第146話 きっかけ
佐々成政は柴田勝家に従って越中を治めていた。賤ヶ岳の戦いの後、裏切り者の前田利家が能登、越前、加賀を治めた時、利家と敵対した。成政は昔から秀吉とはうまが合わない、というよりあんな成り上がり者に頭を下げる気はなく、勝頼を頼り上杉と和解していた。
前田利家も新領地の経営に忙しく、また秀吉から仕掛ける事を禁じられていたので佐々成政の事は放っておいた。
武田五郎盛信。勝頼の異母弟だ。勝頼が失踪した際に、秀吉にそそのかされて信勝に逆らい独立し武田を名乗った。秀吉は、勝頼がいないのなら味方すればいずれ武田を正式に継がせてやると騙したのである。秀吉は穴山、盛信双方に武田の名を継がせるといって味方になるよう語りかけ武田陣営を混乱させた。結局、勝頼は戻り、穴山は滅んだ。
盛信は話が違うと秀吉に詰め寄ったが、『待て、その内に余が関白になり流れが変わる。勝頼を滅した後はお主に甲斐、信濃、駿河を与える』と機会を待ち指示に従うよう命じていた。
秀吉にとっても盛信にとっても勝頼が戻るのは誤算、戻った後あっという間に武田をまとめたのも誤算だった。
そして官兵衛、本多正信の策で、このタイミングを狙って佐々成政に仕掛けさせたのである。
「武田の身内が戦を始めた。武田は国を乱し始めた。将軍へ伝えよ、どう始末をつけるのかと」
秀吉は大阪城で石田三成に指示した。三成は、
「関白の名を持って征伐したらいかがでしょう?」
「それは将軍の務めであろう。手に余るというなら余が出るがな」
石田三成は家老の島左近に相談した。島左近は、筒井順慶に従っていたが順慶のやり方についていけず筒井家に暇を貰い浪人になっていたところ、三成に拾われた。この時、石田三成は6万石しか持ってなかったが、半分の3万石を島左近に与えた。それだけの値打ちがあると評価していたのである。
「左近、どう思う。殿下は何を企んでおられるのか?」
「恐らくですが、殿下は武田家を滅ぼすおつもりではないかと」
「五郎盛信が仕掛けたのは殿下の策だというのか?今、この国は戦がなくなり見た目は平和になったように見えるが、東と西では見えないところで火花が散っている。将軍は一向に上洛しない、まるで東と西で別の国のようだ。武田が邪魔なのはわかるが」
「殿は正直すぎます。戦に勝つにはずるい考えが必要です。殿下はこの後、武田に仕掛けるでしょう。最近お側にいる本多正信なる者の策では?」
「あの輩はどういう男なのだ?わしとはウマが合わん」
「元々は徳川の家臣だったとか。徳川を離れ一向一揆に味方していたようで、全国の情勢に詳しいそうです」
石田三成は、半年前に駿府城、江戸城を訪問し勝頼、信勝と会った。西の関白、東の将軍という支配が続く中の表敬訪問である。勝頼は三成の来場に大喜びで自ら城下の案内や温泉に同行し歓迎した。
信勝は将軍の風格が出ていて、関白殿下によしなにとお土産を沢山貰って大阪へ戻った。三成は武田に好意を持った。
だが、大恩ある秀吉は武田に仕掛けようとしている。せっかく世が平和なのにだ。納得はできなかったが秀吉に従うしかない。
信勝に文を書き、関白殿下の意向を伝えた。
信勝は駿府に来ていた。茶々が妊娠し、駿府で産みたいというので里帰りしていたのだがぼちぼち産まれそうという事で急遽馬を飛ばしてやってきたのである。
到着早々勝頼に呼び出され、盛信が動いた事を聞かされた。すでに信濃の信平が兵を集めているという。
「信勝、どう思う?」
「なぜ今頃?帝ですか、きっかけは」
「そうだろうな。お互いに準備万端というところだろう。それに越中には塩硝があるしな」
武田家は玉井伊織の活躍で東南アジアとの貿易を独占している。東南アジアからは鉛、鉄、アルミ等の武器兵器になる材料を大量に仕入れている。塩硝は高遠で作った物は武田で、越中で作られた物は佐々から上杉、蘆名へ流れていた。
越中の塩硝は織田信長が目を付け、柴田勝家が抑えていた。巡り巡って今は佐々成政が手に入れていた。
前田利家は、加賀で同じ製法で作れないか試作中だがまだ結果が出ていない。
秀吉はキリシタンの手を使い、弾薬の材料はスペイン、ポルトガルからの輸入に頼らざるを得ず利は武田にあった。盛信はまず、塩硝を生産している五箇山を手に入れた、そして、秀吉に報告をしようと伝令を走らせたが、その伝令は秀吉までたどり着くことはなかった。
駿府城に三成の文が届いた。勝頼宛だったが、使者に信勝がいる事を伝え信勝宛の文も受け取った。
「ふむふむ、将軍が仕置しろという事だな。素直すぎる、さて何を企んでおるのか?」
「信平を向かわせようかと思いますが」
「そうだな。関白殿下に従って将軍が収めました、そうなるよな。問題はその先だ。どうやって難癖をつける気だ?あの猿は」
「叔父上は武田を名乗っております。武田の謀反、そこからそれがしの上洛を強制して、いや、これは信平が危ないのでは?」
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