第150話 格さんの最後
格さんは室賀正武から見て左手側にある林の中にいた。手には何か操作する道具を持っている。そう、世界初のラジコン飛行機だ。小型のガソリンエンジンを搭載した物で、50mまでは操作できる。
銃撃音、兵の叫び声で横から近づく小型飛行機に室賀は気付かず、突然兜にその飛行機が激突した。
「うわぁ、熱い」
室賀は馬から転がり落ち火だるまになってしまった。飛行機から油が頭にかけられ、火花で引火したのである。
「してやったり。これで信平様は大丈夫じゃろ」
室賀は燃えながら林の中の格さんを見た。知らぬ顔だったがあやつが犯人だと指を指して死んでいった。室賀の部下は慌てて持っていた水をかけたが火が広がり被害を増やすだけだった。室賀の指差す方を見て、
「敵だ、敵がいるぞ!」
格さんは逃げようとしたが、追い詰められ斬られた。
「助さん、後を頼む」
空に向けて叫びながら死んでいった。少し離れたところの木の上にいた木村吾郎は泣きながら自陣へ引き上げた。そして戻るなり室賀軍に向けて
室賀に近い者たちは室賀の里にいた。矢沢頼康が到着した時、全員が腹を切った後だった。先祖代々の地で死ねたのか、同じ小県の国衆仲間だった室賀の滅亡を頼康は悲しんだ。
木村吾郎は残りの兵を集め藤井城へ向かおうとしたが、前田軍が行く手を塞いでおり信平との合流を諦めた。兵を上田に返し、忍びの者は報告に各地に走らせ、自分だけで信平を追った。
その信平だが、越後から出てきた直江兼続軍一万、蘆名信繁軍一万と合流することができた。信繁は真田の忍びによる情報網からこの展開を予測し、上杉勢に同行していた。越中は加賀方面のあちこちから前田軍が攻めてきていた。
「信平殿とお見受け致します。我が主人、上杉景勝の命により直江兼続、参上仕りました」
「信平様、源二郎です。覚えていらっしゃいますか?只今参上致しました」
「上杉様のご厚意、かたじけなく存じます。そして蘆名様、遠路のところありがとうございます」
源二郎は今は蘆名のお屋形様、流石に源二郎とは呼べぬ、と思ってたら、
「兄上!」
「おお、源二郎、久しいのう。立派になって」
真田兄弟の再会である。
「信幸、無礼であろう。蘆名のお屋形様だぞ!」
「信平様。いいのです。蘆名を継いだとはいえ、源二郎は源二郎です。武田家は主筋、信幸は我が兄」
信繁は久しぶりに会えて上機嫌だった。見かねた直江兼続が、
「感動の再会はそこまでにして頂きたい。我らは信平殿をお守りするのが役目。この先どうされますか?」
信平は自分を逃す時の佐々成政の顔を思い出した。
「佐々様は死ぬ覚悟だ。この信平を逃がすために国を上げて応じてくれた。何とか助けたい」
蘆名信繁は、得た情報から持論を述べた。
「父上と叔父上が動いていると情報が入っております。この者は川上左之助といい、元真田の忍びで今はこの信繁と真田家を繋いでいる者ですが、左之助によると前田利家を牽制するために既に出陣しています。恐らく前田は兵を引くでしょう。今回の戦の目的は信平様のお命です。それが叶わぬ今となっては戦を続ける意味はありません」
信平は源二郎こと蘆名信繁に説得され越後から信濃に戻った。源二郎の予想通り、前田利家は真田軍の動きを知り越中から引いていった。戦のきっかけを作った肝心の盛信は前田利家の元へ行ったようだ。源二郎は上田城へ寄り、そして岡崎城へ向かった。直江兼続は越中の後始末に協力という名目で前田利家を牽制している。
その岡崎城では、石川数正が籠城していた、はずだったが勝頼が到着した時には城から脱出していた。
「気に入らん。いいようにやられてる」
勝頼が岡崎城に入り三日経った。本多忠勝は南信濃を苦労なく平定した。上田から兵として出陣していた領民が戻るまで留まるそうだ。信平も無事だったようだ。そこに格さんが戦死したと伊那の者から連絡があった。
「そうか、世話になった。格さんがいなかったらトンデモ兵器はできなかっただろう。骨をな、諏訪の工場跡に埋めてやってくれ。事が片付いたら墓参りに行くよ。助さん、お幸、玉さんにも伝えてやってくれ」
勝頼が子供の頃から一緒に戦ってきた仲間が一人死んだ。信平を守ってくれた。格さんを勝頼に付けてくれたのは信玄だ。あんなに才能のある人が何で諏訪の田舎に居たのだろう?今まで疑問に思わなかったが、信玄がおかしな子供の夢を叶えるために苦労して見つけてくれたのかもしれないな。
感傷に浸ったのは半刻、すぐに切り替えた。
報告によると頼んでいたラジコンは成功したらしい。敵に近づかないと操作出来なくなる欠点ありか。ドローンみたいに飛ばして大阪城ぶっ飛ばすのは流石に無理そうだな。無人攻撃は無敵なのだが、操作している人が殺されては意味がない。自称リケジョのお市に相談するか。
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