第144話 そして時は過ぎ

あれから二年たった。え、飛ばしすぎ? どうなったって?ではこの二年を振り返ります。



<長浜では>


利家からの伝令に対し、官兵衛は直ぐに返事はせずに待たせた。武田陣営にも情報が伝わったか。その間に落とし穴に落ちた兵が穴の中に黒い水があるという話が伝わり、利家軍は最初の堀の外まで下がった。


官兵衛は、敵の待ち構えている砦より遊軍を攻める作戦に切り替えた。足利将軍をなんとかその気にさせ、南北方向から遊軍の真田改め武藤昌幸軍に攻めかかった。


援軍の北条軍が決死の戦いをし武藤軍は善戦したが、だんだんと数の暴力に押されはじめた。その時長浜城から戦いたくてウズウズしていた武田信豊が自ら軍を連れて飛び出してきた。それをみた真田信綱は慌てて鉄砲を宙へ撃ちまくるよう命じた。


鳴り続く銃声に足利軍が振り返ると土煙りとともに武田兵が勢いよく向かって来ているのが見えた。官兵衛はすぐさま撤退の合図を出し、引いていった。そのまま官兵衛は坂本城へ、利家は北の庄へ引き上げた。




直江兼続が作った落とし穴にあった黒い水、実はただの泥水だった。そんなに沢山の原油を長浜まで運べてなく、ブラフだったのだが上手くいった、というより兼続は他にも罠を作って待ち構えていたのだが出番がなかった。


「来ればいいのに、まあいいか」


上杉景勝からは前田利家とぶつかる事があったら徹底的に叩け!と言われていたが空振りに終わった。兼続は噂の真田の軍略を目の当たりに見ただけで満足した。いずれこの経験を活かすぞと心に誓った。






<東北では>


勝頼、お市不在の中、伊達小次郎政道と茶々の妹、お初の結婚式が仙台で行われた。伊達小次郎は仙台に居城を移し城も改築しお初を迎い入れた。


結婚式にはお忍びで新婚の信勝、茶々夫妻が参列した。お忍びとはいえ護衛は厳重で木村悟郎以下武田忍びが周囲を警戒しながらの移動だった。途中で建築中の江戸城を視察しながら新婚旅行も兼ねていた。


勝頼が武田商店を旅行代理店にすると言っていたのと、親王を東北へ行かせるかもと言っていたので下見も兼ねていた、といいつつ楽しんでいたが。


他には蘆名家からは当主源二郎信繁が、米沢からは城代の山上道及が、近隣からは源二郎に従っている相馬氏、岩城氏からもお祝いの使者がきていて、結構な賑わいとなった。

そこに早馬が二頭到着した。最初の伝令は、勝頼が征夷大将軍に任じられたという物だった。


「なんと!大殿が天下人に」


信繁が場を考えずに叫ぶと信勝が、


「源二郎、慌てるな。秀吉が関白だそうだ、これをどう思う?」


「今、大殿は叔父上、父上とともに戦の最中でございます。どこに妥協点を見つけるかですが、恐らくは東西で分ける事になるのでは。ただ秀吉はくせ者と聞いております。このままでは収まりますまい。大阪城対江戸城になりそうですな」


信勝は考えた。武田には跡取りの俺がいる。家臣団も譜代が多く、裏切る可能性のある者はすでにこの世を去った。秀吉に子がいるとは聞いていない。分はこちらにあるか、このまま収まれば時間の問題だがそう上手くはいくまい。


と、その時もう一人の伝令が、


「最上が米沢城目がけて進軍しております。恐らく山県様不在を狙ったものと思われます」


「伊達様、ご結婚おめでとうございます。それがし、急用ゆえ失礼致します」


山上道及が慌てて米沢へ戻っていった。信勝は、


「小次郎殿、兵を貸してくれ。源二郎、行くぞ!茶々、すまん。後を頼む」


信勝は蘆名源二郎、伊達から兵を借りて米沢城へ向かった。茶々は信勝様、カッコいい!と目がハートだった。


最上軍は一万五千、秀吉から隙あらば攻めよと度々言われていて勝頼が西へ出陣している手薄な今が絶好機と感じ、攻めやすい米沢を狙った。前回の仕返しの機会を淡々とねらっていたのである。


領主の山県昌景は西へ出陣している。負ける気はしなかったのだが………。




周辺の城を落とし米沢城を囲んだ時、軍勢が現れた。まさかの風林火山の旗とともに。正に疾きこと風の如くである。


「なんで武田がここに!」


最上義光は信じられない物を見た顔をしていた。最上の情報網は信勝が来ている事を掴んでいなかった。これは武田忍びが敵の間者を近づけないようにしていたのだが、見事な結果につながったようだ。


源二郎信繁の策で最上軍の背後に鶴翼の陣を速攻で構えて、城と挟み撃ちにした。武田軍は伊達、蘆名、すぐさま応援に来た岩城、相馬勢、どんどん兵が増えていく。このままでは不味いと覚悟を決め、全軍を鶴翼の陣に突っ込ませたその時、城から山上道及が朱槍をぶん回し自らが先導に立って最上の本陣を襲った。


乱戦となったが、鶴翼と背後から、つまりほとんど円陣に近い形で攻められた最上軍は事実上1対3の戦いとなり時間が経つにつれ消耗していった。


結局最上は捕らえられ最上義光は切腹、最上家は取り潰しとなり、最上の領地は伊達、蘆名、山県と地元の天童氏で分けられた。天童氏は山県昌景の与力となる。天童氏は今回の最上の動きを知らせ、足止めし時間稼ぎをした功績だ。武田に人質を出し忠誠を誓った。


信勝はそのまま秋田、南部と東北の大名を訪問し忠誠を誓わせた。翌年江戸城に人質を差し出させ北を完全に制圧した。




翌年、誠仁親王が駿府を訪れ、富士山を見ながら温泉に入り酒池肉林を楽しんだ後、江戸城に入った時に東北制圧の功績を褒められた。その功績により信勝は京へ招かれ挨拶に行った時に2代目将軍に任ぜられた。



<駿府では>


信勝の側室、甲斐姫(忍城の成田氏長の娘) が男子を産んでいた。信勝は出産時東北にいたが、早馬で男子誕生を聞き心底喜び、にやけた。そこに茶々がいなかったのは幸運だったのだと思う。茶々と甲斐姫とは仲がいいとはいえ、茶々も女である、そう前の歴史では淀君なのだ。怖いのです。信勝、この男、何かと運がいい。


ちなみに信勝は前の歴史では甲斐姫が秀吉の側室になる事は知らない。茶々、甲斐姫と絶世の美女二人を、この男は秀吉から奪った事になる。



<お市の冒険>


長浜で炎の将が名をあげている頃、武田水軍は呉にある毛利水軍の造船所の沖にいた。蒸気ボイラーで駆動する超大型戦艦駿河、電力と足漕ぎスクリューに手漕ぎの3パターンで駆動できる戦艦富士、焼津、そして楓マーク2。


なんでマーク2なのか?また勝頼がオタクだからだろ、その通りですが2には意味があります。ツインスクリューでツインエンジンなのです。原油を使ったガソリンエンジンで片側づつ駆動する事により高速旋回を可能にした新型巡洋艦なのです。


戦艦駿河には補給用に原油が積んであり、通常使う補給艦が沈められても安心です。


突如現れた水軍艦隊を見つけた毛利水軍は、長曾我部水軍を葬った楓改と大型船、といっても駿河の半分程の大きさだが鉄甲船を出航させた。


「来た来た!用意して!」


楽しそうなのはお市である。海外から玉井伊織が戻ってきて、頼んでいたボーキサイトを運んで来たと聞き、ここをさっさと終わらせて次の開発にかかりたかったのである。さすが元リケジョである。


鉱山から出る石の中にアルミが見つからず悩んでいたら、勝頼が中国とかインドネシアにあったんじゃない?っていってたので海外貿易担当の玉井伊織に頼んでおいたのだった。


戦艦駿河、それは大型輸送船でもある。倉庫は何層にもなっており、居住区、弾薬、燃料等に分けられている。そして一番船底にある倉庫は、床が開きそのまま海中に繋がるようになっている。


船底から黒い葉巻のような形の船? が落とされていった。そう、お市が長年開発していた潜水艦だ。その名は、水龍召喚オミズハトモダチ。持ってきたのは5隻、船尾にはスクリュー、船頭には魚雷が左右に一つづつ付いている。二人乗りでヒレのような物で方向を変える仕組みだ。


一人が操縦しもう一人が魚雷を発射する。ちなみに魚雷は真っ直ぐにしか進まない上に射程距離は短い。しかも一発撃つと船のバランスが崩れるため操縦は極めて難しい。


空気は少ないし、電池とゼンマイ併用のスクリュー駆動だが航続距離も短い。勝頼が使い物にならないと言ったのは操縦が過酷な上に使用条件が限られるからだ。操縦は命がけである。お水が友達にならないと操縦は不可能だ。


乗るのは伊賀と伊那の忍びでお市に認められた強者、というか地獄の訓練に耐えた者である。勝頼は彼らをお市親衛隊と呼んでいる。


潜水艦といっても深くは潜れない、水深3mくらいの所を進んでいる。望遠鏡『見えるんです』の改良版の潜望鏡を使い、敵の大型船に向かっていく。


毛利軍はまさか水中を進んでくるとは想定をしてなく、駿河、焼津や楓マーク2の動きを見ていた。まだお互いに射程距離外であろう。敵の砲台が徐々にこちらを向き始めたのを見て警戒の合図を出そうとしたその時、突然船底が爆発し浸水が始まった。


「何だ、何が起きた。まだ敵は撃ってきてないぞ!」


続けて爆発音が起き、大型船は動けなくなってしまった。それどころか徐々に沈み始めた。そこを狙って武田水軍が射程距離内に入り一斉に砲撃を始めた。


「よーし、やるじゃない。水龍召喚オミズハトモダチは魚雷撃ち尽くしたら回収して。ぼちぼち空気持たないし。駿河は回収後造船所を破壊して」


ほとんどの毛利船が損害を受けていたが、2隻の楓改が大砲を撃ちながら進んできた。小回りが利く楓をさらに改造し、操縦士の腕がたつようだ。そこに2隻の楓マーク2が迎え撃ち、楓同士の戦いが始まった。


「どうします?」


茜が船長の伊谷に聞いた。


「放っておいて、焼津と残りの楓マーク2は残りの船を完全に沈める。駿河は造船所を砲撃後上陸する。茜殿、頼みます。あ、お市様は船から降りないように」


お市は運動不足解消に忍びの訓練を始めていた。だが勝頼から見たら付け焼き刃だ、戦闘には参加させないようきつく言われていた。


「わかってます。さっさと片付けて大崩に帰りましょう」


勝頼からは水軍の完全壊滅を命じられていた。造船所、技術者全て消せと。この後、海側を戻りつつ全ての船を沈めながら戻ることになる。


お市はアルミで作りたい物が沢山あり、早く帰りたかった。なんか早く戻らないと、という気がしていて、その勘は正しかった。大量にあったボーキサイトは勝頼がラッキーとばかりに新兵器開発に先に使ってしまって次の便を待つことになるのだが、この時はまだそれを知らない。


この後、親王の御触れが広まり日本中から戦が収まった。




<大阪城>


石山本願寺跡地に巨大な城が完成した。堀が周囲に無数にあり、直接城を攻めるのは難しい。勝頼の長距離砲でも全く届かないくらいに広い。


その城に西側で秀吉に従う大名がお祝いに駆けつけていた。そう、秀吉に子が産まれたのである。産んだのは側室の摩阿姫、前田利家の娘だ。


秀吉は性欲は凄まじいが子供ができなかった。ある時、黒田官兵衛が武田から手に入れた「かつよりんZ」なる精力剤を持ってきた。眉唾と思いつつ飲んだらすこぶる調子がいい、で、新しい女と励んでいたら命中した。


「かつよりんZ」を持ち込んだのは沙沙貴彩だった。沙沙貴は父の代から織田に仕えていたが、ある時黒田官兵衛が佐々木源氏の主筋である事を知り、二重スパイを続けていた。今回武田から引き上げ、情報とともに官兵衛の配下となっていたのである。


沙沙貴により武田の内部の情報はある程度官兵衛に伝わってしまった。


秀吉の子は、秀頼と名付けられた。




武田信勝が二代将軍となり、東は武田、西は長宗我部、大友を除いて豊臣という政権が続いた。若干の小競り合いはあったが、ほぼ戦がない平和な時だった、表面上はだが。


そして、秀吉が関白、武田家が将軍になって二年が経った。




誠仁親王が亡くなった。


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