第58話 浜松炎上

 三方ヶ原の戦い。徳川軍一万と武田軍三万、これ程の人数がぶつかった戦闘なのに決着はたったの30分でついてしまった。


 この間の徳川軍の死者は千名。この後、逃げ惑う徳川軍の犠牲者は三千名と退却してからの方が死者は多かった。では、引き算で六千名の兵が残ったのかというと、そうではなくほとんどの兵が逃げてしまっていた。


 そう、この夜、浜松城へは約千名の兵しか残っていなかったのである。


 家康が城へ戻った後も武田軍は城へ戻ろうとする徳川の兵を捉え、首を刎ね手柄をあげていた。


 家康は城で怯えていた。なんだあの武田軍の強さは。あんなの誰が勝てるんだ。自分に向かってくる勝頼隊の恐ろしさ。震えながら城の中を見ると、家臣の本田忠勝、榊原康政が口論をしていた。


「籠城だ、武田軍は攻めてくるぞ。門を閉じ立て籠もるしかあるまい」


「何をいう、この状況で籠城したところでどうなる。兵はほとんどいないのだぞ。城を捨て岡崎まで逃げるべきだ。岡崎には信康様がおられる。そこで、織田の応援を待つべきだ」


「笑止、織田の応援だと。あんな腰抜けども、何の役にも立たぬわ。とっとと逃げおって」


 口論は止まらない。二人が気づいたように家康を見た。


「殿、ご決断を!」



 家康は悩んだ。2人の口論を聞いて少しだが頭が整理できた。近くにある味方の城は、掛川城、高天神城。だが、浜松をとられては東西の武田軍に挟まれ織田の援軍も届かないであろう。


 岡崎の信康を頼って落ちのびるのが良策に思えた。だが、どうやって逃げる?城の周りは武田軍だらけである。気賀方面にも手はまわっているであろう。浜名湖を渡るしかないが、できるのか?


 ふと、案が浮かんだ。


「城の門は閉めるな!城の周りを松明で明るくしろ。武田軍が入ってきたら門で打ち果たせ。弓矢、鉄砲隊も門に集中させよ。徳川は城で待ち構えていると思わせるのだ」


 そう、歴史ではここで武田軍は浜松城を攻めなかった。そしてその先で武田は滅んだ。







 その頃勝頼は三方ヶ原の本陣にある勝頼隊のところで、楓、桃、紅、黄与、紫乃を待っていた。


「あ、殿がいた。わたしたち〜、今翔べる……」


「あ、それいいから。お前らが失敗したお陰で仕事が増えたぞ。楓、こいつらと偵察衆、あと残っている旗本連れて浜名湖畔を張ってくれ。読み通り行けばだが作戦通りに。ないとは思うが逆らったら殺せ」


「了解です。ほら、行くわよ」


「楓さん、殿が喜ぶっていうからあんなに練習したのに。私達だって恥ずかしいのに楓さんがやれっていうから。でも今では癖になってつい出ちゃう。わたしたち〜……」


「今度手柄とったら最後までやらせてあげるから、ほら行くよ。あ、殿。例の一式、孫六に渡しましたから。充電バッチリです」


「あいよ、じゃあ頼むぞ」


 さて、もう家康は城へついたかな?城にいない事もあり得るが、今のところ大幅には歴史変わってなさそうだから、まあ城だろ。では、行きますか。世界初、大型無線機。名付けて愛話勝アイハカツ


「孫六、スイッチじゃあなかった、電源を繋げ」


 大きなボタン型のスイッチを押すと、ウィーーーーーーーンという音とともに起動した、1m四方の謎の箱。箱からは高さ2m程の棒アンテナが立っている。

 そう、勝頼が電池を作ってから約20年。何とか作り上げた無線機である。情報を制する者は世界を制す。この時代、電話があれば無敵に近い。勝頼が電池にこだわったのは、電動機と電話を作りたかったのである。


 まだまだ通信距離と通信時間に課題はあるが、ついに実用化できた。


 二俣城の横にある山の上では木村悟郎が、勝頼考案の双眼鏡『見えるんです』を使い、三方ヶ原の戦いを見ていた。大雑把にしかわからなかったが味方が勝ち、徳川軍が逃げているのはわかった。


 ぼちぼちかな、と愛話勝アイハカツの電源を入れ、部下に準備するよう命令した。この山の上には50名の部下が待機している。攻撃に向かうのは30名の伊那忍群である。


「あー、あー、聴こえるか、勝頼だ。浜松城へ向かえ。城を焼き払った後離脱。加速装置使って三方ヶ原まで帰って来い」


「承知。発進だ!」


 悟郎の掛け声と共に、空へと飛び出すハンググライダー群。目指すは浜松城。10機づつ、3編隊となり城へ向かって飛んで行く。


 途中降下しそうになり、助さん特製の加速装置こと、電動ブーストをかける。小型電池を内蔵しており、木でできたプロペラを回し加速することができる。使用回数は3回。


 最初助さんが鉄を加工してプロペラを作ったのだが、勝頼に重量オーバーだからと言われ、泣きながら木で作り直したという裏話をしながら飛んでいくと、浜松城上空に到着した。


「城が明るいな。門に兵が集中している。棟梁、どうします?」


「作戦通りだ。殿は話をしたい奴がいるらしいから、逃げる時間を稼がないとな。一番隊、行け!」


 悟郎の指示で一番隊が、上空から『桜花散撃改』を落とした。大きな爆発音が連続して続いた。


「殿、武田軍の攻撃です。城はもうダメです。逃げましょう」


 家康は本田忠勝に言われ、榊原康政と共に城から出ようとした。


「二番隊、三番隊。亡波呀無断ナパームダン用意、放て!」


 悟郎の掛け声と共に城へ向かって火のついた瓶が投下された。これこそ、相良油田から汲み上げられた原油を使った火炎瓶である。

 相良油田の原油はガソリンに近い。ガソリンに火が付くと爆発的に燃える。正にナパーム弾のように城を一瞬で火の海に変えた。


 空隙隊は役目を終え、三方ヶ原の勝頼の元へ向かった。





「し、城が」


 家康は、火を見て茫然としていた。本田忠勝が慌てて家康を堀へ突き落とし自らも飛び込んだ。榊原康政も続いて飛び込んだ。


「殿、こっちです。皆が城を見ている間に逃げましょう」


 どこにいたのか、石川数正が逃げ道を用意していた。




 燃える城を後ろに見ながら、走る、走る。もうすでに今日は三方ヶ原から城まで走り足は棒のようになっていたが、本田忠勝は何としても生き残ろうと思っていた。

家康は自分の判断ミスで城を失くしてしまい、多くの兵も無くした。このまま生き延びるのが正解なのか悩みながら走っていた。


 走りながら鬼のように迫ってくる勝頼の顔が浮かんだ。勝てない、自信が無くなっていた。


 浜名湖畔まで逃げた。もう動けないと尻もちをついた。ここまで逃げてきたのは家康、忠勝、康政、数正のみ。忠勝が舟を探しに行こうとしたその時、


「徳川家康様ですね。我が殿、武田勝頼様がお話をしたいそうでお迎えにあがりました。ここでお待ちしておれば家康様が現れるとおっしゃられまして半信半疑でしたが本当に来るとは。申し遅れました。勝頼様の部下で楓と申します」


 突然、楓という女が兵50名と共に現れた。

 家康は、ここまでかと忠勝らに降伏を命じ、勝頼陣に向かった。




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