第62話 岡崎会談
勝頼は駿河には元今川家臣を、遠江には今川、徳川に仕方なく仕えていた国衆を中心に政治を行った。もちろん、領地間には譜代を置き監視しつつである。一時的に織田と組むと決めたが先は全く見えない。
すでに歴史は変わってしまった。そしてこの先の日本は勝頼の行動で作られていくのである。ならば人を大事にしたい。
前世では約10年サラリーマンだった。ぺこぺこしたり、理不尽な出来事も仕方なくこなしたりもした。人を信じられなくなる事もあった。その経験は転生後に活きた、そうこれからも活かしたい。
勝頼は家康を殺して歴史を変えた。無事に家督も継いだ。一息ついた時にふと、自分が何の為にこんな事をしているのかわからなくなった。天下を取るのは馬場の夢であって俺の夢ではない。
なぜ転生したのか?なぜ母上の顔が恵ちゃんに似ていたのか?
「天下取りは二の次だな。秘密を解いて行こう」
そう思ったが、自然と天下を取る方向に進んでしまうのであった。
沙沙貴綱紀は、秀吉より先に信長へ勝頼の考えを報告した。
「岡崎だと。勝頼め。余を試す気か」
岡崎城主徳川信康は、勝頼を恨んでいる。だが、もし会談で何か起きればそれは信長の手落ちとなり世間に顔向けができなくなる。
「勝頼公は広がった領地の経営に重きを置きたいのだと思います。西上する気はないと言っていました。ただ、真の胸の内はわかりませぬ。朝倉を討つのなら勝頼公自らが兵を率いて参戦すると言ってました」
「会わねば話が進まんな。下がってよいぞ」
その後、秀吉が報告に来た。
「勝頼の下へ行ってまいりました。殿と同盟を結ぶよう根回しをして参りました」
「根回しだと、して答えは?」
「考えておくと」
「たわけが、甲斐まで何しに行ったのだ!もうよい、岡崎に行け。信康のところで勝頼と会う」
岡崎だと?秀吉は少し考えてから事の重大性に気づき、慌てて岡崎へ向かった。
勝頼、馬場隊は諏訪経由、穴山、信豊隊は富士から清水経由で集合場所の浜松へ進軍した。勝頼は一足先に諏訪へ行き、工場に寄っていた。
「今回の戦は山城だ。空撃の出番はないだろう。織田の目もあるし新兵器は持って行かぬことにする。ただ何があるかわからぬ故、護衛に10人ほど連れてく。それと信長への土産だが塩硝3樽、馬10頭、そして武田1号と弾丸10発にする」
「宜しいので?火がいらない弾丸の技術が織田に渡りますぞ」
「1発しか撃てない銃にそれ程の価値はない。それより信長に武田の怖さが伝わる価値の方がでかい。簡単に武田1号をくれる勝頼を馬鹿と思う信長ではないぞ、逆に恐れおののくだろう。あ、あれは持ってくよ。土産じゃなくて戦闘用に。途中で油田によるから」
そう、この時はそう思っていた。だが、敵陣には奴がいたのだ。
久々に格さんと話をしていたら、戦国飛行少女隊の4人があらわれて、従軍を要望してきた。今回は空からのは使わないと行ったのだが、格さんがあれを使うなら連れてった方がいいというので、ちょっと不安だが連れて行く事にした。
「お前達、練習したのか?使い方間違うと大怪我だぞ」
4人揃って大丈夫というので信じる事にした。まあ、出番がない方がいいんだけどね。勝頼は直接浜松へ、4人は途中で油田によってから合流した。
総軍五千となった勝頼軍は浜名湖を迂回しつつ豊橋へ入った。そこから勝頼、穴山、昌幸が護衛五百名を連れて岡崎城へむかった。昌幸の家臣である本多忠勝、榊原康政を連れて。
岡崎城では予想もしない展開に戸惑いつつ、石川数正が駆けずり回りなんとか準備を間に合わせた。すでに会談の前日であり、羽柴秀吉も岡崎城に入り準備に追われていた。
「徳川様、まずは明日を終わらせる事です。徳川様が織田と武田を繋ぐという大事なお役目を無事にやり遂げるのです。大手柄になりますぞ」
「羽柴殿。何故余がそんな事をしなければならないのだ。武田勝頼を討つ絶好の機会ではないか。隙あらば討つ覚悟じゃ。勝頼は父の仇、このような絶好機、二度とないやもしれん」
「おやめください。もしそうなれば我が殿が徳川を滅ぼしますぞ」
「何故じゃ?武田は共通の敵ではないのか?」
「今や武田は駿河と遠江も治める大大名。おいそれと手出しは出来ませぬ。それに勝頼は強い。徳川様ではかないますまい」
「やって見なければわからぬ」
「くれぐれも短気を起こさぬようお願い致します。この秀吉、信康様を悪いようには致しません」
秀吉は困っていた。思ってる以上に信康は子供だった。大局を見るという事が、自分の行動がどう影響するのかがわかっていない。仕方なく石川数正と会い、徳川家臣で抑えてもらうよう頼んだ。何か起きたら知らん顔するしかないと決めた。
会見の場は岡崎城離れの間。信長、秀吉、勝頼、穴山、そして見届け人として信康、数正が同席した。
「義父上、武田の勝頼でございます。やっとお目にかかれました」
「勝頼殿、養女とはいえ雪は我が娘も同様であった。孫は元気か?」
「はい、信勝といい、6歳になります。きかん坊で困っております」
「健やかで良いではないか。おい、信康。父の仇が目の前におるぞ」
信長が爆弾発言。庭に待機していた本田忠勝の頭から血が引いた。一瞬動きかけたが榊原康政に止められた。
「待て、信康様の出方を見よう。徳川には恩がある。だが我らは今武田の家臣だぞ、焦るな」
そう、この二人は真田昌幸の配下になっていた。若い昌幸に軍略で全く敵わず、既に心は昌幸派だった。が、そうはいっても信康を前にすると感情が動くのが人間である。
信康は歯を食いしばって勝頼をしばらく睨みつけた。数正に、殿、と声をかけられ大きく深呼吸した後信長の方を向き
「父は弱いから負けたのです。勝頼様を恨むのは筋違い。徳川が強くなればいいだけの事でございます」
「ふん、猿。おまえの入れ知恵か。まあいい、いい答えだ。勝頼殿、どう思う?」
「立派なお答え。武田は信康殿と戦をする気はありませぬ。そちらから来れば容赦はしませんが。三方ヶ原の時、そちらにいる石川殿に岡崎城を明け渡すよう説得をお願いしたのですが、この勝頼ではなく、信長殿を頼られた。勝頼もまだまだ未熟と反省した次第。今回は信康殿と一緒に信長殿の応援に兵を出そうかと思っております」
「信康を手なづけてどうする?その後余を討つのか?」
「先の事はわかりませぬ。ただ諏訪大明神のお告げでは今はそうするのが良いと」
「諏訪大明神のお告げだと。勝頼殿は神の声が聞けるのか?」
「いつもではありません。聞こえる時があるのです。浅井朝倉を攻めるのに協力します。その先はわかりませぬが、状況によっては」
3者の思惑が交差する。徳川が生き残るにはどちらかにつかねばならない。強い方につくだけだ。
織田は浅井朝倉を潰せば後は楽になる。ただ、武田は大きくなり過ぎた。どこかで潰さなければ行けないが、勝頼が現状で満足するなら、西を抑えてしまえば何とかなるから今は同盟を結べば良い。
勝頼は織田を今潰しても、毛利や足利義昭まで手を伸ばす余裕はないし、相当な戦力を消耗する。そうすれば、北条が動いてまた面倒な事になる。織田にうざいやつらを任せた方が得だと考えていた。
「信長殿、すでに兵を豊橋に控えさせております。このまま小谷城へ向かいたいのですが」
秀吉は折角の場なので勝頼の実力を見たかった。この調子ならいけそうだとこんな提案をしてきた。
「その前に、信康様の遺恨を取り除くべきかと。そこの庭で試合をしたらどうでしょう。木刀で怪我をしないように」
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