第151話 相良城

 二ヶ月がたった。前田利家は大阪城に報告に来ていた。黒田官兵衛は姫路城に戻っていて不在だったが、本多正信が同席していた。


「利家殿。孫の顔でも見に来たのか?可愛いぞ、秀頼は」


「殿下。この度の戦、戦功をあげれず申し訳ありません」


「信平を仕留め損なったようじゃな。槍の又左も老いぼれたか。佐々成政も元気そうだしな、目障りな事よ」


 そこに正信が口を挟んだ。


「室賀一族は滅亡。猛将馬場美濃守も葬りました。武田の勢力を削っております。まずまずの戦であったと。そうそう、馬場美濃守を討ち取った石川数正が面通りを申し出ております」


「後で会おう。武田の情報は少しでも欲しいのでな。で、次はどうする。余の寿命もあと10年あるかどうかであろう。目の黒いうちに武田を、あの勝頼めを八つ裂きにしておかねば秀頼が苦しむ」


 もう一人の秀吉は歴史には詳しくなかったが、その位で死んだよ、と言っていた。死ぬ前にもう一人くらい子を作りたいので励んでいるが一向にできない。武田商店から『かつよりんZ』を買って飲んでもダメだ。


 秀吉は前回飲んだのが、武田忍び用の濃縮版で市販の物が10倍希釈版という事を知らなかった。まあ飲んだからといって必ずできるものでもないが。


 余談だが勝頼は更に子を3人増やした。信勝の子は男子2人。跡取りに心配のない武田家と秀頼頼みの豊臣家。秀吉が焦るのも無理はない。


「戦の始末を武田に問います。今回の戦は全て武田領で起きた物。前田様は殿下の命で鎮圧の手助けに行かれたのです。前田様が事を大きくせずに引き上げられたのは見事な采配であったと考えます」


 本多正信は前田利家をたてた。今は身内を責めている場合ではない、どうやって武田の戦力を削るかだ。今まともに戦っては殿下に勝ち目はない。武田は強すぎるのだ。この大阪城で戦えば20年は持つだろうが殿下の寿命が尽きる。もっと戦力を削らねば。


「この大阪城に武田が来ると思うか?来たとしても関白が将軍を暗殺はできんぞ、民が許さん」


「殺すなら道中ですな。尾張がよろしいかと」


 利家は正信の言葉を聞いて背筋が寒くなった。尾張で殺す?何て事を考えるんだこやつは。黒田官兵衛はずる賢いが残虐ではない。こやつは違うタイプの軍師だ。先程は助かったがこの正信という男を今後どう見ていくか、利家には新たな問題だった。織田信忠の顔が浮かんだ。少し前までは主筋だったはずなのだが。そうか、いずれ戦うのだろうな。


「で、どちらを呼びつけるのだ。筋からいえば信勝だが」


「勝頼は表向きは隠居した身、今の将軍は信勝です。武田領内で戦が起きた、その不始末を問う以上、信勝でしょう」





 利家退出後、石川数正と会った。


「殿下。こちらがあの馬場美濃守を討ち取った石川数正殿です」


「大義であった。面をあげい」


「石川数正にございます。殿下にお目にかかれまして恐悦至極にございます」


 うーん、暗い男だのう。武田の情報を取ったら使い捨てだな。まあこの場は適当に、


「よくぞ参ってくれた。あの猛将、馬場美濃守を討ち取るとは見事だ。この関白、石川殿には感謝しておる。武田を打ち倒した後は三河と遠江をそなたに任せたい。そこの正信とは旧知であろう。武田の事を色々と教えてやってくれ」


 2人が退席後、城内の国友村改め、豊臣研究所に行きある男と密談を行う秀吉であった。






 その頃、前田慶次郎は井伊直政を使い相良城を建てていた。相良油田を守るには諏訪原城では少し遠い。掛川城、高天神城からも遠いためだ。場所は勝頼に聞いたら


「ここだ、ここ掘れワンワンだ」


 と城でない場所で何やら訳の分からない事を言っていたが、とにかく場所は決まった。周辺の山に砦も設け入り口には昔あった村を拡張し、堀を設けた陸、空の防御に重点を置いた。武田の新兵器はここの原油に頼るものが多い。一度襲われているため、周囲の村人の住民台帳を作り、よそ者が入り込めないようにし、関所も設けた。


 ちなみにここ掘れワンワンと掘ったら温泉が出た。近隣で働く者達の憩いの場となり、情報交換もされた。川に見慣れない船頭がいた、薬売りが来た等不審な動きはすぐに城に伝わり、隠密裏に全て排除されていた。


 諏訪原城に服部半蔵が来た。勝頼の伝令である。


「前田様。上様が大阪城へ行く事になりました。此度の武田領内の戦を弁明しろと関白殿下に言われたそうで。大御所から前田様と井伊様に同行するようにとの事です」


「そうですか。またあの猿顔を見に行けと。しかし、他にいそうなものですが、それがしですか?」


「おわかりでしょう。前田様お気に入りの桃も行きますよ」


 護衛という事か。やれやれだな。


「であればお願いがあるのですが」


 慶次郎は勝頼への伝言を頼んだ。高さんの同行をだ。それと、桃と事前に相談したいと頼んだのだが、半蔵が帰った半刻後に桃が現れた。


「慶次郎様。お呼びですか?」


「お早いお着きで」


 早えよ!さすがは武田の忍び。慶次郎は桃が伊那忍びの次期頭領という事を思い出した。


 慶次郎はある事が気になっていた。信勝が襲われる事は間違いないが、忍びの目で攻めるならどうするかを聞きたかったのである。


「知りたいのは、桃殿ならどこでどう仕掛けるかだ。囮も出るだろう。油断させる策も取ってくる。配下を連れて事前に調査してもらいたい」


「承知しました。先程半蔵様から聞いたばかりですよね。何でそんなに直ぐに思いつくのですか?」


「それが武士モノノフだ。というのは冗談でな。ずっと気になってる事があって、どうも今回の件と繋がっている気がするのだよ」

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