1-3


謁見の間の中央にある玉座に座るのはただ一人。その人物は、明らかにこちらに視線を向け、眺めるというより、舐めるような視線で観察している様だった。我慢しないと、とギュッと目を瞑り、声がかかるのを待つ。その時間は数分だったが、長い時に感じられた。


「・・・上げろ。」


 そう告げた声は、低く、何とも重い感じの声であったが、なんの感情も感じられなかった。掛けられた声に、顔を上げて従った。すると、ニヒルな笑みを浮かべたシン国、国王がそこにいた。


「名は、何言う。」


「・・・シ、シアン=ジハードと、申します 。」


「・・・嗚呼、そう言えば今日だったか。」


 王はそうボソリと呟くと、玉座から降り、こちらに歩み寄ってくる。王が近づいてくる度に、恐怖が広がっていく。それを、無理矢理抑え込むが、身体の震えは止まらない。そんな僕の様子を見て、クッと小さく笑みを零していた。その小さな笑みにさえも、恐怖を感じる。ギッと奥歯を強く噛むと同時に、視線が強くなる。


それを睨まれたと感じた王は、無を崩し、怒りを面に出し、空を掴む様な動作をすると、その手には電気を帯びた何かが握ってあった。王はそれを槍の様な扱いで、こちらへ投げてよこした。強い雷を防ぐため、大理石で作られただろう床に手を着く。


『盾に・・・。』


 あとは僕の思うように、思い浮かべるだけ大理石だったものは、僕を覆いかぶさるような壁が作られる。咄嗟に、防御と反撃を思い浮かべた為、作り出した防御壁から石の刃が作り出され、王へ向かって飛んでいく。それに対し、少し驚いた様子を見せた王は、すんなりと刃へ手を翳し、灰へ変えてしまった。その事に今度は、僕が目を見開き、驚きを隠すことが出来なかった。


「・・・連れて行け。」


 王は僕にもう一度視線を遣った後、誰も居ない空間へそう告げた。殺されるんだろうな、と内心呟いては、本当の両親と育ての両親の顔を思い出した。・・・僕の思い浮かべた


四人とも思い浮かべたが、泣いてくれる人は一人もいなかった。


 王の一言に、兵士の様な二人がこちらに向かってきた。特に抵抗するほど、生きたいとも思わなかった為、指示される通りに連れて行かれた部屋で立って待つことにした。しばらくすると、城門前まで連れて来てくれたジハード家に仕える男性が部屋へ入ってきた。


「シアン様、こちらに最低限の荷物をこちらに置いていきます。その他のものはまた別で送らせていただきます。・・・それでは、失礼いたします。」


 ・・・荷物?どうしていいのかも分からず、「あ、はい。」とだけ返事をした。それから、すぐに入れ替わる様に、黒のローブを来た大柄の男性が入ってきた。


「・・・シアン=ジハード殿。本日、軍への入隊が国王陛下より許可されました。今から、案内する寮で過ごしていただきます。」


「・・・分かり、ました。」


 理解が追い付いていない頭をどうにか動かし、陛下からの許可で軍へということだけを頭に残し、自分の荷物を持つ。足早に部屋から出る黒のローブの男性の後を、おいて行かれない様に小走りで向かう。



 案内された寮の部屋は、どうやら一人部屋らしかった。六歳の子どもには、勿体無いと思うのはおかしいだろうか?それに、軍で新入りは雑魚寝するような部屋を与えられると訊いていたため、この部屋は間違いじゃないか、と声を掛けようと黒のローブの男性へ視線を向ける。



「あの…。」


「これは、ジハード家のということと、陛下からのお達しだ。…それに、お前の魔力では、新人どもが耐えられなくて、可哀想だしな。」



 少し困ったような笑みをこぼすこの黒のローブの男性は、「名前がまだだったな、クダンだ。宜しく頼む。」と僕の目線に会わせてしゃがんでくれた。



「シアン、です。…宜しくお願い致します。」



“ジハード家”だから、か…。重いそれに、はぁ、と小さく溜息がこぼれた。



 それから、戦闘部隊に配属されたことを知った。しばらくは、クダン隊長が教育係として、いろんなことを教えてくれるらしかった。寮での生活や訓練方法など簡単なことから、現場に出るようになると、チームで連携しながら戦うことや戦闘時は計画を立てることが必須であること、常に冷静でいること、自分だけで対処をしないことなどを教えてくれた。


魔法訓練なるものもあったが、魔力値が高く、周りへの影響を考えて、他の隊員と一緒に行うことは出来ず、同じような魔力値が高い隊員数人と行なっていた。だが、それでも僕の魔力の影響を受ける人が多くあった為、最初のうちは魔力制御を徹底的に訓練を積み重ねた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る