第91話 可愛い子は正義

 北条氏邦は御館に入り景虎に会った。


「兄上、氏邦参上。すまん、途中で武田にやられ千名しか連れてこれなかった」


「いや、心強い。北条が相模一国になったとはいえ関東の国衆は北条に恩があるものも多い。この戦に勝ち、余が上杉を継げば関東管領として北条と手を組み関東を手に入れる。だが、まずは景勝だ。春日山城を占拠されてしまった。何とか城を攻めねばならぬのだが、城を攻めるには兵が足りん」


「他の大名は?伊達は北条と結んでおる」


「蘆名と伊達が向かっている筈だ。到着次第討って出る」






 武田信豊は御館の近くに陣を張り、兵糧の運び込みを邪魔していた。どうやら北条氏邦は無事に御館に入ったらしい。


 春日山の景勝軍は四千、御館にいる景虎軍は七千。越後各地の城では景勝方と景虎方で争いが続いている。


 蘆名、伊達連合軍は安田城で景勝方の新発田重家に苦戦して兵を引いていった。


 信豊は勝頼の使者として春日山城へ行き、上杉景勝と会った。


「武田信豊にございます。我が主、武田勝頼の文を持参致しました」


「信豊殿。大変ご苦労でござった。北条氏邦の軍を打ち破ったと聞いておる。さすがは信玄公の縁者と感服しておった」


「いえ、氏邦を討ち取るどころか御館へ入れてしまいました。面目ございません」


 挨拶がすみ、勝頼の手紙を読んだ。


『樋口兼続殿とお約束の通り、援軍として信豊を大将とした兵二万を送っております。信豊へはこの戦は上杉殿内部の争いゆえ直接は手を出さぬ様申し付けております。今は御館に入る兵糧を断つよう命令しております。それと、お約束の婚姻でございますが、来月にも輿入れできます。いち早く上杉家をおまとめくださいますようお願いいたします』


 上杉の内紛には支援はするが手は出さないという事か。武田の力で勝ったとなれば後々武田に逆らえなくなる。上杉を立ててくれてるのはありがたいのだが、二万の兵が使えんとは。


「お屋形様の文には何と。それがしには御館への兵糧責めと、春日山、御館、この周辺の城を徘徊するように申しつかっております」


「徘徊とな。なるほど。勝頼殿は景勝自らが勝てと申しておる。その通りじゃ。上杉の名を汚してはならん。上杉の名に恥じぬ戦いで勝利し、諸侯をまとめ上げねばならぬ。どうやら景勝はいい義兄上を持つ事になりそうだ」


「そうでしたな。菊姫様と結婚の約束がおありでしたな」


「信豊殿はお菊殿をご存知か?」


「それがしの従姉妹に当たります。可愛いですよ」


「そうか、それはそれは」


 お互いにその時だけ戦を忘れて笑った。いつの時代も可愛い子は正義である。


「景勝様、これを」


 信豊が渡したのはリボルバー雪風である。護身用にと勝頼からの贈り物だった。


 景勝はその銃に驚きながらも武田との縁が上杉には必要なのだと思い、菊姫の輿入れを急ぐよう手配した。春日山城に菊姫が入れば勝頼は春日山城を見捨てないと考えたのである。


 信豊は引き続き兵糧責めと徘徊を続けた。徘徊する事で他の景虎応援軍を牽制していたのである。







 勝頼は宇都宮城に入った。城主の宇都宮国綱は勝頼を歓迎した。父が亡くなり家督を継いだとはいえ未だ11歳、家の運営に行き詰まり佐竹、武田に頼み支援してもらっていた。


「宇都宮国綱でございます。お目にかかれて恐悦至極にございます」


「武田勝頼である。国綱殿。こちらこそお会いできて嬉しい。早速だがこの辺りの国衆について聞きたいのだが」


 勝頼は宇都宮家は武田に従う事を確認し、困った時は下野に余の腹心、穴山梅雪を置くので頼るがいいと話をし穴山を紹介した。


 この近くの国衆は壬生城、鹿沼城を押さえている宇都宮配下の壬生氏が北条に通じているようで指示を聞かないそうだ。


 佐野城は長年上杉、北条に攻められたが屈せず生き残ってきているらしい。武田につくかはわからないそうだ。


 となれば、鹿沼城いってから佐野城だな。ん、佐野?なんか、あれ、誰だっけ。あーーーー!思い出した。


 居るのかな?行けばわかるさ!


 宇都宮国綱に、穴山梅雪の居城をどこにすればいいか聞いてみた。


「それならば小山城は如何でしょうか?北条の城でしたが今は誰もいない筈です。穴山様のために改築なさっては」


「改築には貴殿の力を借りることになるぞ」


「謹んでお受けいたしまする」


 穴山梅雪隊は宇都宮国綱とともに小山城を見に行き、残りは鹿沼城へ向かった。あんまり北へ行くとザワザワしそうだからやめといた。織田が本願寺手こずってる間に関東制圧しないと。


 一行は鹿沼城に入ろうとしたが、城門が閉まっていた。どうやら当主の壬生義雄他、主なものは北条氏邦について春日山へ向かったらしい。勝頼は真田昌幸に無血開城を命じ交渉させた。


「お屋形様。城に残るは百名。当主不在の城を明け渡す訳には行かぬと申しております」


 まあ、その位じゃないとな。簡単に裏切るやつは信じられん。でもまあ、今回は穴山の家臣にも城をあげないとだしやっちゃいますか。


「昌幸、立派な覚悟だが北条に味方する者を放っておく訳にはいかん。滅せよ」


 本多忠勝が先陣となりあっという間に城は落ちた。小山城の改築が終わるまで穴山にはここに住んでもらうか。


 そのまま壬生城へ向かった。壬生城はすでにもぬけの殻だった。鹿沼城の事を聞いた壬生衆はどこかへ逃げたようだ。こりゃ逆に手強いかもしれんな。


 そして勝頼は穴山梅雪と合流して佐野城へ向かった

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