第59話 家康、そして信玄の死
『家康に 過ぎたるものの二つあり 唐のかしらに 本多平八』という言葉がある。勝頼が話をしたかった相手は実は家康ではない。本多平八郎忠勝である。
将来、忠勝の娘が真田昌幸の長男の嫁になるのが前世での歴史。それを変えたくない想いと、本多忠勝という武将をなくすのが惜しかったのである。
「家康殿、先程ぶりだな。すまんが話がしたくての、手間をかけた」
「勝頼殿。何故わかったのだ。逃げる方法は色々あったのだ、何故待ち構えられたのだ」
「余には諏訪大明神の加護がある。神が教えてくれたのだよ」
と、適当な事を言って誤魔化したが、家康以下3名は信じたようだ。そういえば徳川家康は信心深かったような。
実際は浜名湖へ逃げる道を玉さん部隊の配置位置で誘導したんだけどね。普通に逃げたらあそこら辺に出てくるのよ。それで違う道行かれたら次の手も用意してたけど必要なかった。
途中で戦国非行じゃなかった飛行少女の4人が見つけて尾行かつ先回りして無事にゲットしたってわけです。
「家康殿。悪いがそなたは助けられん。この後お屋形様のところへ連れて行くがその前に話がしたい。信康殿の事だ」
徳川信康。家康の嫡男で、織田信長の娘を嫁にしている。歴史では、信長の嫡男、信忠より優れている為、信長が将来に危険ありと考え腹を斬らせたという説もある優秀な将、のはずである。勝頼の死んだ正室も信長の養女であり、義理の弟にあたる。
「信康殿は義理の弟にあたる。このまま我が軍が西上すれば岡崎城を攻めることになる。どうだろう、そこにいる石川数正殿を派遣し、信康殿に降伏をさせてもらえないだろうか」
家康は驚いた。自分は助からない事は覚悟していたが、信康さえ生きていれば徳川家は滅びない。いつか再び天下を目指す事ができるやもしれん。忠勝、康政は家康と心中するつもりでいたが、信康の名前が勝頼から出たので思い直した。
「勝頼殿。信康が降伏した後はどうなる?」
「どうもせんよ。しばらくは蟄居してもらうがいずれ西三河は安堵するつもりだ。石川殿に預かってもらうかな。ただし、そこの2人、本多忠勝と榊原康政は余に仕えてもらう。それが条件だ」
「それがしは徳川家の家臣。武田には仕えん」
本多忠勝は吠えた。榊原康政は無言で家康の顔を見た。家康は岡崎城がどうなるかを想像し、ここは勝頼の提案を飲む以外徳川家の生き残る道はないと判断した。
「忠勝、康政。勝頼殿に仕えよ。諏訪大明神と言ったが勝頼殿には不思議な力があるようだ。信長様とは違う怖さがある。徳川家の為、頼む。数正、信康を、信康を守ってくれ」
話がついたので4人を信玄のいる本陣へ連れていった。
「お屋形様。勝頼、徳川家康を捉えて参りました」
「何だと。でかした、でかしたぞ、勝頼」
並み居る重臣の前に家康を突き出した。信玄はご機嫌だった。これで織田信長を討てる。浅井朝倉と向き合っている織田の背後をつき京へ登る自分が頭に浮かんだ。
「明日朝、家康の首をはねる。そして兼ねてからの約束通り、勝頼に家督を譲る」
信玄に家康の部下の処置は自分に任せてもらうよう願い出て許しをもらった。
「すまんが家康が死ぬまでは縄は解けん。余が家督を継いだ後だが、そなたらには余の腹心というか友にあってもらう。忙しくなるがよろしく頼む」
3人に向かい正直に気持ちを打ち明けた。縄を解いて家康と逃げられても困るし、まあ我慢してくれ。
翌朝、家康はこの世を去った。
信玄は、勝頼に家督を譲り『大屋形様』と呼ばれるようになり、勝頼が『お屋形様』になった。とはいえ、武田軍は西上の真っ最中。そのまま野田城へ向かって進軍を開始した。
進軍中に、朝倉義景からの手紙が届いた。それには、既に半年織田軍と向き合っており、帰国するというものだった。そう、織田信長が上杉謙信に依頼した朝倉説得が効いたのである。
信玄は怒った。もう少し粘れば信長を挟み撃ちに出来るというのに何という愚か者かと。怒りが病を悪化させた。信玄はそのまま寝たきりになってしまった。
勝頼は重臣を集め、
「大屋形様はご病気である。このまま進軍はできん。このまま野田城を攻めるが並行して遠江を平定する。馬場美濃守、跡部軍は掛川城へ。信豊、小山田は高天神城へ、山県昌景、穴山隊は野田城を攻めよ。どれも難城だ、急がずとも良い、無駄に兵を殺さぬ事。真田兄弟は浜松の残党を本田忠勝、榊原康政を使い武田のものとせよ。昌幸、そちは井伊谷へ向かえ」
そう、井伊には直虎と後の徳川四天王の1人、井伊直政がいる。勝頼は西上を焦らず足元を固める事に専念した。
半年後、遠江は完全に武田の物となった。石川数正は岡崎城に入り、徳川信康に武田に服従するよう説得したが若い信康は納得せず、義父の信長を頼った。
信長は、浅井の居城、小谷城をを攻めていたが朝倉が引いた為岐阜へ戻っていた。細作の沙沙貴綱紀に、武田の様子を聞いた。
「武田軍は三方ヶ原で徳川軍を一方的に撃破し、家康殿は捕らえられ首を斬られました」
「そうか。信康が頼ってきた。武田の動きはどうだ?」
「勝頼が家督を継ぎました。信玄は病気のようで遠州から動いておりません」
「余は急いでおる。だから比叡山まで焼いたのだ。信玄が死ねばどうなる?勝頼と会ってみるか」
沙沙貴綱紀に、勝頼と会えるよう手配を頼んだ。
勝頼は馬場美濃守に要所である大井川沿いの山の上に城を作らせた。そう、諏訪原城である。この城がないと始まらないからね。また、焼いてしまった浜松城を作り直し、真田昌幸に与えた。配下に本田忠勝、小姓に虎松こと、未来の井伊直政をつけた。
武田軍は東三河まで進出し領地としたが、それ以上は進まなかった。
信玄は枕元に勝頼、穴山信君、山県昌景を呼んだ。
「余は京へ登る事は出来なかった。勝頼、焦るな。余が死ねば織田が動く。上杉も動く。見極めるのだ真の敵を。穴山、三郎兵衛。勝頼を頼む」
3日後、信玄は里美さんに手を握られたまま逝った。
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