった。空中に浮かぶ飛行機が不気味で本陣内の兵の動きが止まった。


「武田勝頼が配下、百田助蔵と申す。毛利輝元殿、ご覚悟を」


 助さんの声と同時に飛行機が毛利輝元に向かって飛んでいった。それを見た周囲の旗本がお逃げくださいと叫びつつ輝元を庇い飛行機を斬り落とした。飛行機には原油が積まれており旗本は火に包まれた。もう1つの飛行機が輝元の近くまで飛んだのを見た助さんは銃で飛行機を撃った。毛利輝元は火にまみれ焼死した。


 助さんはすぐさま反転し逃げようとしたが敵兵に斬られた。隠れていたあずみも討たれた。輝元を欠いた毛利軍だが影武者が現れ戦闘が続いた。一時間後、山県昌景の軍が追いつき毛利軍は殲滅させられた。休んでいると本田忠勝も追いつき、総勢一万の軍となった。信勝は、


「昌景、大義である。よくぞ追いついてくれた。だいぶ兵を失ってしまったが、毛利を倒す事が出来た。皆の働きのお陰だ。礼を言う」


「上様。大御所が城へ向かっておりまする。軍勢を整えた後に城の近くまでお進み下さりませ」


 信勝は負傷者の治療をするよう指示を出し、兵に食糧を配った。一息ついた後いよいよ大阪城だ。そこに消沈した茜が現れた。


「茜様、どうなされた。宇喜多、毛利を討ち取った。大勝利ですぞ」


「上様。その毛利輝元を殺したのは助さんとあずみさんです。お二人共還らぬ人に……」


「そうであったか。茜様。少し休んで下され。まだ大戦が残っております。勝って駿河に、いや高遠に墓を建てましょう。格さんの隣に。あずみさんのは伊那の里の悟郎の隣に」


信勝は改めてこの戦で死んでいった者達に感謝しつつ誓った。もうすぐ終わらせる、平和な世の中にすると。





 信勝軍の前には本田正信軍三千が居たはずだが姿を消していた。対峙していた伊達軍は兵が三千まで減っていた。焦っていた伊達軍は無理攻めをし、正信軍にいいようにあしらわれたのだ。その正信軍は伊達軍が攻め疲れたのを見て大阪城の方へ向かったという。伊達小次郎は信勝軍に合流した。


 信豊軍と加藤清正軍の戦いは続いている。背後から迫る真田軍が勝敗に影響しそうだ。

 そして信平軍は大阪城に向けて進軍し、佐々成政と合流した。

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