第65話 龍ノ息吹
勝頼軍は五千とはいえ、兵を分散して配置していた。浅井軍が向かうは風林火山、諏訪大明神の旗で飾られた勝頼本陣と六文銭の旗印、真田昌幸の計二千。五百の軍が前に三列、後ろに勝頼含む五百、魚鱗の陣を組んでいた。
出てきた浅井軍は約二千。定跡通りに鉄砲を撃ち、弓矢を放ってきた。昌幸の軍もお返しに鉄砲を撃ち、お互いに竹襖や鉄の盾で防ぎひと段落した後、徒士の兵が突っ込んできた。
小手調べのヒットアンドウェイのつもりであったのだろう。だが、昌幸は待ち構えていた。待機していた鉄砲隊第二陣の一斉射撃で、一気に百人を葬った。
「今回は高みの見物の予定だったのだが。出てきちゃったなら仕方ないなあ。おい、龍を用意しろ!」
勝頼は前に出た。
「あれが、勝頼ぞ、討ち取れー!」
鉄砲で怯んだ浅井軍が一呼吸おいて突っ込んできた。
勝頼の前には木で掘られた龍の置物があった。勝頼のかけ声で龍の目が光り、首が伸び始めた。勝頼は三方ヶ原で徳川軍が使ってたメガホンを使い叫んだ。
「武田軍は龍を操る。見よ、科学忍法 龍ノ
勝頼の合図で龍の口から炎が吹かれ、突っ込んできた浅井兵を焼いた。火のついた兵は
「アチー、アチー、アチチノチー」
と言いながら辺りを転がり回る。そして接触した兵の衣類に火が燃え移りどんどん広がっていった。
龍の口は左右に動き炎を吐き続ける。突っ込んできた浅井軍三百人はほぼ全滅となった。
「おい、お前ら今だ」
勝頼の掛け声で走り出す少女4人。そう、戦国飛行少女隊の4人である。4人とも背中に大きな箱を背負っている。箱からは何やら蛇腹のホースのようなものがついている。
4人は突っ込んでいった前衛が炎に包まれている姿を見て呆然としている浅井軍後陣に等間隔の距離をあけ突入した。
「いっくよー、科学忍法
4人は蛇腹を持ち、先端を敵に向け回転を始めた。その先端から龍が吐いたのと同じ炎が噴き出した。
「ギャー、アチー、アチー!」
浅井兵は叫びながら暴れまくる。4人はクルクル回りながら炎を撒き散らす。火は周りの兵に燃え移る。それはまさに地獄絵図。勝頼は再びメガホンを持ち叫んだ。
「武田に逆らうと地獄の炎に焼かれる事になる。城へ帰って浅井長政に首を洗って待つように伝えろ!」
「あ、ヤバい、燃料切れた。撤収!」
桃が叫んでダッシュで引き下がっていった。
浅井軍は引き上げる4人に攻撃する余裕もなく、城へ戻っていった。この戦での死傷者、武田軍は0、浅井軍は七百人にもなった。
穴山隊、信豊隊、馬場隊は、離れた所から勝頼の戦いを見ていた。駆けつけようと思ったがつい、魅入ってしまった。浅井軍が引いた後全軍合流した。
穴山 「お屋形様。今のは何でございますか?木の龍が火を噴くとは」
信豊 「いやあ、味方で良かった」
馬場 「これがお屋形様の言っていた新しい戦なのですか?」
そう、現代でいう火炎放射器である。高圧洗浄機で水の代わりに火をつけた原油をまくイメージで格さんに作ってもらった。龍の目はただの電球だし、首が動くのは電動仕掛けである。龍の口から炎を吐くようにしたのは、まあ、カッコいいじゃんね。
戦国飛行少女隊のは、農家のおじさんが農薬をまくイメージで助さんに作ってもらった携帯式の火炎放射器である。
「これからの戦は変わる。今回も定跡通りに鉄砲を撃ち合い、戦が始まった。鉄砲は連射ができないと思い込み敵は突っ込んできた。昌幸はその裏をついたわけだが、鉄砲が戦のやり方を変えたのは事実だ。
だが、これからは更に変わっていくだろう。新しい発想、新しい武器を制するものが天下をとる。この武器は火炎放射器という。これは使い所が難しい。間違えば自陣に被害が及ぶ。
今回は上手くいったが、世に知れてしまえば敵もそうは引っかかるまい。それに弱点もある」
「燃料が無くなればただの箱ですな。しかし、絶妙な攻めさばき。お屋形様にしかできない芸当です」
昌幸が答えた。昌幸は事前に見せてもらっていたので驚きはしなかったが、勝頼の攻める時期の絶妙さに感動していた。あれより早いと避けられる、遅ければ攻め込まれる。
「真田の軍略を参考にしておる。そうだ、幸隆殿はどうされておる」
「ご心配をお掛けし申し訳ありませぬ。砥石におりまする。中風を患って以来、戦に出るのは無理かと」
「幸隆は武田にとって功労者。見舞いに行きたいものだがそうもいかぬ。勝頼にまた軍略をご教示下されと伝えよ」
「有難きお言葉」
そう、昌幸の父、幸隆は信玄の時代、信濃を平定するのに大活躍をした。勝頼が師と仰ぐ人だが、家臣は家臣。他の家臣のてまえ、えこひいきもできない。
と、その時秀吉が戻ってきた。
「こ、これは。何があったのでありますか?人が焦げている。お、龍だ、龍がいるぞ」
秀吉は龍に近づき一目見て、何かに気づいたように一瞬微笑んでから、
「勝頼様、これはどういう仕掛けで?」
「そなたには教えたくないな。家臣に何を吹き込んでおる?」
「滅相もない。織田と武田は同盟を結んでおります。家臣同士親しくしておいて損はないでしょう。秀吉は武田軍の皆様と親しくなりたいのです。しかし、困り申した〜。信長様から勝頼様を見張っているように言われていたのに、何が起きたか見ていませんでした。いやー困った困った。この辺りを綺麗にして証拠隠滅しますかいの〜」
「本当に見ていなかったのか?そうは思えんが」
こいつ絶対陰で見てたよ、だって秀吉だよ。何を聞き出そうとしているのか?この時代の人間に説明してわかるとも思えないが、真似されても困る。悩んでいたら信長からの伝令がきた。
『朝倉義景を討ち取った。直ぐに戻り、浅井を攻める』
秀吉は焦った。そうこの男、手柄が欲しいのである。朝倉攻めには参加できなかった。では、小谷城では秀吉が功一等にならなければならない。どうする?
「勝頼様、浅井攻め、この秀吉にお譲りいただきたくお願い申す」
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