第124話 開発部隊

 その頃、他の者達はどうしていたか。お市は造船所で引き続き秘密兵器の開発に従事しながら、水軍に命じて伊豆の金山を調べさせていた。勝頼から資源が足りないと言われていて、勝頼が現代に戻った時に調べてきた、そうまだこの時代に手がついていない鉱山を当たっていた。特に土肥金山は手付かずだった。勝頼によると結構な量が取れるらしい。もう取れなくなった梅ヶ島の安倍金山の連中を伊豆へ移した。


 武田商店のあずみから清水港に海外から船が来航したと連絡があった。なんだろう、聞いてないぞ。またこっそり大殿がなんかやってたなと、あずみ、お幸と共に清水港へ出かけた………、なぜか信忠とお松がついてきた。


「信忠殿、何をしているのです」


「これはこれは叔母上、退屈をしておりまして。また何か面白そうな事が起きたのでしょう」


「大殿が驚いてましたよ、信忠殿が気球に乗って行ったと聞いて。もう決めたのですか?己の生き様を。織田家として生きるのか、それとも」


「まだ決められませぬ。織田家の様子は武田の者が教えてくれますが、柴田勝家と羽柴秀吉が敵対している様子。秀吉はまだ織田家の家臣として振舞っているようですが、勝頼殿のお話では織田家を乗っ取るのではなく独立して上を行くとか。となれば織田家はただの一大名という事です。そこで秀吉に従うのは死んでも嫌です。ただ助けられた命を無駄にはしたくありません。今は決める時ではなく考える時だと思っています。この戦国の世で呑気に考えていられる時間があるというのは恵まれているのでしょう。という訳で同行させて下さい」


「何が、という訳ですか。頭の固いお方だと思っていましたがお松さん、信忠殿はこういう人でしたか?」


「兄上の影響ですよ。元は頭の固ーーーい真面目な人でした。でも今の方が素敵です」


「はいはい、いいから行くよ。忙しいんだからね」


 お幸の一言で行列は進み始めた。お市も信忠もお幸にはなんとなく逆らえない。お幸すでに40歳、10代はぽっちゃりだったがその後の鍛錬で今はナイスバディになっている。本人曰く永遠の20歳。勝頼に以前いつまでも若いな、永遠の20歳だなと言われたのを本気にしている。




 清水港に着いた。そこには大型の輸送船が10艘、戦艦焼津と楓15艘も一緒だ。護衛してきたのか。


「お幸殿?お幸殿でしょう。お久しぶりです」


「えっ、玉さん?」


 そう、玉井伊織、久しぶりの登場である。勝頼の子供時代の剣術指南役で諏訪時代の準家老職。自称勝頼の兄貴分でなんでも話せる間柄(あくまでも自称)。


「玉さんはご勘弁を。お幸さんに最後に会ったのはまだ信玄公がご存命の頃でした。ところでそちらのお方々は?え、お松様。どうしてここに?」


「玉井殿ですか?久しぶりですね。ご立派になられて、ってその髭は何ですか?あんなにカッコ良かった諏訪女性の憧れの君が。」


「そうなのですか?実は暫くしゃむろという国に行っておりました。二年ほど前に勝頼様からしゃむろ国の鉛を買い付けてくるようにとのご指示をいただきまして。」


 しゃむろ国、その後シャムと呼ばれるようになった今のタイである。タイは鉛が取れる。今後勝ち抜くためには資源の安定供給は必須であった。


「しゃむろには鉛鉱山があります。そこは織田信長が宣教師を使って貿易をしていたそうです。過去形なのは信長が死んだという噂がタイで聴こえてきて、金払いに不安がられたようで。それならば武田が全て買取ましょうと告げたところ、今後日本との貿易は武田が独占できる事になりました。その代わり、タイ国王に定期的に『かつよりんZ』をお届けしなければなりません。」


「……………………。ハア」


 お市は頭を抱えた。いつの時代も男はバカだ。それで国交がうまくいくなんて、情けないような嬉しいような、複雑!


「それで、お松様の横にいらっしゃるのは、、まさか、信忠様で?」


「織田信忠である。今、武田に世話になっている。しゃむろの話は父上から聞いていた。父上はキリシタンは国を滅ぼすやもしれんが、奴らが持っている物は貴重な物ばかりだと言っていた。わかっていて利用していたのだ。父上は神や仏を毛嫌いしていると思われているようですがそれは違う。正しい物には誠意と感謝をわすれてはいなかった。足利将軍、朝廷、敬うべきところには誠意を示していた。ところが、その時々で勝手な自分しか考えないような行動を起こす。それ故に戦が起き、誰の意思かは分からぬが本能寺が起きた」


 玉井は平伏した。元天下人のようなお方の跡取りだ。そうしたら、お幸が、


「玉さん、そんなにかしこまんなくていいわよ。ただの居候なんだから」


 信忠は笑った。その通りですと。


「私の自己紹介がまだでしたね。お市と申します。勝頼の妻で信長の妹で、信忠の叔母で、あと何だっけ?」


 玉井は何この面子?もしかしてものすごく場違いなところにいるんじゃないかとオロオロし始めた。お市が笑いながら


「玉井殿。玉井殿の事は大殿から聞いた事があります。大変お世話になったとか。それにしゃむろまで行かれていたとは。大殿が信頼しているからこそのお役目ですね。ご苦労様でした。と、固い挨拶は抜きにして、私も玉さんて呼びますね。買ってきたのは鉛だけ?」


「いえ、鉄鉱石も買ってきています。」


「そう。見つけてきてほしい物があるんだけど。頼める?多分だけど、じゃわってところにある。」


 お市は日本で欲しい材料が見つからず落ち込んでいたところだったのだ。これこそ天の助け。






 勝頼が駿府から出発した頃、諏訪の秘密基地には助さんの代わりの職人、田中光吉が必死に新兵器に没頭していた。助さんは造船所でお市にこき使われている。新兵器、格さんの図面通りに作ったが効果がいまいちだった、勝頼の要求には届いていなかった。どうしようと途方に暮れていたら、そこに伊那の里から伊那忍軍棟梁の弟、久太郎が現れた。久太郎は忍びではない、手先が器用なのでもっぱら里にいて、桜花散撃等の量産製造を担当していた。元々はあずみの担当だったが、武田商店店長として駿府へ引っ越したので引き継いだのだ。今日は、材料の火薬と鉄をもらいにきていた。


「光吉殿、岩魚とってきたで、手を休めて一緒に食べんか?」


「ありがとうございます。どうもうまくいかなくて」


 岩魚を焼きながら、雑談をしながらお互いに困っていることを話した。光吉の悩みは射程距離だった。新兵器、射程距離3000mの移動式大砲である。勝頼からは口径は出来るだけ大きく、銃身は長い方が安定するぞとヒントを貰っていたが、なかなかうまくいかない。


 久太郎は話を聞いて、穴を掘る時の話をした。以前、この工場の抜け穴を作るときに中々真っ直ぐに掘れなくて、刃を軸を利用して回転させると真っ直ぐに穴が空いて作業が楽になったと。横で格さんが立ち聞きしていて、あっ、と言って駆け出していった。なんか閃いたらしい。久太郎は大砲の弾で悩んでいて、格さんのところへ相談に行った。ごにょごにょ話をしているうちに久太郎も閃いて作業に戻っていった。


 新兵器は完成した。ただ材料が少なく一基しか作れなかった。光吉は自ら諏訪の兵と共に小山へ運搬を始めた。

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