第135話 龍、再び

 勝頼は超牙飛弾ホーリービームを続けて発射させた。筒井順慶と池田恒興の陣へ交互にぶっ放した。撃つ少し前に必ず、


「エネルギー充填120%、発射!」


 と叫ばせて。

 どこから撃たれたかわからない、轟音とともに兵が吹っ飛んでいく。その光景をみた筒井順慶は戦場から退却を始めた、というか逃げ出した。家老の島左近は筒井順慶に踏みとどまるよう話をしたが聞き入れてもらえなかった。


 この戦の後、島左近は筒井家を去る事になる。


 池田恒興は陣形を立て直し、いつまでもこんな攻撃は続かない。敵がこの後突っ込んでくるだろうから備えろ、と檄を飛ばし城内にいる織田信雄に出陣を要請した。ここで良いところを見せて秀吉にいい顔してやる!




 武田軍は池田軍から1kmの所まで陣を進めた。前衛に盾を持った防御役を置き、その後ろに銃撃隊、弓隊が並んでいる。その後ろには山県昌景率いる赤備えの騎馬隊が控えている。


「仕掛けてこないな。秀吉を待ってるのか?来ないけどな」


 勝頼が呟くと、昌幸が


「筒井軍は引きました。秀吉も加賀から動いていないようです。一気に攻める機会かと」


「おそらく甲賀の者がこの戦の有様を秀吉に伝えるだろう。どこまで見せてやろうか」


「お幸さんがやる気満々ですが」


 昌幸はお幸の事をさん付けで呼ぶ。昔世話になった事から頭が上がらないようだ。そのお幸もお市には敵わないようだが、何があったのだろう?


「訓練したらしいからなぁ。じゃあ、小型の例のやつは使わずにとっておく。お幸は前へ」





 信雄は、城から出たがらなかった。秀吉が来るまで持ち堪える、それには自分が外へ出て戦ってはならぬと言い聞かせていた。


 そこに池田恒興から軍の士気を上げる為に出陣の依頼が来た。冗談じゃない、短期決戦をする訳ではないのだ。それに勝てるのか、兄上に。


 信雄は、周囲の砦に十分な補給を行なって攻めかけるのではなく受けながら戦を行うよう指示した。

 池田恒興は仕方なく当初の作戦通り武田と同じような陣を組んだ。木で作った馬防柵を前面に立て、銃と弓矢隊をその後ろに置いた。


 何となくだが仕掛けるなら今な気がしていた。結果的にその勘は正しく、もしかしたら一矢報いれたかもしれない機会を逃してしまった。


 敵が出てこないのを確認した武田軍は何やら台車で運び出した。弓矢の射程距離近くまで進んだところで、


「ゴーーーーリ、イン!」


 お幸は大きな声で叫びその物体に乗り込んだ。頭にはヘルメットを被っている。操縦席に座ると、外から兵が搭乗口を塞いだ。お幸の顔の部分だけガラスになっていて視界は良好だ。


 そう、これは世界初の有人型兵器である。高さ3mはあろうか、外見は◯カゴジラに似ている。顔の部分は龍だ、浅井戦で使用した龍のパーツを流用したものだ。命名、伝説龍王ゴーリーキング


 ちなみにお市は心底バカにしていたが、気にしないったら気にしない。


 お幸はスイッチを入れ歩き出した。駆動は電力だ。内蔵している8個の小型電池で、右のレバーを押すと右足が前へ、左のレバーを押すと左足が前へ出るので歩く事ができる。木造だが表面には鉄板が貼ってあって鉄砲の弾ではビクともしない。速度は遅いが龍が一歩づつ歩いているように見える。テストでは400mは歩く事が出来た。


 お幸は単独で池田軍に向かって進んでいく。


「殿、何かが武田軍から向かってきます。龍です、龍が武田軍に!」


 伝令は訳のわからない事を伝えにきた。何を言ってるんだこいつ、と本陣を出て見ると、龍が歩いて向かってくる。池田恒興は焦って、


「撃て、撃ちまくれ!」


 一斉に矢と銃の攻撃始まり、目標が大きい伝説龍王ゴーリーキング には結構な数が被弾した。


「ヒエーーーー、すっげー当たってる。でもなんとか平気だね。」


 ガラスのところは操縦席から鉄板を降ろすよう操作ができる。敵の銃撃中は防御だ。


「殿。殿、鉄砲も矢も効き目がありませぬ。龍です、本物の龍です」


 兵は慌てふためいた。龍は馬防柵に5mのところまで近づいた。池田軍はびびってしまって動けない。龍が止まった。


 あたりが静かになった。シーーーンという音が聞こえてくるような静けさだった。と、その時、龍の右腕が上がり、


「ゴーーーリーーー、パーーーンチ!」


 お幸の掛け声とともに、龍の右腕が肘から発射された。そして正面にあった馬防柵を吹っ飛ばした。


「腕がーーー、龍の腕が飛んだーーー!」


 周囲にいた兵は逃げ出した。こんなのに勝てる訳がない、とにかく逃げた。するとその周りの兵にぶつかり将棋倒しになった。その間にお幸はスイッチを押し腕を戻した。実はこの腕にはワイヤーが付いていて巻き戻すことができる。何とゼンマイ仕掛けである。事前にゼンマイを巻いておいてその力でワイヤーを引き腕を戻すのだ。


 そして再び前進し、将棋倒しになっている兵に向かって、


「ゴーーーリーー、ビーーーーーム!」


 と叫び、龍の口から火を吐いた。相良油田から汲み上げた原油を高圧洗浄機の原理で噴き出しながら着火する火炎放射器である、だが敵には龍が火を噴いたようにしか見えない。池田陣は大混乱で火のついた兵が逃げ回り他の兵に燃え移り収拾がつかない。


 その瞬間赤備えの武田騎馬隊が一気に駆け寄り、敵を蹂躙した。まさに蹂躙だった。


 池田陣にいた秀吉の間者は一目散に逃げ出した。一部始終を秀吉に伝える為に。

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