第203話 ここが機ぞ 進め信勝
毛利輝元は軍を前進させた。武田は蜂矢の陣を敷いているようだがすでに第3陣まで崩した。このまま押し切れば勝利は確実だ。宇喜多秀家は一万の兵を連れて駆け足で西側へ兵を向けた。一気に弧を描き武田本陣を側面から突く作戦だ。その動きは武田に読まれていたがそんな事は関係ない程の戦力差があった。
武田の4陣の前衛にもマシンガン
「そうか。何回も使えば対策取られて当然だな。おい、半蔵はいないのか?」
答えたのは茜だった。
「半蔵様は信平様のところへ行っておられます。ご用なら私が」
「これは茜様。ぼちぼちここも危なそうです。船に残っている武器は何か聞きたかったのです」
信勝は祖父信玄の愛妾だった茜には敬語を使う。勝頼がやめろと言っても聞かない。結構しっかり者だ、勝頼失踪時の苦労が信勝を成長させていた。
茜は助さんを呼んだ。
「百田でございます。お久しゅうございます」
「助さん。来ていたのか。父上のところにいると思っていた」
「私は戦になれば役立たずですのであちらにいても邪魔になるだけです。目ぼしいものは大御所が持っていってしまいましたが、船に残っているもので急遽改造した物をお持ちしました。使い方はそれがしが指導しますので。陸軍メンバーは残ってますか?」
「陸軍というと昌幸のところだな。何名かおる」
「お貸しください。それと、上様の足ですがこれと交換しますので」
「お、これは。なんか前のより凄くないか?」
「万が一です。もし危険を感じたら作動させて下さい」
「今度は何が出てくるのだ?」
「それはその時のお楽しみで。ただ使う時の来ないことを祈っております」
「おい、ってなんだ、もういないではないか。全く父上の周りはあんなのばっかだ」
信勝は文句を言いながら笑顔になった。他人まで笑顔にするとは見事な物だ。笑顔が一番の助さんか。良く言ったものだ。
助さんは4列目の後ろにいた。ここからは千名の兵が縦に4列、5列目が信勝本陣だ。ここまで敵兵が来たら後は残り五千名という事になる。敵は読み通り分散したようだ。それでもここを攻める兵は一万五千近くいるだろう。まともに戦っては勝ち目はない。
「まともに戦えばだがな。まともに戦うわけないじゃろ」
助さんは残り物の武器で突貫で制作した武器の数々を用意させた。
「どのくらい削れるかの?敵が油断しててくれるといいのじゃが」
吉川広家は毛利軍前衛にいた。味方の兵もだいぶ減ったが武田兵は同じくらい減っている。となれば兵の数が多いこちらが勝つ。何回か敵の連発銃にやられたが防御に徹すれば防げる攻撃だ。脅威ではあるし、気を抜けば一気に敗勢になる危険は残っている。油断しないよう兵に重ねて伝え前進していた。
武田の4列目も風前の灯だ。だが、一気に行くと連発銃を食らう危険がありゆっくりとしか進めない。また武田軍で法螺貝がなった。また合図だ、今度は何だ?
4列目の兵が引いていった。何ださっきと同じではないか。吉川広家は兵に追いかけさせず盾を構える指示を出した。また連発銃が待ち構えているのであろう。同じ策とは武田も芸がない。
と、タカを括っていたが、一向に銃の音がしない。と、その時突然前衛陣の後ろで爆発音が鳴り響いた。
『バン、バババババン、バン』
大きな音ともに小さな火花が散っている。が、被害はない。
「何だこれ?ただの脅しではないか」
兵は武田の武器が尽きてこんなおもちゃしか残っていないのかと考えた。吉川広家も同じ考えだった。どうやら弾切れのようだ。これなら宇喜多が着く前に我らで信勝の首が取れるのでは、と欲が出た。
再び武田陣から何かが飛んできて同じように音を立てて爆発した。これも脅しだ。何だこんなもの、と吉川広家は全員突撃の指示を出した。毛利輝元本陣の千名を残し突撃が始まった。
武田陣から発射された音のするもの、そう現代で言う爆竹である。これは助さんが幼き勝頼に言われ実験で作った試作品だ。この爆竹から武田の色々な兵器が産まれたと言っても過言ではない。助さんは続けてボーガンから桜花散撃を手前側に、桜花散撃改を後ろ側に続けて発射した。船から持ってきたのは各30発。これでここにあるのは打ち止めである。
毛利軍は空の警戒を怠った、というか舐めていた。もうおもちゃしか飛んでこないと決めつけてしまっていたのだ。そこに飛んできた本物の手榴弾。後ろ側には爆発とともに苦無が飛び回り、前衛にはマキビシがばらまかれた。マキビシを踏んだ兵はあまりの痛さに鉄の盾を放り投げた。
そこに突然飛んできた巨大な刃に兵が斬られた。大型のボーガンから
「全弾撃ち尽くせ。撃ち終わった後全軍突撃、毛利を討つぞ」
助さんは叫び両手に拳銃雪姫改を持ち自ら出撃する準備を始めた。いつのまにか横には茜とあずみがいた。
「助さん。私達も行きます。いいですね」
「死ぬ時は美女と一緒にと思っていたが、夢が叶いそうですな。参りましょう」
「待て!」
「えええっ、上様。まさか」
「余も行くぞ。後ろからだがな。本陣毎毛利に突っ込む」
「い、いや、上様。流石にそれは。上様に万が一の事があったら忠勝様に我らが殺されます」
「良くいうわ。今お前達死ぬ気だったろう」
「我らは長く生きすぎました。ですが上様はこれからの時代を作るお方。それが、ーーー」
「わかっておる。だがな、まだ敵の方が兵が多い。今が機ぞ、余が後ろからでも攻め上がってこそ兵の士気が上がる。ここを逃しては勝利は無い」
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