第93話 歴史に残る大事件

 足利城へ向かう途中、敵の物見と武田軍の物見がぶつかった。物見を捕獲し、話せば命は助けるというと、暫く黙っていたが兵力の差は明らかで黙っていても得はないと、渋々質問に答え始めた。


 敵は武田軍の動きを監視していた。城主の長尾顕長は籠城するふりをしながら、勝頼を射殺する作戦を立てているようだ。

 相手にしても仕方ないので、佐野に兵三千を与え攻めさせる事にした。勝頼は鉢形城から甲斐を通り駿府へ戻った。


 足利城は落城したようだった。佐野へは足利城を与え、その代わり皆川城を宇都宮に返すよう命令した。そして、穴山は宇都宮、佐野を従え下野を支配し始めた。上杉が揉めている隙に、佐竹と組み那須を攻め制圧した。1580年には下野は穴山の支配下にあった。


 足利城には名刀、備前長船長義があった。この刀は佐野から穴山へ献上された。




 駿府へ戻った勝頼はお菊の縁談の準備を始めた。冬が来る前に春日山へ嫁がせたかった。1579年の冬、長坂長閑に連れられたお菊は春日山城に入った。御館の乱の真っ只中に祝言が行われ、武田信豊、長坂長閑が出席した。


 これで勝頼と上杉景勝は義理の兄弟となった。


 その後、信豊の兵糧責めの効果があり、景虎、氏邦は城から討ってでた。景勝は御館に火を放ち混戦となったが消耗していた景虎軍に覇気はなく、ジリ貧となった。景虎は脱出したが、味方に裏切られ命を落とした。氏邦は最後まで抵抗したが討ち取られた。見事な最後だった。一年にも及んだ御館の乱は終結した。




 上杉景勝はこれで家督を正式についだが、国内にはまだ反対勢力が残っておりまとめ上げるのに数年を要する事になる。味方だった新発田発家も蘆名にそそのかされ、一大名として反発し始めた。


 景勝、直江兼続は国内平定に時間を取られ、その間に織田方の柴田勝家に越中、能登、加賀を完全に取られてしまった。ただ上杉には織田を相手する余裕が全くなかった。


 勝頼も織田とも同盟を結んでいるため、見て見ぬ振りをするしかなかった。




 1580年、武田の領地は、飛騨の一部、信濃、三河、遠江、駿河、甲斐、伊豆、武蔵、上野、下野となり、この時点では日本一の大名になった。織田が本願寺、毛利でもたついている中、上杉の乱に乗っかり武蔵、上野、下野を完全に手に入れた。


 歴史を知っているだけでこれほど変える事が出来るのか?いや、勝頼の進め方が上手かったのであろう。




 これを面白くないと思っている者がいた。秀吉だ。そしてもう一人?、こんな筈ではと焦っている神がいた。


 これから勝頼転生の秘密が徐々に判明していく。





 1581年正月、駿府城で武田の重臣が集まり勝頼に年賀の挨拶にきていた。駿河湾で採れた太刀魚や桜エビを使った料理が振舞われ宴会となった。


 嫡男の信勝は13歳、茶々は11歳、初は6歳になった。次男の勝親は結城家へ養子に行った。徳姫との子、信平も4歳になっている。側室の産んだ貞姫、章姫も健在で貞姫は穴山信君の嫡男、勝千代へ嫁ぐ事が決まっている。それとお市が妊娠した。やっとである。


 下野は穴山梅雪が蘆名、伊達連合を抑えている。上野は跡部、内藤が、信濃は真田信綱、長坂、室賀が、三河は馬場、遠江は真田昌幸と勝頼直轄、駿河は曾根、小山田、勝頼直轄、伊豆は水軍が、甲斐は信廉、信豊、小山田、武蔵は信豊、山県、原が治めている。


「皆のおかげで武田は領地を広げる事が出来た。隣国とも同盟を結び残りは北の蘆名、伊達、最上。織田が西へ進む間に北を制圧しておきたい。織田とは将来どうなるかはわからんが、対等以下で付き合うつもりは無い。現将軍足利義昭様には日の本を治める力はない。いずれ武田が天下を取る」


 勝頼は皆に挨拶し、部屋へ戻った。そうは言ったが不安要素が多い。前世では、武田はもうじき織田に滅ぼされ、来年には本能寺が起きる。秀吉が本領発揮しあっという間に天下を取る。


 今は上手くいきすぎている。こういう時こそ足元を固めないと痛い目に合う。本能寺の変、関白近衞前久が黒幕説、秀吉黒幕説、足利義昭黒幕説色々あるが本当はどうなんだろう?


 そもそもこの状態で本能寺は起きるのだろうか?光秀が、「この金柑頭が!」 なんて欄干に頭打ち付けられたりするのだろうか?


 織田の動きは伊賀忍びに見張らせている。本願寺は落ちた。顕如が信長の説得に応じてしまった。秀吉は播磨を制圧しそうだ。光秀も丹波を制圧した。次は武田攻めだが、流石に無いだろう。毛利、長宗我部、そして九州か。どこかで援軍の要請が来るかもな、そういえばお松が信忠の子を産んだそうだ。例の三法師とは違う子供なんだろうけど幸せになってもらいたいものだ。



 考え事をしていたらすっかり夜になっていた。急に眠くなり、そのまま闇に落ちた。


 日の本を揺るがす大事件が起きた。その夜から、勝頼が消えた。


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