第69話 再会
それから1ヶ月後、織田軍は伊勢長島の一向一揆の制圧に向かった。過去二度失敗しているので海を含む四方向から一気に攻めるため大軍を引き連れて行った。
越前では織田軍が引いた後、再び一向一揆が盛んになり、織田の領地を略奪していった。羽柴秀吉は越前の抑えとして近江に残っていて日々対応に追われていたので、結局お市が生きていることも、勝頼に嫁ぐことも知る事が出来なかった。
徳川信康は切腹し生涯を終えた。徳姫は石川数正に連れられ岐阜城へ返された。信長はじめ主だった者は出陣して不在で、自身の再婚の話は知る由もなかった。
岡崎城には馬場美濃守が入り、石川数正を使い旧徳川家臣を取り込んでいった。
石川数正は、城から出ようとしていた。三方ヶ原で勝頼に助けられ、信康を見逃してもらったのに自分が不甲斐ないせいで結局信康を殺してしまった責任を取ろうとしていたのである。
馬場美濃守は榊原康政、本多忠勝を使い数正を説得した。勝頼からは出来るだけ死者を出すな、人は宝だと指示されており石川数正を上手に使えと言われていたのである。また、馬場美濃守も数正の事を使える奴と考えており手放したくはなかった。
お市と茶々、初は信長の弟である源五長益、そう後の有楽斎のところでのんびりとしていた。長益は尾張の大草城に住んでいた。信忠の配下という事になっているが、今回の長島攻めからは外されている。
勝頼は久しぶりに造船所にきていた。駿府城はほぼ改築が終わっていたが、予期せぬ事に正室が二人できる事になったので、真田信綱が大慌てて再工事を始めたのである。そのため居場所がなくなった。
「なんかさあ、東のお方と南のお方にするんだと。部屋を遠くに分けるとかいって気合い入れて工事してるんだよ」
「東と南ですか。北は陽当たりが悪いからやめたのですかね?海のお方と山のお方の方が良さそうですが」
高城が新型銃の手入れをしながら羨ましそうに答えた。
「どっちが海なんだろう?若い方?」
勝頼はお市、徳姫とも会ったことはない。お市は同い年位、徳姫は15歳らしい。二人とも再婚、あ、俺も再婚か。この二人って仲がいいのか悪いのか、なんか面倒くさい事になりそうな。まあ嫁いでくるのは一年先だからその時に考えるか。
「ところで高さん、しばらく戦に出てないが体なまってないか?」
「それがお幸さんが暇つぶしに絡んでくるので逆に体術は成長してますよ」
それはそれは。そういえばお幸の姿がないな?
「お幸さんなら、百田殿と船にいますよ。お屋形様考案の空中自転車漕ぎ動力の実験です」
ここの造船所では、商いに使う運搬船と軍艦を作っている。動力はメインは人力だが、人が漕ぐだけだとスピードがでない。幌を張って風力も使うが、いざという時に物足りない。
以前、ハンググライダーに使った加速装置こと、電動ブースターの応用でスクリューを3つ付けた軍艦のテストを行っているようだ。
中央の大きいスクリューは、人が自転車を漕ぎ、その回転で回す。足の力の方が強いし疲れたら手漕ぎ部隊と交代すれば速力アップできる。左右のスクリューは電動モーターで稼働する。両方同時に回すと一時的な加速装置、片側だけ回すと急速方向転換ができる。ただ、あいかわらず電池はあまり長持ちしない。
「すでに軍艦は小型船20隻、大型船5隻は完成してます。土屋様率いる武田水軍の主力艦です」
土屋というのは元今川家臣だった岡部正綱の親戚で北条水軍だった者 だ。岡部の働きで武田側に引き抜きで、甲斐名家の土屋の姓を与えて水軍の将にしたのである。大崩に近い花沢城を与えている。
「武器はどうした?」
「大型船には例の物を取り付けてあります。実験で打ちましたがなかなかですよ」
そうか、あれなら織田の鉄甲船でも勝てるだろう。前世の歴史では武田水軍は活躍してなかったから、ここはなんとかしないと。海賊じゃない、水軍王に俺はなる!
高さんをおいて、裏の研究室へ向かう。そこには
「もしもし、格さん聞こえるかい?」
「ザーッ 聞こえます。 ザーッ」
「エンジンの実験はどう?」
「ザーッ 原理はわかりましたがうまくいきません。ザーッ 」
雑音ひどい。諏訪の山に高いアンテナ建てたけどやっぱ無理があるね。まあ諏訪と話せるだけよしとしないと。いずれ大きな拠点には
「引き続き開発してくれ。あと、駿府に鉄工所作るから若いの何人かよこして。そっちは鉄砲と弾薬に集中させてくれ」
あ、電池切れた。充電は安倍川上流でできるようにしたけど遠いんだよな。ん?もしかして火力発電できんじゃね?原油あるじゃん。でもエンジン作れないようじゃ無理か。道は遠い。
半年が過ぎた。織田の長島攻めは成功し、伊勢には滝川一益が配置された。秀吉はようやくお市が生きている事を知った。喜んだのも束の間、武田勝頼に嫁ぐと聞いて悔しがったが今更どうすることもできず勝頼を恨むのであった。
「おのれ勝頼、今のうちにいい思いしとけ。時さえくれば」
お市は兄の長益から、武田勝頼に嫁ぐよう言われ驚いたが、武田の勢力なら今度は滅ぶ事はないかと前向きに考えた。戦国の結婚とはいえ何度も旦那に死なれるのはつらい。娘達に将来いい縁談が入り幸せになるためには、良いご縁かとすすんで受けようと考えた。
徳姫は岐阜城で信長に勝頼のところへ行くように直接言われた。よりによって信康の敵に嫁げと。しかもお市様まで一緒だという。正妻ですらないのか?信長に絡んだが相手にされず、徳の幸せの為だと言い残して京へ行ってしまった。徳とてこの戦国の世の女の役割は理解している。理解はしているがあんまりである。あまりにもすっきりしない為、お市に会いに行った。
そして、嫁ぐ日が来た。お市、徳姫はそれぞれの籠に乗り大勢の家臣、小荷駄を引き連れ尾張を出発した。
豊橋から浜名湖を迂回し、三方ヶ原を通り、そう勝頼の前世で姫街道と呼ばれた道を通って浜松城についた。姫街道の名前の由来は定かではないが、姫様が通ったから姫街道になったのかもしれない。
ご一行は浜松城に一泊し、駿府へ向かった。
駿府城では勝頼が落ち着かず、あっちへ行ったりこっちへ来たりしてうろついていた。穴山梅雪はそれを陰で見て笑っていた。戦では凄い勝頼も美女?には弱いのかと、見て楽しんでいたら勝頼に見つかった。
「梅雪、何がおかしいのだ」
「お屋形様、少しは落ち着かれたらどうです?あ、もう到着される頃では。そんなにうろつかれては家臣に迷惑です。城門へ行かれたらどうですか?」
迷惑だと、余はお屋形様だぞ。まあ、迷惑ですね、はい。
無事に到着し、お市の方は東の部屋に、徳姫は南の部屋に入った。一息ついた頃、勝頼が挨拶にまず東の部屋に赴いた。
「お市殿、長旅お疲れでしょう。先ずは疲れを癒し……」
平伏していたお市が顔を上げた瞬間、何かを感じた。何だ、この感覚。俺はニュータイプか?
その時、お市が言った。
「久しぶりね、美濃流君」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます