第120話 本多忠勝VS山上道及 再戦
勝頼は服部半蔵に、大崩からいなくなったのが誰かを調べる事、悟郎に連絡を取り伊達家に詳しい者を寄越すよう頼んだ。
「佐野はどうなってる?」
「戦闘中のようです。小競り合いが続いています」
「軍議で昌幸の意見を聞く事に決まった。いない者を頼るのもどうかと思うが今回は負けられぬしな。昌幸にこちらに来るように伝えてくれ」
佐野宗綱は穴山梅雪の指示で時間稼ぎをしていたが、焦れてきた。城攻め側も無理はしてこない、小競り合いが続いていたが、そこに穴山から討ってでよ。真田を蹴散らし、勝頼の背後を突くよう伝令がきた。どうやら穴山様は城を出て戦うようだ。そこで作戦を切り替えて城を出る事にして駆けつけたいのだが上手くいかない。真田勢が城門前に待ち構えていて時間ばかり経過していった。
兵の数は佐野の方が少ない、正面からぶつかっては勝ち目はない。
「夜中にこっそり城を抜け出し、真田の側面から仕掛けます。陣が乱れたところを門から一気に敵本陣へお進みください。鉄砲は十分にあります。お任せを」
山上道及は撹乱作戦を提案し、その夜実行へ移した。
真田陣営では本多忠勝が焦れていた。山上道及と決着をつけたくてウズウズしているのに出番がない。そこに昌幸から夜討ちに備えるよう指示があった。自らが200の兵を率いて巡回にあたった。
山上道及は兵を300づつに分け、真田軍の両側を狙おうとしていた。鉄砲は100挺づつ、残りは護衛兵だ。合図とともに攻めかけ混乱に乗じて城門から一気に真田本陣目掛けて突っ込む作戦だ。
巡り合わせとは不思議な物で巡回中の本多忠勝と山上道及がばったり出逢ってしまった。慌てて兵が銃を構えようとしたが、二人声を揃えて
「待て!」
お互いに眼を見る、笑っている。この時を待っていたのである。
「ここは一騎討ちを行う。貴様らは待機、絶対に手を出すな」
本多忠勝、山上道及はお互いに長さ5mはあろう、長槍を持ち向かい合った。
「参る」
「せいやー!」
お互いに槍を振り回し、柄を交じあわせる。打ち、離れては打つ。お互いに力任せに槍をぶん回す。互角に見えたこの戦いだったが、五分後差が現れ始めた。本多忠勝の槍の柄は勝頼特製の合金で軽くて強い、槍の刃先は斬鉄でできており、勝頼の刀ほどではないが良く切れる業物だ。両名の力は互角だったが武器の差がだんだん響いてきた。徐々に道及の槍は使い物にならなくなっていった。その時、劣勢と見た佐野軍の兵が忠勝に向かって発砲した。
「バーーン!」
その場の時間が止まった。忠勝の肩を銃弾が掠め忠勝は槍を落としてしまった。その瞬間、時間が動き出した。道及は後ろを振り返り撃った者を含め味方兵を切り刻んだ。
「俺の名を汚す者は許さん。全員武器を置いて座れ!」
陣の反対側では、先程の銃声を合図に佐野軍が銃撃を始めた。その後を兵が真田陣営に突っ込んでいく。そしてその時、城門が開き佐野の本隊全員が真田本陣目掛けて飛び出していった。
「あの喚声は、佐野が仕掛けてきたか。貴様らは戻って佐野勢を」
傷口を抑えながら本多忠勝が叫んだ。そして山上道及を見た。道及は、ドカンと座り込み
「わしの負けだ。ここの兵には手出しをさせん。首を持って行け。」
「実はな、大殿、勝頼様がお主を気に入っておる。それがしには戦うだろうが負けるな、もし、もしもだが機会があれば勧誘せよとな。なぜかそのようになったわ。不思議なお方だ我が主は」
道及は呆れた。勝頼の考え方に、そして忠勝の強さに。
「本多殿。折角の戦いに水を挟んでしまい申し訳なかった。あのまま戦っていてもそれがしの負けだったろう。ところでお主の槍を持たせてはもらえまいか」
忠勝はニヤッと笑って槍を手渡した。おおっ、軽いぞ、しかもあんなにやりあったのに刃先に傷がない。武田が変わった武器を使うとは聞いていたがこれは一体?
「山上殿。佐野に恩あるお方はおられるのか?」
「佐野宗綱様には世話になった。武田に付くのは勝頼公に会ってからにしたい。それに宗綱様に今ここで刃を向ける事はできん」
道及は連れてきた部隊とともに投降した。
真田昌幸は夜討ちを警戒していた。忠勝に巡回を命じ、榊原康政、井伊直政に対応できるよう準備させていたため、急襲に対応できた。側面が銃撃され敵が斬り込んできたためそこにいた兵は混乱したが、その後ろに控えていた榊原隊が冷静に対応して数に優る武田軍が盛り返した。正面から出てきた佐野の前衛には、井伊直政が勝頼から預かっていた桜花散撃を頭上で爆発させた。空から爆風とともに敵に襲いかかる無数のマキビシ。佐野軍の進軍の速度を落とすのに十分な効果だった。足が止まったところに弓矢攻撃、兵を減らした。
急襲する予定が、普通のぶつかり合いとなった。となれば数が多い方が有利である。佐野は善戦したが、ジリ貧となり再び城へ戻っていった
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