第111話 信忠の扱い方

 勝頼が到着した時、すでに戦は始まっていた。先鋒は三河勢と今川勢、競い合うように仕掛けている。谷村城は城というより館に近い。岩殿城に籠城するかと思っていたのだが覚悟を決めたのか、この城では戦えないというのに。

 ところが、強い、強い。さすが武田軍でも精鋭と言われる小山田軍である。


「信勝。戦況は?」


「大殿、着きましたか。一気に攻めようかと思いましたが抵抗が強く平行線です」


「小山田勢は手強いだろ。だがこうなった以上潰すしかない。武田を裏切った者がどうなるか世間にしらしめる」


「では、なぜにあんなに甘い条件をお出しになったのです?」


「駆け引きだ。小山田の回答は予想通りだった。これでまた寝返るような男ではない。けじめだろう。ただ、小山田の軍は強い、だからこそ取り戻したい。わかるか?」


「大殿。まさか最初から考えていらしたのですか?」


「あたりまえだ。このくらいできないと秀吉には歯が立たんぞ。小山田を切腹させ、兵は安堵。あとはわかったな。任せる」


「はい、昌幸。忠勝と半蔵を。桜花散撃改を使う」


「これを使え。射程距離が長いぞ」


 勝頼が持ってきた新兵器、桜花散撃改の発射台である。現代に戻って調べてきたいわゆる迫撃砲もどき。格さんに作ってもらい、助さんが量産化した。今回は3台持ってきた。今まではボーガンを使っていたが、これで射程距離は100mにもなった。


 昌幸は敵兵の少ない所を狙って桜花散撃改?を発射した。爆音とともに破裂する手榴弾、そこから小さい手裏剣が空を舞い兵を傷つけて行く、はずが音だけで花火のように火花が散っただけだった。信勝は、あれ?なんか違うと思い、


「こ、これは」


「今回は出来るだけ兵を傷つけたくないのでな。威嚇用の弾だよ。桜花乱舞という。直政、もう一度行ってこい。腹を切れば兵を助けるとな。ほれ、もっと撃て」


「承知!」


 井伊直政は、爆音が炸裂する中、谷村城へ再び入った。


「小山田様。大殿がお着きになりました。小山田様のお命で兵は助けるとの事でございます」


「井伊殿。それがしが何で攻めにくい岩殿城でなく、この谷村城にいるかわかるか?」


「お覚悟をお決めになったのでは?」


「覚悟か。まさか勝頼公が戻ってくるとはな。最後は小山田の名に恥じぬ戦いをしたいのだ。岩殿城では籠城はできるがそれができん」


「兵のお命をご自分の意地のためにお捨てになるので」


「…………、井伊殿。お若いのになかなか言うではないか。侍が意地を無くしては終わりぞ」


 城の外では爆音が続いている。


「大殿は兵を殺したくはないと申しておりました。大きな音がしておりますが全て威嚇用の物です。これを武器に変えますと小山田様は城を出る事なく軍は全滅致しましょう。それで、小山田様の意地が通りますか?」


 命乞いをする気はない。敵わぬまでも一矢報いるつもりだったが城から出ることもできないと!そんな事も叶わぬのか。


 小山田は天を仰ぎ、自害を了承した。




 勝頼は谷村城に入り信勝、昌幸と小山田の領地について話した。


「信勝。どうしたい?」


「小山田の嫡男にこの谷村城を。残りは今回の戦の功労者へどうかと」


「嫡男か。信満には会ったことあるのか?また弓を引くようではな」


 昌幸が答えた。


「温厚な男です」


 信勝は、


「小山田家は譜代、名前は残したいと思います」


「いいだろう。それでだ、織田の事なのだが」


 勝頼は信忠が命からがら逃げてきた事、清須会議の結果について話した。当面どうするか、家督を継いだ信勝が決めるべきだが経験不足。まずは腹の中を説明した。


「一つ、敵は秀吉だ。このまま放っておけば織田を統一して四国、九州も取るだろう。いずれぶつかるがどの時期がいいかだ。できるなら早めに仕掛けたい。一つ、穴山は放っておけない。このままあの位置に穴山がいると何をしてくるかわからん。秀吉と組んで挟み討ちにされるかもしれん。また、東北勢も心配だ。一つ、信忠をどう扱うか。織田に戻すか、このまま一人の将として扱うか。昌幸、どう思う」


「はい、秀吉は恐ろしい男です。穴山も小山田も秀吉がいなければ武田を裏切る事はなかったでしょう。これ以上大きくなる前に戦うべきだと思います。ただ、武田家は内紛の最中。穴山を倒すのが先決かと」


「ただそれでは秀吉とぶつかるには兵が足りん。穴山は簡単にはいかぬぞ」


「はい、それがしの策はまず織田信雄、柴田勝家と結び信忠殿を大将にして武田から一万の兵を付け秀吉を攻めます。すぐには決着はつかないでしょう。その間に武田内部を平定し、信忠殿に味方します」


「柴田勝家は上杉と争っている。景勝殿にも義理を通さんとな。それと信雄が信忠をどう思うかだ。一応三法師の後見として三ヶ国の太守になったばかりだ。今頃兄貴に出てこられても迷惑なだけだろう。信勝はどう思う?」


「余は武田の棟梁です。織田よりもまずは逆らった穴山を征伐し、その勢いで東北まで武田の勢力を広げます。西から攻めてこないのなら好都合。秀吉が西を制圧する間に我らは東を。いずれ秀吉とぶつかるでしょう。その時に信忠殿を立てて秀吉とぶつかるのです。ただ織田の内紛の間に尾張を取りましょう。信忠殿のために」


「概ね賛成だが、一つ大事な事がある。信忠殿が生きている事をどこでバラすかだ」


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