第133話 賤ヶ岳の戦い

 その頃、お市はあずみ、悟郎夫婦と大崩にいた。伊那忍者を使って新兵器の特訓をしていた。勝頼は出番ねえよ、そんなのと言っていたが、女の勘が必要と訴えていた。特訓の成果でいいところまでいったので、戦艦駿河率いる水軍を護衛に輸送船に積み込み出航した。


 後は海上での訓練だ。それと、勝頼に頼まれたもう一つの新兵器も積み込んだ。お市からすればこの新兵器何?ただの阿呆じゃん って感じである。


「こんなのどうすんだろ?よっぽどこっちの方が出番ないんじゃない?」


 とお幸がいえば、あずみが


「大殿の遊び心でしょう。子供の頃から変わってませんよ、あのお方は」






 柴田勝家は越中、越前、能登、若狭の兵四万を連れて、美濃へ進んだ。琵琶湖が見えるところまで進んだところで、秀吉隊の先鋒とぶつかった。秀吉隊の先鋒は中川清秀が率いていたが、勝家軍は一気に蹴散らし、中川は戦死した。


 そのままの勢いで賤ヶ岳へ進んだところで本隊とぶつかった。秀吉軍は羽柴秀長、黒田官兵衛、細川藤孝、稲葉一鉄、そして後に賤ヶ岳七本槍と呼ばれる加藤清正、福島政則等がいて、お見合いとなった。秀吉は長浜にいて、中川戦死を聞き賤ヶ岳へ急行しようとしていた。




 その頃、柴田勝家を支援するために飛騨の山を武田軍が進んでいた。真田信綱を大将にし、上杉から直江兼続が三千を連れて応援に来ていた。総勢二万五千の大群だ。山道を抜け美濃に出た。そのまま岐阜城を遠目に長浜へ向かった。岐阜城には織田信雄がいるはずなのだが、なぜかそのまま素通りできた。岐阜城は静かだった。信綱は直江兼続に聞いた。


「どういうことでしょう?」


「もしや、城には留守居しかおらず、尾張へ向かったのやもしれません。一応背後を突かれぬよう警戒は必要かと。」


「いかにも」


 信綱は見張りを残し、軍を長浜へ進めた。柴田勝家には秀吉軍の背後を突くから仕掛けるのを待つよう伝言していた。勝家からは到着まで待つと返事が来ていた。とはいえ戦は思うようには進まないものだ。一日も早く到着するよう焦って進んでいた。





 織田信雄は武人ではあるが、戦略、人の扱い方が優れてはいない。織田信長の子でなければ大名になれたかどうか微妙なところだ。ただ、信長が付けた家臣は優秀で恵まれている。それでなんとか三ヶ国を治める大名としてなりなっていた。


 お山の大将であるが、プライドは高い。余が織田だ、という感じであったが信忠生存を聞いてから怯える日が続いていた。秀吉からは東海道を登ってくる信忠軍を抑えろと言われていたが、信忠の旗を見た時の自分が想像できず、オロオロしていた。ようは怖がっていた。


 信雄軍は伊勢から一万、美濃から一万、そして尾張勢に加え、筒井順慶軍一万が加わり、四万の兵が清須に集結、信忠軍を待ち構えていた。信忠は那古野まできている。


 信雄の家臣団、そう信雄を支える家老のほとんどは秀吉の傀儡となっていた。信雄はそれに気付かない。信雄は家老の津川義冬に、


「これだけの兵がいれば、やすやすと仕掛けてはこれまい。余は秀吉の応援に行った方が良いのではないか?」


 津川は秀吉からここで信忠、武田軍を抑えるよう厳命されていた。信雄は死んでもかまわんが秀吉が勝家を片付けるまで持ちこたえろと。信雄を逃すわけにはいかない、いいからお前はここにいろ!と、心で叫んでから、


「上様。何を仰られます。大将はここでどんと構えていれば良いのです。羽柴様は上様が行かれなくても勝たれます」


 こいつは余の気持ちはわからんのだ。兄上と戦って勝てるのか?ここから逃げ出したいという本音を出すわけにも行かず、時間だけが経過していった。





 秀吉が賤ヶ岳に到着する前日、柴田勝家配下の佐久間盛政が大岩山砦を奪取すべく仕掛けた。勝家から見れば敵陣を見渡せる前線基地だ。佐久間は猛将ぶりを発揮し、大岩山砦を奪取した。取り返そうと仕掛けてきた黒田官兵衛の軍をも退け、勝利に酔っていた。勝家はあまり前線に居残ると孤立する可能性があるので、戻るよう指示したが、秀吉軍など、わし1人で十分だ、などと叫び言う事を聞かず居残った。勝家としては時間稼ぎをしたかった、武田が来るまで。そのためにしつこく戻るように前田利家を通じて伝えさせたが引く気配がない。そう、この時、伝言役が前田利家でなかったら戦況はどうなっていたことか。柴田勝家にはそれを理解する知恵はなかった。


 そこに秀吉が現れ、指揮を取り始めた。


 大岩山砦は激戦となった。佐久間は引かず双方に損害が出た。現状は互角、いや、佐久間の方が押していた。ところが、佐久間の後ろにいた前田利家軍が突然佐久間の背後から仕掛けた。背後を味方に突かれた佐久間軍は総崩れとなり、佐久間盛政は討ち死にした。


 秀吉軍は前田利家軍と合流して、柴田勝家本陣へ向かった。勝家は人がいい、あんなに手塩にかけて育ててきた前田利家が裏切るなど勝家の辞書にはありえない。戦国に生きるには人が良すぎたのであろう、動揺して戦線が崩れ、勝家は北ノ庄まで逃げ帰ることになった。勝家は退却しながら、


「何故だ、何故だ、何故だ………」


 と繰り返すのみで部隊に指示を出すこともなく、ただ逃げた。ただ逃げるだけの軍を攻めるのは秀吉には簡単すぎた。だが、秀吉は勝家を追いかけ勝家が腹を切り、首を検分するまでとことん追いかけた。柴田勝家、秀吉にとって絶対に超えなければいけない壁であったのである。





 その頃、長浜へは真田信綱率いる武田軍が到着していた。物見から勝家が撤退して、秀吉が追っていったと聞き、作戦変更し長浜城を落とした。そして勝頼に使者を出し、周辺の砦、城を制圧した。


 そして織田信忠は動きが膠着している清須城の隙を付き、昔信忠に仕えていた者達を中心に五千の兵を連れて岐阜城へ行き、見張りの武田軍と共同で手薄の岐阜城を落とした。これにより、那古野城、岐阜城、長浜城のラインを信忠、武田軍が取ったことになる。


「ううぉおおおおおおおおおおお。えい、えい、おー!」


 岐阜城に信忠の勝ち鬨が響いた。信忠の目から涙が溢れ、忠臣達も号泣した。軍艦として付いてきた馬場美濃守ももらい泣きをしていた。





 秀吉は北ノ庄を前田利家に与え、佐々成政への抑えと治安維持を命じた。むやみに兵は殺さず味方にするように指示した。この地を急いで秀吉のものにしなければならない。そして長浜へ戻ろうとしたが、状況を聞き、坂本城に集めている味方の連絡を取った。


「信忠め、いや糸を引いているのは勝頼か。はやいのう、だがこれからだ。」


 秀吉は長浜城と岐阜城、両方を取られるとは思っていなかった。仕切り直しだな、と、そこに1人の男が秀吉を訪ねてきた。

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