第119話 穴山の工夫

 信勝は、今市方面、小山城の抑えに兵を残し、五千の兵で穴山の背後を突く作戦を取った。その時、物見から穴山軍が小山城へ撤退を始めたと報告があり、


「今だ、穴山を挟み討ちだ!」


 小山城には入り口が東西南北、四方にある。攻めるのは容易に見えるが罠だらけだ。信勝軍は西側に陣取っていて、穴山軍は南側から逃げてくる。迎え撃つべく城の周りを南に向かうと突然地面が爆発し、その後、城の方から音がした。


「なんだなんだ?」


 兵は城を見上げた。小山城の城の壁から砲台が覗いていた。勝頼は、望遠鏡『見えるんです』 を使った。


「げっ!パクられた。戦艦駿河の砲台じゃん」


 城の壁が横にスライドし、そこから砲台が二門。武田水軍の砲門と同じ物が据えられていた。そう、穴山梅雪は勝頼が失踪した後、大崩の造船所にいた鉄工所部隊の一部を引き抜いていた。図面と一緒に。


 城からは立て続けに砲弾が発射され、信勝軍の進軍を阻んだ。射程距離は500m位だろうか。高いところから打ち出すからその分飛んでいるようだ。兵には届かないが、皆驚き、びびってしまって動けなくなっていた。その隙に穴山軍が城へ入って行く。


 こりゃ一本取られたな。ここまでは考えてなかった。そういえば俺がいなくなってから造船所の人が減ったって言ってたな。勝頼はある意味で穴山を見直した。まあ滅ぼすけど。穴山攻めは信勝に任せて東北の事を考えたかったが、厳しいかな?


 その間にも穴山軍は城へ撤退していった。梅雪も城へ戻ったようだ。しばらくすると、山県軍が追いかけてきた。山県昌景が蘆名小次郎を案内してきた。


「お初にお目にかかる。蘆名小次郎でござる」


「勝頼じゃ」


「武田信勝である」


 若いな、齢17、養子でお屋形。苦労してんだろうなあ。で、兄貴が政宗かあ、可哀想になってきたよおじさん、いやお兄さんは。勝頼は優しく話しかけた。


「蘆名殿、親しみを込めて小次郎殿と呼ばせたいただきたいがどうか?」


「よしなに。こちらも勝頼殿、信勝殿と呼ばせていただきたい」


「では、堅苦しい挨拶はやめて本題といこう。蘆名は武田に従っていただこう。見返りは領国の安堵、今後の働きによっては陸奥、出羽においてそれなりの領地を与えるが如何?」


 勝頼は本来蘆名を継ぐ佐竹義弘が武田の人質になったからか、それ以外の要素かはわからなかったが、蘆名家を早々と小次郎が養子縁組で継ぎ、東北の歴史が大きく変わった事をどう捉えるかを考えた。出した結果が小次郎を使い政宗を葬る事だ。


 政宗は生かしておくと後々何するか分からん危ない奴だからな、早めに摘んでおきたい。


「それでだ、早速だが白河の結城義親を説得してもらいたい。今、今市で我が軍とぶつかっているのだができれば敵にしたくないのだ。皆、殺してしまっては土地を治める者が居なくなってしまうのでな」


 小次郎は武田と組む事を了承し、自陣に戻った。蘆名家の軍議では、それでは武田の家臣ではないか、と声を荒ぶる者もいたが、小次郎が、余は蘆名を残すために家を継いだのだ、と家臣を説き伏せた。その事を服部半蔵から聞いた勝頼は、自分の作戦に自信を持った。小次郎を使う事に。





 信勝は山県、原、信豊、曾根、小次郎と軍議を開いた。勝頼は傍観者である。


「小山城を攻める。平地に立つ城だがあの穴山が建てた城、皆の案を聞きたい」


 ほう、信勝君素直じゃん。曾根が口火を切った。


「皆様はご覧になっていないと思いますが、城からは砲台が狙っています。ただ、見た目は派手ですが、大量殺戮ができるわけではありません。恐れずに進めば脅威ではありません。それよりも門に戸がありません」


「罠か?」


 山県昌景が反応した。


「おそらく。通常であれば門を打ち破るのに苦労します。戸がないため苦労なく勢いよく侵入した兵を待ち構えているのは何か?城の絵図をご覧ください」


 門をくぐるとその先は広場になっていて侵入した兵はそこに溜まる。広場の兵はその先の曲輪から狙い撃ちされる。広場から城への道は狭く少しずつしか進めない。道の両側は塀になっていて外側から仕掛けられそうだ。


 二の丸までは何箇所も似たような場所があり、やっとくぐり抜けた先には二の丸入り口の広場。そこには敵兵が待ち構えており先に進めない。入り口は四箇所あるが本丸へは二の丸を通らないと行くことはできない。


 信豊は図面を見て、


「穴山はずる賢いからなあ。まあよくできてるわ、これ」


「城には撤退した兵一万二千、元より城にいた宇都宮勢三千がいると思われます。籠城は困難でしょう」


 そう、食糧の問題がある。いつまでも籠城はできない。ただそれは武田軍も同じだ。武蔵からの供給は途切れはしないが人数が多いため長丁場が苦しいのはお互い様だ。ただ普通に攻めては餌食になるだけだ。


 山県昌景は、真田昌幸に相談する事を提案した。ここは奴の意見を聞きたいと。それではと、曾根はその間にすべき事を整理して皆に納得させた。曾根も軍師だが、昌幸の意見を聞いて見たかった。子供の頃からのライバルでもありお互いを認めていたのである。





 勝頼は軍議を聞いた後、服部半蔵を呼んだ。確認したいことがあった。

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