第100話 誰が黒幕?

 <現代では>


 美濃流は手に入れた金を現金に変えた。これで暫くは生活に困らない。ならばと、図書館に入り浸った。


「戦国で作れそうなものってあと何がある?」


 戦車、無理かな?飛行機、うーん無理すればかな。そういえばお市が潜水艦作ってたな、出番ねえーだろさすがに。思い切って合体ロボとか……現代でも無理でした、はい。大筒はもう織田が持ってる。なんか武器は、と。


 それから諏訪神社について調べた。転生には諏訪神社がからんでいる筈だ。諏訪湖の氷が割れる時に神様が渡る?なんだかなぁ。

 言い伝えには何かしら意味があるよね。


 調べて行くと古事記に建御名方タケミナカタが逃げてきて住み着いたという話があった。古事記かあ。古事記が信用なくて日本書紀が正しいんだっけ?そもそも神様っているの?そういえばお市が女神がどうとか言ってたな。そこら辺も調べるか。


 色々調べた後、諏訪へ向かった。まず向かったのは湖衣姫のお墓である。ここで信玄と会ったんだよな。一応観光地ではないけどわかりやすくなってるんだね。そんなに人が来るとは思えないけど。


 お墓まいりをして振り返った時に何か違和感を感じた。何だろう。気配というか何というか。もう一度お墓を見ると後ろの木のあたりだ、あそこに何かがあるような?近づいてみると見慣れない石があったので手に持ってみた。


「なんだこりゃ?何か変だな」


 透けるわけないよな、と思いながら太陽に向けた。


「うわぁ!!」


 一瞬だが刀を持った侍が見えた気がした。もしやこの石に何かヒントが。その後色々と試したが何も起きなかった。美濃流はその石を持ち諏訪神社へ向かった。







 戦国では、近衛前久が暗躍していた。この男、朝廷の権威そのものであるが、権威を着たムジナとも言える。自分の利用価値を大名にアピールし朝廷並びに藤原家の生き残りをかけ、八方美人のように振舞っていた。


 信長の台頭、最初は好ましく思っていた。右大臣にもなり、部下に官位も与え朝廷を立ててくれていた。


 信長は急激に勢力を拡大して外国の宣教師とも繋がりを持ち始めた。キリスト教は朝廷と噛み合うのだろうか。否、彼等はデウスなる物を神と讃え天皇には見向きもしない。日の本の国は天皇が治めねばならぬ。これはこの国の決まり事であり、何人たりとも変えられないのだ。


 信長は宣教師から色々な物を手に入れているようだ。


 信長にこのまま天下をとらせて良いのか。このまま行くと帝はどうなる?朝廷を守るのがこの前久の勤めである。


 そこに秀吉がつけ込んだ。秀吉は織田家に仕える前から天下を狙っている。いつかどこかで信長を排除しなければ天下は取れない。転生した相方は本能寺で信長が死に、その後上手くやって天下を取ったと言っていた。もう少し具体的に言って欲しかったが詳しくは知らんという。その後、徳川家康に天下を奪われるらしいがその家康はもういない。


 黒田官兵衛という優秀な軍師もいる。官兵衛は忍びを使い朝廷の動きを知った結果、影響力があるのはやはり近衞前久で、前久を動かし光秀に信長を殺させる作戦を提案してきた。もう一人の秀吉は思い出した。そうだ、信長を殺したのは明智光秀だと。


 秀吉は一年ほど前から近衞前久にかなり近づき、親しくしてきた。相方曰く秀吉は関白になるらしい。つまり朝廷と蜜にならなければならないという事だ。未来を知る秀吉は近衞前久を使い朝廷を誘導した。自らは西国から動けないため、文や使者を使い暗に信長危険を刷り込んだ。もちろん直接ではなく暗にである。


 自分は信長信者というスタンスは変えず、周囲には信長危険だよね、という雰囲気を作り出した。


 あとはどうやって光秀に信長を殺させるかだ。

 近衞前久を使い光秀に擦り込みを仕掛けた。


 偶然に偶然が重なって魔が差す時が来た。光秀は時代が信長排除に向かっていると感じていた。ただ光秀とてバカではない。擦り込みにそのまま乗るわけがない。肌で感じた事、情報、色々な事を勘案してでた結論が、自分が信じてきた信長は日の本を救う者ではなかったという事だ。


 では誰がこの日の本を変えるのか。武士は治めるのが正しいのか。日の本を治めるのは帝ではないのか。

 帝の命令で武家が治める、今のように形だけではなく実際にだ。それができるのは誰だ?そう考えていた時に、近衛前久に光秀しかいないと吹き込まれた。


 もちろん切れ者の光秀の事である。さらに悩みに悩んだ。信長が死んだあとの事を何度も何度も想定し、自らが帝の下で天下を取る道を描いた、筈だった。


 信忠を一緒に殺す事、これがまず第一。次に早めに安土城を抑える。柴田勝家は越中にいて出てこれない。秀吉は備中で毛利とぶつかっている。敵は兵が分散している丹羽長秀と伊勢の滝川一益だが大した事はない。あとは味方を増やし、そうだ、近衛前久を使って秀吉を仲間にしよう。秀吉は勝家と仲が悪い。秀吉とはウマが合わないは優秀な男だ。


 織田家を滅ぼし上杉、武田と手を結ぶ。帝の時代がすぐそこに来ている気がしていた。


 織田軍司令官が散らばっている今こそが絶好の好機だった。そこに安土城で信長が光秀の殺意に火を注いだ。


 だが、それでも迷っていた。勝てるのか、やるなら今しかない。備中に進軍する準備をしながらも悩んでいた。




 官兵衛は忍びから、安土城で光秀が信長に叱責され、備中へ来ることを聞いた。近衞前久が上手いこと吹き込んだ事も。秀吉に京へ戻る準備をするよう進言した。


「明智が動くのは今しかござらん。戻る準備を急がれよ」


「官兵衛、そうはいってもまだ毛利との和解が整わん。高松城の水攻めは上手くいっているが、このままではお互いに手が出せん。先ずは毛利と手を結ぶ。織田軍ではなく、この秀吉とだ。毛利に背後を突かれてはどうにもならん」


 毛利からは安国寺恵瓊が使者としてやってきた。秀吉は以前からこの男を調略し、部下のように扱っていた。毛利からは高松城主、清水宗治の助命と兵の解放を条件に毛利10カ国のうち、5カ国を差し出すという物だった。秀吉は、


「宗治殿のお命は諦めてもらおう。示しがつかん。その代わり毛利は3カ国差し出すだけで良い。この条件で、輝元殿、小早川殿と相談してきてくれ。急げよ」


 と恵瓊に伝えた。毛利輝元と小早川隆景は、清水宗治の助命を譲らなかった。


「官兵衛。どう思う」


「ここは和解し、いち早く戻るべきと考えまする。明智光秀は動く。ここで動かない男ではない」


「宗治を助ければ、わしが上様に申し訳がたたんぞ。毛利を滅ぼす気でおられる。光秀が立たなかったらどうする?」


「その時は毛利と組み、明智とも組み上様を葬ればよろしいかと」


「馬鹿を言え、わしは上様には勝てぬわ。誰かに葬って貰わねば」


「殿は気が弱い。では、恵瓊に宗治を説得させ自ら腹を斬らせるのは?」


「それじゃ!」


 安国寺恵瓊は高松城へ入り、状況を城主の清水宗治に説明した。宗治は自分の命で解決するならと承知し、切腹した。


 秀吉は自ら毛利輝元、小早川隆景と会い、播磨まで引き揚げる事を伝えた。備中、美作、伯耆は織田が貰うが毛利とは和議し、毛利は織田に付くという事でまとまった。毛利は織田に水軍をほぼ壊滅させられておりこの時点では妥協せざるを得なかった。


 こうなって見ると、信長への応援要請は要らなかった事になる。官兵衛は信長の隙を作る為、光秀に機会を与える為に信長の備中応援を仕組んだのである。


 本能寺の変の2日前、秀吉軍は急いで播磨へ引き揚げ始めた。毛利との和解は箝口令が引かれ播磨に関所が置かれた。






 明智光秀は坂本城を出て、丹波亀山城へ入った。信長は京の本能寺へ入り茶会を催しているようだ。信忠は妙覚寺に滞在している。自領ということもあり護衛兵も少ない。この後信長は淡路に行くようだ。


 6月1日、明智軍一万三千は亀山城を出発した。出発後、京と中国への分かれ道で京への道を選んだ。


「国敵を討つべく本能寺へ向かう」


 光秀の顔から迷いは消えていた。

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