第94話 崩壊の兆し

「こ、ここは?」


 勝頼は目が覚めた。なんか懐かしい感じがする。気がつくと着ている服が洋風、いや昔着ていた服だった。


「え、諏訪原城? あれ、何で? 」


 ポケットに財布が入っていて免許証を見ると、 馬場美濃流。そうだ、俺は馬場美濃流だよね。夢? ここで寝ちゃったのか。いやあ、リアルな夢だった。陰流奥義、陽炎、な〜んちって。


 ん?なんか思ってたより素早く動けたような。


 美濃流は停めてあった車に乗り、東名高速へ向かった。バイパスを通り、相良牧之原インターから入ろうとして、


「えええええええええええええええええ!!!!!!!!!???????」


 穴名高速という名前だった。とりあえず静岡方面に進んだが、何かが違う。静岡で高速を降りて、本屋へ寄った。


 えーと、日本の歴史、歴史っと。歴史コーナーを探していたら大々的に旅行コーナーが宣伝されていた。穴山だって、どこそれ?


 若者に人気の街、穴山の原宿、ふーん。ん?



 歴史の本があった。


 何?豊臣幕府?家康はどうした? そもそも豊臣は源氏じゃないんだから征夷大将軍にはなれないでしょ。こういう時はブーブルでブブルしかないね。豊臣秀吉っと。


『検索結果』


 豊臣秀吉。尾張生まれ、織田信長に仕え草履取りから始まり、手柄を重ね織田信長に信頼される家臣の一人まで成り上がる。人当たりが良く、人をその気にさせるのが上手い。1582年本能寺の変で織田信長が死んだ後、織田家の相続争いに乗り自らが天下取りを目指し、関白となる。武田勝頼の義娘、茶々を妾として娶り秀頼を得た。茶々は浅井長政の血を引いており源氏の家系という事から、秀頼を征夷大将軍とし、豊臣幕府が生まれる。豊臣幕府は明治維新まで続いた。


 また世界最古の野球場、六甲球場を作り、夏の高校野球の元となった大名野球大会を1592年に開いた。


 ??? 茶々が勝頼の娘、って事はお市が妻。どこかで聞いたようなっておい。


 続けてブブル。


『大名野球大会』


 豊臣秀吉が天下を取った記念に大名の親睦を深めようと開催した世界初の野球大会。第五回まで実施されるが秀吉の死後廃止された。記念すべき初ホームランは駿府城主の武田信勝。


「えええええ!!!」


 本屋で叫んでしまい、周りにの人に睨まれた。


「すいません、すいません」


 東西南北に向けて謝る。さらにブブル。


『武田勝頼』


 武田信玄の四男。信玄亡き後家督を継ぎ、武田家を大大名に発展させる。一時は10カ国を手に入れたが、1581年に突然行方不明となる。その後武田家は家督争いから分裂し、駿河一国の大名となった。


「ちょっと待ったーー!」


 またまた本屋で叫んでしまい、慌てて外へ逃げるように出た。夢じゃなかった。俺は現代に戻ってしまったらしい。あの後武田が分裂して、本能寺が起きたのか。それで秀吉が天下を取った。しかし豊臣幕府って何だよそれ。


 あ、そうだ。穴山。またまたブブル。


『穴山梅雪』


 武田信玄、勝頼に仕えた武田家親戚衆筆頭。勝頼に仕え下野一国を拝命するも、その後勝頼が行方不明になった後、武田家から独立する。武田家の家督争いに便乗し、豊臣秀吉の助けもあり武蔵も手に入れる。江戸城を改築、名前を穴山城とし、地名にもなった。豊臣五大老の一人。


 頭が痛くなってきた。そうか、だから穴名高速なんだ、って何でこうなった。


 俺は何者かに戦国時代へ転生させられた。元々は馬場美濃守の願いを誰かが叶えた。武田が天下獲りに近づき、一番大事な時に何者かが邪魔をした?何者って誰だ?


 思い出した。諏訪だ、諏訪大明神。お市を転生させたのは諏訪下社の八坂刀売神ヤサカノトメ ではなかったのか?てことは俺の転生にも関わっているだろう。

 諏訪に行けば何かわかるかもしれない。何としても戦国に戻らないと。お市が待ってる。冗談じゃない、こんな歴史変えてやる。


 諏訪だ諏訪。だがその前に折角静岡にいるので駿府城に行ってみることにした。思い出した事があったのである。もしもの時の備えがあったはずだ、確かめないと。






 勝頼が消えた後の事、

 駿府城。正月の宴会が盛り上がり賑やかな夜だった。お市は膨らんだお腹が重そうだったが勝頼に新年の挨拶をしてなかったので勝頼の部屋に向かった。


「お屋形様。新年おめでとうございます。入ってもよろしいですか?」


 返事がない。部屋に戻ったと聞いていたが、もう寝てるのか?


「入りますね」


 襖を開けて部屋に入ってみた。誰もいない。先程まで勝頼がいたような気配が残っていたが、どこへ行ったのか?


 探したが見つからずその日は諦めた。翌朝、真田昌幸を呼び勝頼がいないことを知らせた。門番曰く城からは出ていないそうだ、だが場内には見当たらない。


 重臣達は騒然となったが、勝頼は今までも不思議な事を色々してきたのでそのうち現れるだろうと昌幸に後を任せて自領へ戻っていった。


 梅が咲いても桜が咲いても勝頼は見つからなかった。さすがにこれはおかしいと重臣を集め会議が開かれた。


「お屋形様はどうなされたのだ。これでは統制が取れん」


 信廉が言えば、五郎盛信が、


「お屋形様不在でも武田は一つでござる。もしかしたら我らを試しているのかも知れません」


「それにしては長すぎる。お屋形様は家督を継いでから我らへの指示は的確で武田をまとめてこられた。だが、このままでは信廉様の言うとおり統制が取れないし、他国との交渉にも支障が出る。そのうちに他国へ情報が漏れれば攻められる事もあり得る」


 と、穴山がごくまともな事を言った。


「影武者をたてますか」


 信豊が目先誤魔化す作戦を提案すれば、小山田が、


「お屋形様がいない前提で考えるべきでは。このまま戻らなかったらどうなされる?戻ってこられたらその時はその時。暫定で信勝様をお屋形様にされたらどうであろうか」


 一同黙り込んだ。家督が信勝、それでいいのか?五郎盛信、穴山、信豊とそれぞれが想いにふけた。


 山県昌景が結論を出した。


「小山田殿の提案が最も現実的である。信勝様に家督を継いでいただこうと思うが如何」


 山県昌景の発言は重い。一同頷いた。その場はだが。





 お市は男の子を産んだ。名を信心、信じる心。勝頼を信じて待つ、それしか考えられなかった。


 そして勝頼不在の情報は他国へ漏れた。それを聞いた秀吉はあちこちに文を書いた。

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