第44話 太郎義信の死

 武田家はごたごたしていた。その名の通り家庭内のゴタゴタである。


 太郎義信が、信玄がやった様に親父を追放して自分が跡を継ごうとしたのである。だが重臣は誰もついてこず、嫌々味方するのは傅役だった飯富兵部(山県昌景の兄)と、穴山彦八郎(信君の弟)のみだった。2人は死に、義信は蟄居を命じられた。


 勝頼は、兄がする事に対し何もせず静観していた。兄の事はとっくに見限っていた。

 そんな事よりやる事が多過ぎた。


「悟郎、油田はあったか?」


「はい、地面より黒い水が出ておりました。少しですが汲んでまいりました。」


「助さん、そこの布にその黒い水をつけてみろ。そうそう、それで少し離れて。」


 長めの棒の先に火種を置き、布につけると


「おおー!!!!」


 一気に燃え上がり火柱が上がった。


「これだ。これを探してた。でかしたぞ、悟郎。」


 相良油田。世界で最もと言ってもいいくらい良質な石油が取れる所。そんなのが近くにあるんだから使わなきゃ。精製なしでそのまま入れても車が走ったらしいからほぼガソリンじゃんね。


「悟郎、ここを木村油田と名付ける。伊那の者をこの周辺に住まわせろ。確保だ、確保。格さん、技術部の若いのも2人出す。選べ、選んだら余が直々に話す。」


 興奮して一気にまくりたてた。だって、ガソリンだぜ。何作ろうってばよ。


 おら、ワクワクすんぞ。領地になるには時間かかりそうだから今のうちにこっそり進めておかないと。





「助さん、できたっかな。」


 助さんの実験室に寄った。そこには頼んだ物が完成していた。よし、これがあれば多少無理できるかな?


「助さん、これができたら次なんだけどさあ。」


「殿、いやあのですね。これを作るのは物凄く大変で、あの」


「だから若い秘書つけたでしょ。もう1人つけようか?冗談はさておき、次のはこれができていれば少し改良すればできるよ。それと、さっきの黒い水見たでしょ? あれを使ってね。あれとこれと…………。たぶんこれはあずみさん達でも作れるよ。で、最期のお願いが10年かけていいから、こういうの作って!」


「これは、え、これはどういう仕組みで。待てよ、前に格さんが、そうか。」


 さすが技術屋。



 次に格さんと話した。


「格さん、こういうの出来る?楓とその部下使って改良しながら作ってみて。」


「これは、こうやって体勢を、いやそれでは……。これは面白いですぞ。」


「あと、さっきの黒い水見たでしょ。あれでね、助さんに頼んだ事があるんだけど

 多分相談に来ると思うから助けてやって。」





 今は兄上の事があって、間者は古府中に集中している。いまのうちにと思い工場にきた勝頼は言いたい事だけ言って高遠に戻った。もちろん護衛衆と偵察衆が周囲をみて間者がいない事は確認してます。山の中だから道は一つしかないし、森を抜けようとすれば形跡が残るから大丈夫。


 今後の戦で武田の跡取りと家臣に認めさせなければならない。特に穴山梅雪、こいつを味方にできるか、できなきゃ殺すしかない。梅雪は反旗を翻した弟を捨てた。


 武田家一門衆としてあるべき行動をとった。これは信玄だからである。自分に変わった時に忠誠を心から誓って貰わなければならない。天下を取るには信頼できる部下に権限を与える必要がある。


 今は力を蓄えつつ、実績を出していくしかない。敵は徳川、北条か。内部の裏切りは好きじゃない。


 色々考えていたら、兄上病死の連絡がきた。ここからが本当の勝負だ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る