第152話 信勝、本能寺の真相を聞く

 二代将軍武田信勝は江戸城を出て大阪城に向かった。途中、駿府城により勝頼に会い、諏訪原城へ寄るように言われた。駿府城からは、戦国飛行隊の4人が護衛としてついた。諏訪原城では前田慶次郎が待ち構えていた。


「上様。お待ちしておりました。大御所から一緒に大阪へ行き秀吉に会うよう言われております」


「大御所から聞いた。すまぬが頼む。お主はどこだと思う?」


「帰りでしょうな。大阪城でどんな話になるかにもよりましょうが、無理難題を言ってきて上様がそれを蹴って、帰り道に何回か襲撃され尾張へ入ってホッとした時に上様が討たれる、というところかと」


「おいおい、余を殺すな。大御所の予想もそんな感じだ。何度も仕掛けてくるだろうと。何度か撃退して油断した時が危険だとな。ただその一度一度が本気で殺しに来るぞと脅されたよ」


 信勝は幼少期、川根にある伊賀村で過ごした。忍びの心得もあるし、勝頼ほどではないが武芸も得意だ。数の暴力と飛び道具以外なら何とかなるのだが、まあ飛び道具だろうな。こればっかりは防ぎようがない。


「桃、茜殿から聞いたがまた訓練してるらしいな」


「上様、よくご存じで。でも今回は出番ないですよ。あれは城攻めか平地での戦でないと使えません」


 今度のは勝頼、お市の合作らしい。何が出てくるやら信勝ですら教えてもらえていない。


「その後、沙沙貴彩の情報はないのか?」


「黒田官兵衛についているようです。遠い親戚だそうで。大崩や相良油田が襲われたのは沙沙貴のせいでしょう」


「だが、大御所の機転で移動後だったから被害はなかった。なんかスッキリしないのだが、大御所は襲われる事を知っていたような?」


「沙沙貴が消えた時点で大御所は直ぐに動かれていました。経験の差では?」


 痛いところをつく。大御所の子飼いの連中は遠慮がない。大御所から信勝を鍛えるよう言われてると聞いてはいるが、なかなか厳しい突っ込みが多い。


 戦国飛行隊の4人に聞いた。


「大御所は格さんが亡くなって落ち込んでいたよ。余はさほど交流が無かったがお主らはどうなのだ?」


「私達は伊那の出ですので、子供の頃から可愛がってもらいました。格さん、助さんが作る兵器を使いこなさないといけなくて。そうそう、最初の甲斐紫電カイシデンは酷かったんですよ。空中でくるくる回っちゃって、何回死んだかわかりません」


「生きてるじゃん。それは紫乃だけで、他の3人はそこまで酷くは無かったですが、最初はなかなか上手くいかなくて。試行錯誤の繰り返しでした。助さんはすぐに落ち込んでしまって、それを格さんが慰めて。格さんの助言がいつも的を得ていて助さんが関心してました。私達よりも助さんと、あとお幸さんが酷く落ち込んでます」


「黄与の言うようにお幸さんが。楓さんが死んで格さんもって。格さんは元々は薬師だったそうで、かつよりんZの考案者だそうです。頭領と5人で大御所の子供の頃にお仕えしていた話は耳が痛くなるほど聞かされていて、次は私の番だってお幸さんが」


「紅。歳で言ったら次はうちの父の番だよ。あれ?助さんとどっちが歳上?」


 暗くなったが桃のボケで場が和んだ。慶次郎は桃っていいなあと改めて思った。






 信勝は大名行列のようにして千名の兵を連れて大阪へ向かった。周囲は伊賀、伊那、真田の忍びが警戒し、敵の忍びが近づけないようにしていた。


 浜松、岡崎を通り清洲城で織田信忠に会い、岐阜へ向かった。岐阜城は武藤昌幸が治めている。そして長浜で真田信綱に会い、近江を抜けて京へ入った。途中朝廷に寄り、金銀、金目鯛の干物等駿河の名物、北条に作らせている蒲鉾、そしてかつよりんZを奉納した。


 そして太閤となっている近衛前久に会いに行った。


「太閤様。武田信勝でございます。お久しゅうございます」


「よく参られた信勝殿。まあ関白に呼ばれたから来たのであろうが。ずっと上洛しなかったのにどういう心変わりだ?」


「申し訳ありません。なかなか機会がなく上洛出来ませんでした。ところで太閤様は関白殿下をどう見ておられます?」


 信勝は、近衞前久と秀吉の関係にヒビが入っている事を確認したかった。武田家は朝廷を敵にまわす気はない。ないのだが、秀吉が関白では近づけない。いや、近づきたくない。


「関白は好き放題やっとるよ。堺、そして石見銀山を抑えたのが大きいのだろうが金、金、金だ。大阪城へ行ってみるといい。驚くぞ」


「武家の棟梁であるこの信勝に西の武将はほとんど従いません。この東西に別れた状態を太閤様はどうお考えでしょうか?」


「公方は知っているか?本能寺の変がなぜ起きたのか?」


「………」


 近衞前久は、本能寺の真相を話し始めた。本能寺は勝頼失踪時に起きた。信勝は本能寺が起きる事はお市から聞いて知っていて当日は堺へ逃げた、がなぜ起きたかは知らない。お市に聞いたがわからなかった。


「朝廷の意思だよ。織田信長は六角、三好を追い出し義昭を公方にした。ここまでは良かった。余もこれで世の中が落ち着くとほっとしたものだ。京の町が戦で焼かれる事も無くなるとな。ところが信長は自らが天下を取ろうとした。まあそれは構わん、朝廷は誰が治めようと世の中が落ち着き金が入ればいいのだ。比叡山を焼き、石山本願寺も落とした。仏をないがしろにし、朝廷さえも軽くあしらい、この国が自分の物のように振る舞い始めた。朝廷は信長を危険と考えたのだ」


「朝廷の意思というのは太閤様の御意思では?」


「それは違う。いや、違うとは言い切れないな。そうかも知れん、だがあの時は朝廷全体に信長排除の空気があったのだ。だがな、おかしいのだ。なぜあんなに信長を憎んだのか?今から考えれば信長は朝廷を軽く見てたとはいえ帝を重んじていた。ああ見えて礼儀正しい男だった」


 信勝は、太閤が何が言いたいのかわからなくなっていた。明智光秀が謀反を起こした話はどこへ?

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