第115話 北条氏直の最後

 勝頼達は真田隊を佐野の抑えとして残し、小山へ向かった。その頃、山県昌景率いる東北道軍は北条が武蔵へ出陣したと聞き、古河から動けなくなってしまった。


「北条はたったの二千。だが、後ろに付かれるのは嫌なものだ」


 山県昌景は勝頼の軍と連絡を取り、指示を待つことにした。その時、東北道軍に同行していた井伊直政のところに、服部半蔵が現れた。


「井伊様。大殿が例のやつをやりますので、背後は気にせずお進みください。大殿は佐野に真田様を残し小山へ向かわれたそうです」


「服部殿。その例のやつはいつですか?」


「今晩です。北条は引き返すでしょう」






 その夜、戦艦駿河は伊豆にいた。伊東沖から小舟で上陸したお幸、紅、黄与と織田信忠は伊賀者と一緒に準備にかかった。紅は信忠様が一緒でいいのかなあと思い、


「信忠様。本当によろしいので?危険な任務ですよ」


「皆が戦っている時に部屋に籠っていても気がめいるばかりでな。お松に居候なんだから働け!と言われてどうしようかと思っていたらちょうどお幸が何やら慌てて城の中を走っているのを見つけて後をつけたら面白そうな事をやってたので仲間に入れてもらったというわけだ」


「まあ、いいんじゃない?お松様に聞いたらこき使ってって言ってたし」


「お幸さんはお松様とは?」


「大殿の妹君でしょ。昔から知ってるわよ。あの大殿がデレデレだったんだから。陰で妹萌えーーとか言ってたし」


 ぶっ!紅は吹き出した。


「えっ、本当ですか?あの大殿が。でもそんな事言っていいんですか?怒られますよ」


「いいのよ、また置いてきぼりにして。九州行ってる間に失踪しちゃうし。それにバレたらあんたがチクったって事だしね。ほら、喋ってもいいけど手は動かす。信忠様も」


「お幸は面白いな。勝頼殿が羨ましいぞ、部下に慕われて」






 小田原城では、北条氏直が穴山の依頼で兵を出し武蔵を撹乱する作戦を行っていた。武蔵の山県昌景を牽制し、あわよくば武蔵を再度手に入れようとしていた。勝頼が戻ったという情報は入ってきていたが今更戻ってどうするのだ、武田が乱れている今が、今この時に戦が起こっている事は北条にとって都合がいい。絶好の機会と考えていた。


 あの織田信長が死んだ。武田が乱れた。北条はまだ終わっていない、これからだ。と、その時大きな音がして屋根が崩れた。そして城が燃え始めた。


「お屋形様。火事でございます。下へお逃げください」


「何だと!火元はどこだ。」


 氏直は城の中を逃げ始めた。火は上から燃え始めた、何故だ?と考えながら逃げていると今度は下側から火が上ってきた。逃げ場を失い再び城を上り外が見えるところへ出た。城の下から火が上がりもう下には逃げられそうもない、では上はと上空を見上げると城の上空に何かがういている。


「あれはなんだ、何かが宙に浮いている」


 その時、その何かから落ちてくるものがあった。それは氏直のすぐ横に落ち、あっと思った瞬間に氏直は炎に包まれた。北条氏直の最後であった。


 空中に浮かぶ何か。そう、武田軍の熱気球である。乗っているのはお幸、紅、黄与、そして織田信忠。




 少し遡る。


「でかい、でかいな小田原城は。これは攻めにくい城だ。あの上杉謙信公が13万の軍勢でも落とせなかったと聞いて、嘘だと思っていたがこれならばわかる。いやあでかい」


 織田信忠は初めて見る小田原城に感激していた。しかも上からである。城の全貌が丸見えであった。お幸はそんな信忠を放っておいて冷静に準備を始めた。


 上空からまず手榴弾を落とし屋根に穴を開けた。そこに火炎瓶 亡波呀無断ナパームダンを落とし、その後で城の下側にも落とした。相良油田から汲み上げた限りなくガソリンに近い原油で作られた火炎瓶。木造建築物には爆発的な効果がある。あっという間に炎は燃え広がり天下の小田原城が燃えていった。


「何だこれは?武田軍はこんな武器を持っているのか。圧倒的じゃないか。これで戦に勝てるのか。たったの四人だぞ」


「大殿は使い所を間違うと脆いと言ってます。夜討ちにはいいですけどね。信忠様は一度この気球にお乗りになっているので今回お乗せしましたが、他言なされませぬよう」


 お幸は信忠に釘を刺した。話したら殺す、と殺気を含んで。


「他言などせぬ。余は織田を取り戻さねばならぬ。それには勝頼殿を敵に回しては実現はできぬ。ところでそれ、その燃えるやつ。一回やってみたいのだが」


 信忠は子供のような目をしてお幸に頼んだ。お幸は、ほっんとに男ってやつはとある意味呆れながら、信忠様も憎めない人ね、と思い 亡波呀無断ナパームダンを渡した。


「まだあそこが燃えてないな。狙ってみるか」


 信忠は狙って落とした。ちょうどそこに氏直が現れ上を見上げた。そう、全くの偶然だが氏直にとどめを刺したのは織田信忠だった。





 小田原城は翌日も燃え続けた。気球は伊東に戻りすでに戦艦駿河に回収され、駿府へ戻っていった。


 武蔵へ出陣していた北条軍は、小田原城の後始末に戻っていった。城はほとんど焼けてしまった。


 山県昌景軍は後ろを気にすることなく小山へ軍を進め始めた。

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