第134話 清須決戦

秀吉を訪ねてきた男、その名を本多正信という。元々は松平家に仕えていたが、一向一揆に与するために家康と敵対することになる。その後松永久秀に仕えるも本願寺顕如と組み、全国の一向一揆を指揮していた。その為各地の大名の情報に詳しく、宗教の違いでキリシタン大名とはウマが合わない。実は秀吉が本願寺顕如に領地を与え新たに本願寺を建てることにしたお礼を兼ねて、この戦を見物しつつ訪ねてきたというわけだ。


秀吉は石山本願寺があった場所に大阪城の建築を始めている。また、一向一揆衆はまだ死んではなく敵にすると煩いのはよくわかっていた、つまり味方につけたという事だ。


「お初にお目にかかります。本多正信でございます。この度の大勝利、おめでとうございます」


「本多殿。顕如殿からの紹介状、しかと読ませて頂いた。軍師だそうだのう。うちにも官兵衛という切れ者がおるが、どっちが上からな?」


「黒田様はキリシタンでござる。勝ち負けといわれれば、日本の仏が西洋の神などに負けるわけがありませぬ。この日の本は帝がいて、その下で将軍が国を治めてまいりました。この伝統を崩すなど以ての外です。キリシタンは有能な者も多く、西洋からの新しい武器や文化は戦を変えて参りました。いつか、この国は乗っ取られます。羽柴様、キリシタンをどうお考えでしょうか?」


返答次第では顕如に言わねばならない。信長と戦ったのは仏敵であったからだ。秀吉はどうなのか?


「ふむ。余は寺を大事にしておる。キリシタンについては今は制約はしていない。そなたの言う通り利用価値があるのでな。キリシタンはそう、どこかで、な。余は帝に仕えておる、朝廷を大事にし政治を行うつもりだ。お主の敵はキリシタンではあるまい、武田であろう。家康の仇だ」


「それがしをご存知で?松平に仕えていたのは遥か昔、どこでその情報を?」


「お主の仕えた家康も松永弾正ももういない。どうだ、余と組まんか?官兵衛は優秀だが優秀すぎる、あれを敵にまわしたら勝てる気がせんわ。だが、何があるかわからんのがこの戦国の世。お主には全国を歩いて手に入れた貴重な知識があろう。余の為に使わぬか、敵は武田だ。お主なら武田とどう戦い、どうやって勝つか。少し調べてから答えが聞きたい」


「承知しました。武田とは戦って見たかったのです。そう、今、本願寺顕如と足利義昭が会っている頃です。それがしは一度戻ります。次にお会いする時は羽柴様の家臣として参上仕ります」


秀吉は朝廷に働きかけを始めていた。近衞前久を使い、官位を得る事を。武田との総決戦にはまだ時間があるだろう。今のうちに関白になってやる。そうすれば、余に逆らう者は国賊だ。






その頃勝頼は海辺にいた。海上遠くに戦艦駿河が見え、輸送船が浜に近づいてきた。


「バラして持ってきたのか。まあ、あのままじゃ目立つしな」


「大殿、久しぶり。あれ、あたしが乗るからね。訓練したし」


荷物と一緒にお幸が降りてきて言った。


「乗る時の合言葉を忘れるなよ」


「意味がわかんないんだけど、言えばいいんでしょ、言えば」


合言葉。男の子にしかわからないんだよ、その大切さは。勝頼は大量な荷物を受け取り、清須城へ向かった。


「で、お市はどうした?」


「駿河に乗ってる。土屋様の話では、毛利が新型船を作ってるらしいので沈めるって。毛利は楓を大型に改造した船を量産中だってさ」


「沈めるって、え、え、え、まさか。誰が乗るの?」


「伊那の衆が特訓してる。ここまで来る間も何度も。もう十分戦闘に使えるよ」


マジか。まあいいや。好きにやらせとこう。






勝頼は那古野城から出陣した山県昌景率いる三万の軍と合流して、清須城へ向かった。岐阜からは信忠が馬場美濃守とともに合流している。清須城まで一里のところに陣を引き、新兵器の組み立てにかかった。


清須城にいる織田信雄は、信忠がすぐそこまで来ている事を聞き、軍議を開いた。軍議では籠城はせず、野戦の意見が多かった。清須城は数万の兵が籠城できる城ではない、隙を見て岐阜城や那古野城奪回の意見もでたが、兵を分ける事に信雄が反対した。


秀吉が柴田勝家を討ち取りこっちへ向かっているという知らせが入った。秀吉が流したデマだ、いや最初は向かうつもりだったのだからあながち嘘ではないが、秀吉は清須へ向かう気はない。

信雄は知らせを信じ秀吉が来るまで持ち堪える、それを作戦とした。こちらからは仕掛けず、城の周りに陣を引き敵を待ち構える事にした。





勝頼は山県昌景、真田昌幸と話していた。


「秀吉は来ると思うか?」


「兄上が長浜を抑えましたゆえ、こちらには来れないかと。坂本城に軍勢が集まっているという話もあります」


「坂本城の兵はどこへ向かう?」


「長浜へ向かい北ノ庄と挟み撃ちにするか、こちらへ来るか?どちらもありそうです」


「余はここを片付けたら、京へ行こうかと思っていたが陸路は無理だな?」


「何故今頃京へ行かれるのですか?」


「うむ、秀吉が関白になるのを邪魔したいのだ。仕方がない、海路を行く。五千ほど連れてくから、今のうちに船を準備しておいてくれ」


そうこうしているうちに新兵器が組み上がった。敵から半里のところまで前進し、まずは、筒井順慶の旗に目掛けて長距離砲、超牙飛弾ホーリービームを用意した。


「光吉、わかってるな。合言葉を言ってから撃て」


「はい。意味わかんないっすけど、エネルギー充填120% 、発射!」


ちなみにエネルギーは使ってません。ただの火薬です。厨二病なだけです、はい。


発射された砲弾は筒井順慶陣の真ん中に着弾、周囲の兵を弾き飛ばした。台車に乗っかったままの新兵器は兵に押されて前進を始めた。

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