第90話 第二次木津川河口海戦

 勝頼は信豊の使者から詳細を聞いていた。穴山梅雪、真田昌幸も同席していた。


「そうか。ご苦労であった。指示を出すまで休め」


と使者を下がらせた。二人の意見を聞いてみた。穴山は、過激な事を言い出した。


「この際、春日山も御館も落としてしまったらどうですか?」


「それでは義がたたん。それに信豊だけでも可能だろうが民や国衆がついてこないであろう。蘆名、伊達合同軍に漁夫の利を掠め取られるのが落ちだ」


「いや、冗談です。御館を包囲して兵糧責めですかな。お屋形様は直接上杉と戦う気はないのでしょう?」


「うむ。これは上杉の戦、上杉内で決着をつけるべき問題だ。だが、景虎に勝たれては困る。昌幸はどうだ?」


「穴山様のおっしゃる通り、兵糧責めが良策と考えます。景虎に味方する者を近づけないようにする事ですが、すいません、御館の地形がわかりませんので。後は東北勢の足止めです。それよりも、」


 昌幸は上杉の戦よりも関東に武田を根付かせる方を考えていた。北条氏邦が、反対勢力をあぶり出してくれた。残っている者たちは反北条か、又は武田に従う者だろう。もちろん中立もいるだろうが。


「関東に武田譜代の者を置き、真に武田領にすべきと考えます」


 それは考えていた。ただ誰がいいか決めかねていた。前世の勝頼は裏切られてる。ただ、今の俺を裏切るやつがいるのだろうか?ん、何で秀吉の顔が浮かぶんだ、あのクソ猿が。


「そうだな。それについては誰が適任か考えているところだ」


「それがしではダメですかな?」


 穴山が突然立候補してきた。やっぱこうなるんだよな、でもこれってフラグな気がしてならない。といっても断る理由はないし一番の適任なんだよ。親戚衆筆頭だし。


「ダメなわけがなかろう。国替えになる。苦労をかけるが頼む。下野を頼みたいと思うておる。国衆をまとめてもらいたい。その下野だが、宇都宮、壬生、小山ら北条と色々ある連中が、まあ土地柄と思うしかないが佐竹、結城、北条、上杉とその時々でどこにでもつく連中だ。これらを皆、武田に従わせねばならん。これから下野を周り諸侯の顔をみて回る。与力に必要な者は付ける」


「武蔵、上野はどうなさいます?」


 穴山梅雪が隣国がどうなるかを聞いてきた。


「武蔵には山県昌景、原昌胤を、上野は内藤昌豊、跡部勝資で考えている。お主と跡部はうまが合わないのであったかな?」


「いえ、そういう訳では。それがしに下野は広すぎるのではと思いまして」


「佐竹、結城が味方と信頼できるまでは辛いか。上下で分けるか。まだ決定ではないぞ。まずは宇都宮城へいってからだ」 


 蘆名、伊達、最上が組めば抑えねばならないし下野は大事な拠点になる。佐竹、結城が抑えになってくれればそれほど苦にはならないであろう。今回佐竹の嫡男、義宣を連れてきているが早めに姻戚関係を結んでおいて損はないかもしれん。


 しかし、北条が静かだと思っていたらそういう事だったのか。氏邦め、敵ながらあっぱれってやつだね。氏直は景虎が負けたら知らん顔して氏邦が勝手にやった事にする腹なのかな。氏直ってそんなに優秀だったっけ?


「誰か重臣の入れ知恵でしょう。で、御館はどうされます?」


 昌幸が人の心を読んで答えてきた。顔に出てたか。


「御館は梅雪の言う通りにしよう。信豊に御館を囲ませよ、あと景勝殿に文を書くので信豊に持ってかせてくれ」







 その頃、織田方九鬼水軍は鉄甲船を七隻完成させた。その内一隻は長島で拾った謎の黒船である。謎の黒船は艦尾にスクリューがついており自転車を漕ぐと回る仕組みになっていた。手漕ぎと併用可能だ。試して見ると船の速度が上がったので他の船にもつけようとしたが上手くいかず、軸が折れてしまったので諦めた。信長から早くしろと煽られており断念した。


 九鬼水軍は、大阪湾に入り石山本願寺へ荷を運んでいる船を沈めはじめた。その噂は本願寺から毛利に伝えられた。


 毛利水軍は第一次木津川河口海戦の後、謎の船団によって船の数を半分に減らされた。無敵と考えていた武器、焙烙火矢も鉄の船には効果がなく、逆に敵の大砲に歯が立たなかった。


 謎の船に対等に戦うべく、船首に大砲を装備した船を五十隻用意し、鉄甲船も三隻作成した。


 織田が鉄の船で大阪湾を占拠したと聞き、準備を整えてから出港した。



 毛利船団三百隻が大阪湾に現れた。織田の船が大阪湾を塞ぐようにしていたため、蹴散らし湾内へ侵入した。


 毛利船団は指揮船の周りに鉄甲船を置き、守りながら進んだ。織田の鉄甲船は周りを木の船で囲み、大砲を撃ってきた。


 毛利船団も大砲を撃ちお互いの船を沈めあった。毛利の方が大砲の数は多かったが、船首に固定していた為織田の船が正面にいないと砲弾が当たらない。織田の大砲は謎の黒船に付いていた向きを変えられる大砲と固定式の大砲を併用していた為、互角の戦いができた。


 ほとんどの船が沈み、毛利の指揮船と鉄甲船他十隻、織田の鉄甲船二隻だけになった。その中には謎の黒船もいた。速度が速く毛利の大砲をなんとかくぐり抜けて生き残っていた。


 織田の残った二隻は毛利の指揮船に狙いを集中しなんとか沈めたが、結局自らも沈んだ。一応結果として毛利が勝ったが消耗が激しく全滅に近い状態であった。


 大阪湾は解放されたが、毛利、織田とも船を失った。本願寺への輸送は村の小舟を使い細々と行われた。


 この戦いで毛利、織田とも水軍をほとんど失った。織田水軍の将、九鬼嘉隆も戦死した。






 武田水軍は勝頼の指示でこの戦いに手を出さなかった。北条に盗まれた楓は、小田原攻めで見つからなかった。勝頼は忍びを使い探させ、織田水軍のところにある事を突き止めた。


 何故織田にあるのか?誰が北条から持ち出したか?答えは一つだった。風魔だ。織田と通じているのかはわからないが、誰かの指示だろう。誰かって誰?


 今度の水軍による毛利織田戦は、お互いに謎の黒船を知った戦いになる。どちらが勝つのか、どっちが勝っても終わってから考える事にして情報だけは取るようにした。両軍の残戦力、楓の行く末は知っておきたかったのである。


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