第68話 戦略再婚だーZではなくZZ

 勝頼は記憶を思い出していた。確かこの後、朝倉義景と浅井長政の頭蓋骨でなんかするイベントがあったような。信長の狂気がなんたらかんたらっていうやつ。遠慮したいぞこりゃ。義理も果たしたしさっさと撤収だね。


 勝頼は穴山梅雪を連れて信長本陣へ赴いた。


「信長殿。此度の大勝利、お祝い致します。これから武田軍は駿府へ向かいます。実はご存知かと思いますが本拠地を駿府へ移します」


「駿府城の改修をしているそうだな。何やら立ち入り禁止区域があるようだが」


「間者がうるさいので罠を張りました。沢山釣れたようです」


 信長はそういう事かと理解し、少し考えてから、


「武田軍には優秀な軍師がいるようだな。名を教えてくれぬか?」


「信玄公のやり方を重臣が皆学んでおります。強いて言えば重臣皆が軍師ですかな」


「穴山殿。勝頼殿はこう申しておるが誠か。戦上手がいるようだが」


「信玄公は偉大なお方でした。そのやり方を重臣一同身に染み込ませております。ただ、お屋形様はそこにさらに新しいことを取り入れております。お屋形様こそ日本一の軍師と思うております」


「ふむ。勝頼殿はよい家臣を持たれたな」


 信長は恐るべきは勝頼かと再認識した。さあどうするか。


 勝頼は帰る前にこの話だけはつけてしまおうと話を変えた。


「信長殿。徳川のことでござるが、やはり許す訳にはいかないと。信康には腹を切らせようと思います。信長殿から見れば義理の息子ゆえ心苦しいのですが」


「仕方あるまい。勝頼殿の思うようにしたらいい。約束通り西三河も渡す」


「それで、徳姫の事ですが、お引き取り頂きたく。まだ若いゆえやり直す事もできるかと思います」


「わかった。こちらからも頼みがある。この際、決めてしまおう。本願寺の支援をやめてもらいたい」


「本願寺顕如には姉が嫁いでおります。じゃけんにはできませぬが織田と同盟を結んだ以上当然の事です。表立った支援は致しませぬ。静観します。東国の抑えは武田に任せ、思う存分西へ進み下され。信長殿は毛利とも結んでいる様子。問題は足利将軍家ですかな」


 信長は勝頼との会話から武田の諜報網が信玄亡き今も機能していることが確認できた。後は、勝頼をどこまで信用するか、いつまで信用するかである。ただ当面は勝頼のいう通り、本願寺と足利義昭を潰さねばならない。その間だけでも武田には大人しくしていてもらいたい。


 そこでふと閃いた。ただの思い付きである。うむ、それがいい。いや、ならばついでに全て押し付けるか。


 信長は勝頼に向かい不気味な笑みを浮かべながら話をはじめた。


「勝頼殿、雪姫亡き後正室がいないようだが」


「はい、立場上なかなか」


「織田と改めて縁戚にならぬか。信忠とお松殿の婚姻も進めたいが、勝頼殿と直接結びたい。織田と武田をより親密にするのだ。男が産まれればなお良い。どうであろうか?」


 ん?まさかお市とか言うんじゃないだろうなあ。秀吉と喧嘩になるぞ。しかも子持ちで淀君まで付いてきちゃうじゃん。クワバラクワバラ。


「有り難いお話ですがまさか子連れでは?」


「不満か、いい女だぞ」


 勝頼の苦笑いを見て、穴山梅雪はどうしたものかと思案していた。お屋形様は今後織田とどうするつもりなのか?恐らく当面は手を組むのだろう。織田を攻めるのなら今回朝倉と組むべきだったし、こうなった今、織田と縁戚を結ぶのは悪くはない。子連れというとお市のお方か?絶世の美女と聞く。見てみたいし、見てみたい。あー見てみたいったらありゃしない。


「お屋形様。差し出がましいようですが、良いお話ではないでしょうか」


「梅雪。黙っておれ、簡単なようで難しい話ぞ」


「おお、穴山殿からもお勧め下され。実は勝頼殿は勘違いをしておられる。実はな…………」


 <心の声>


『えーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!???!!!???』


 あまりの驚きに絶句する勝頼であった。ただ信長の口から直接頼まれ、しかも表立った戦の話でもなく、断る理由も何一つ見つからず、1年後に再婚する事になった。


「勝頼殿。駿府での暮らしが落ち着く頃には、こっちも落ち着いているだろう、よしなに頼む。我らも岐阜へ引き上げる。次は織田は長島本願寺を攻める。勝頼殿、また会おう」


 双方引き上げていった。


 えっ、誰と誰がどうなるって?





 武田軍は昌幸の居城浜松城へついた。そこには、山県昌景が待ち構えていた。


「お屋形様。無事のご帰還、恐悦至極にございます。主だった重臣は駿府の普請と領国の政事に没頭しており、それがしだけのお出迎えになってしまいました」


「昌景。ご苦労。それで良いのだ。皆がやるべき事を行う、それが武田だ。さて、軍議ではないな、いやこれも余にとっては戦だな。軍議を開く」


 集まったのは、山県昌景、馬場美濃守、武田信豊、穴山梅雪、真田昌幸の5名である。


 勝頼は話始めた。


「浅井、朝倉は滅び、尾張、美濃に加え近江と若狭、越前の一部は織田の領地となった。京や堺も抑えている。これから織田は西へ侵攻する。わが武田は織田とは争わず同盟を継続する。先はわからんが、余はいつか天下を取る。だがそれは今ではない」


 そして、本願寺の表立った支援はしない事、徳川信康に腹を切らせる事。西三河を武田の領地とした事を伝えた。

 そして、岡崎に馬場美濃守、吉田城は武田信豊、二俣城は五郎盛信、長篠に室賀入道、三島に小山田信茂、富士、蒲原は穴山梅雪と要所に重臣を置くことにした。領地が増えたが、新領地こそ運営が難しい。もちろん、甲斐、信濃、上野を守備する者に付いても皆加増した。駿府の普請で雇った浪人達も多く召抱えた。


 ただ、急に家臣が増えた事により、その中に敵の忍びや間者が忍び込んでしまっているだろう。それについては、茜に命じ監視させる事にした。見つけてもいざという時の為に泳がせるようにしてある。


「さて、織田信長だが武田を恐れているようだ。勝頼を信じたいのだが怖いのだ。そこで余に楔を打ち込んできた」


 勝頼は一呼吸おいて、


「余は妻を娶る事になった。お市の方と徳姫。一気に二人だ」

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