第53話 比叡山焼き討ち
勝頼の秘密工場は3カ所になった。
1つ目が伊那の塩硝工場、ここでは炸裂手榴弾、『桜花散撃』と『桜花散撃改』も作っている。また、電池も作り続けている。
2つ目が諏訪の鉄砲工場。ここでは火縄銃の大量生産、火薬、鉛弾を山から抜けて最初に見える建屋で作っている。ここは敵の忍びに見つかっても仕方ない場所、いわゆる目くらましである。
実はここにはその建屋から地下道を抜けたところに第二、第三の建屋がありここが勝頼新兵器の心臓部である。
『リボルバー雪風』、『化学忍法 雷出印』、『軍艦』のモデル開発、これから登場する秘密の武器の数々はここで作られる。
そして3つ目の工場が駿河の大崩に完成した造船所。ここは規模が最も大きく安倍金山で出た金以外の石も大量に運び込まれ造船以外にも活用されていた。造船所の中には研究所があり、そこには格さんの弟子で技術副部長だった原康政と、駿河の鍛冶屋から引き抜いた田中光吉が主となり開発を進めていた。
田中光吉は、藤枝の田中城城主の田中家の親戚だが子供の頃から刀作りに興味を持ち、鍛冶屋にいるところを引き抜かれた。田中城はすでに馬場美濃守によって武田のものになっていたので、ただの偶然である。
勝頼が来るまでに作っとけと言われた刀がまだ出来上がらず焦っていた。初めて使う材質で、思ったように作れず途方に暮れていた。その時、諏訪からお幸、助さん、高城兄弟と親衛隊jr10名がやってきた。助さんは軍艦をある程度まで仕上げたら諏訪に戻る予定である。助さんも勝頼から言われている新型銃と○○○が未完成であった。
「百田殿とお見受け致します。拙者、田中光吉と申します。実は勝頼様に言われた刀が上手く出来ず困っております。この………」
「その材質ならこうやってああやって………」
「まさか、そんな方法が!これでできるかも」
どうやらいいヒントになったようです。
「さて、造船所に着いたし早速やるよ。親衛隊jrは舟乗りの訓練と、軍艦作りだ。勝頼様がついたら伊豆へ行くからね。助さんは刀はいいからこっちの製造を仕切って。高さんは周囲巡回と、忍び避けの罠をお願い」
お幸はいつでもどこでも仕切りたがりである。
諏訪の第一工場の牢には、伊賀の甚三郎がまだ捕まっていた。腹の傷は治り、いつでも抜け出せそうだったが待遇が悪くないことと、勝頼と話しをしてから抜けようと考えていたらズルズルと時間ばかり過ぎてしまった。
ぼちぼち逃げようかと思った時に勝頼が現れた。
「よう、伊賀者。まだいたのか」
「勝頼様にお会いしてからと思っておりました。命を救っていただきありがとうございました」
「そうか、おい、鍵を開けてやれ」
勝頼は甚三郎を解放して、諏訪湖畔へ連れて行った。歩きながら最近沙沙貴が来ないとか、信長が浅井に裏切られたとか世間話をしたが、甚三郎は無言だった。
「じゃあな、家康殿によろしく。俺は今から古府中へ戻るよ」
「何故某を逃す?」
「もう、お前が見た武器は何回か使ったからな。家康殿も知ってるだろう。まあ、またどっかで会う事もあるだろう。まあその時俺が困ってたら助けてくれ」
甚三郎は岡崎へ戻り、家康に報告した。だが、甚三郎は諏訪に第二、第三の工場がある事に気付かなかった。
武田軍は藤枝の田中城、焼津の一色城、そして大井川を越え小山城を攻撃し手に入れた。家康はそのまま武田軍が浜松方面に進んでくると思い高天神城、浜松城へ兵を入れ、自らも岡崎から浜松へ向かった。
ところが突然、予期せぬ方向から武田軍が攻めてきた。長篠方面から豊橋に現れたのである。
武田軍は散々暴れたあと何故か逃げるように引いていった。
そう、ついに北条と上杉が手を結んだのである。そうなると、信濃が危うくなるので引くしかなかったのだ。北条は氏政の弟を人質に出した。この弟が後に景虎となり、景勝と家督を争う事になる。
その頃、真田昌幸は京にいた。信玄に言われ松永久秀に会いにいったのである。この頃中央では足利義昭、浅井、朝倉、松永、本願寺等がそれぞれの思惑で信長に敵対していた。彼らの期待は武田軍の上洛である。このままでは織田にいいようにされるため、何としても武田にきて欲しかったのである。
昌幸は手厚い歓迎を受けたが、京にいたお陰で信長の比叡山焼き討ちをその目で見ることができた。
寺は破戒僧でいっぱいだった。焼き討たれても仕方がない人種と思えたが、信長の残忍さだけが強調され世に広まった。これに計算された策略を見た昌幸は、その後信玄、勝頼にありのままを伝えた。
勝頼は大崩の造船所にきた。目的はここから舟に乗り伊豆にいる間宮一族との交渉である。田中光吉から新兵器の刀を受け取り、伊丹、お幸、高城兄弟を連れて伊豆へ向かった。
「間宮信高殿、間宮武兵衛殿。お初にお目にかかる。武田勝頼である。此度は我が武田家に仕えてもらえるようお願いに参った。岡部殿から待遇については聞いておろう。どうだ、味方にならぬか」
間宮兄弟は確かに武田の重臣を要求したが、まさか勝頼が来るとは思わず流石に気が動転していた。
「これは本当は内緒なんだが、高さん、あれを」
高さんがみせたのは、今作っている軍艦の1/200スケールの模型である。
「これに乗ってもらうかもしれん。人気が多すぎて約束はできんが」
「これは何と、いや、まさか。船乗りとしてこれを見たからには乗らない訳には行きませぬ。勝頼様、わざわざのお越し、誠に恐悦至極。この間宮信高、喜んでお仕え致します」
間宮武兵衛も同意し、駿河の中に領地を与え引っ越して貰う事にした。上手くいったと思いきや、お幸が飛び込んできた。
「囲まれてます。北条の者です」
敵は10名の武士だった。武器は刀だけ。雪風があるし楽勝そうだけど、折角だから新兵器使おう。
お幸が2名、高さんが2名と戦って仕留めた。勝頼は雪風乱射で4人を無効化した後、刀を抜いた。
この刀こそ、そう斬鉄と言われる炭素を多く含む鉄、いわゆる鋼で作られたあらゆる物を切る事ができる魔法の刀。またつまらぬ物を……で有名なやつである。
その名を『鬼斬り丸』。
敵と刀をぶつけ合ったら相手の刀が斬れた。スゲーぞこれ。敵の胴を鎧ごと真っ二つ、素晴らしい斬れ味である。
お幸と高さんに命じ、周辺を探らせたがもう敵は潜んではいなかったので、舟に乗って駿府へ戻った。
間宮一族もその後無事に舟で移動してきた。舟は便利だね、速いし楽だし。これで相良油田のガソリンで駆動できたら最高なんだけど。
エンジンは勉強してこなかったから作るのきつそうだなあ。
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