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行方不明になっている女性が、街にあるパン屋に住み込みで働いていることをリーダーへ報告した。
「…リーダー、どう、なるんだ?」
パン屋で働いていた彼女は、楽しそうに笑っていた。その女性の捜索依頼を出していたのは、女性の両親だったことを考えてると、逃げ出したかったのでは、と思い、それに小さく苦しいと感じた。
「どーすんのぉ?どーなるのぉ?」
足をバタバタとせわしなく動かしながら、リーダーへ視線を向けるチュンを黙らせる為、足を蹴る。すると、「シアン、痛いよぉ。」と口を尖らせるチュンを横目に、リーダーの返事を待つ。
「どうなるんですか、だろ。まぁ、とりあえず“捜索”が依頼だからな。どうするかは、依頼主次第だろうよ。」
リーダーは相変わらず怠そうな口調でそう言った後、「心配、か?」とお疲れ様の意味で渡されるいつもの珈琲を受け取る。…心配?誰が?と内心思っていたのが分かったらしいリーダーは、小さく苦笑をこぼして、隣にいるチュンへはホットミルクを渡した。
チュンは満足気に笑みを浮かべた後、コクコクと飲んでいた。
「あのヒト、楽しそうだったから…。」
笑って働く彼女の隣には、同じように笑っている店主らしき男性がいた。
報告をすれば、彼女がどうなるかはイマイチ分からない。
だけど、あの二人が揃っての笑顔が消えてしまうのではないかと思うと、少し胸が痛む気がした。
リーダーは、僕の言葉に何も返さず、荒っぽく頭を撫でた。僕はそのぐしゃぐしゃになった髪をもとに戻した。
チュンが「あっ、そーそー。」と声を上げた。
「カスター。シン国だけどぉ、今日も今のところ異常なしぃ、だよぉ?」
ご褒美のホットミルクを飲み終え、満足したらしいチュンはニコニコと笑っていた。
「…時計台の上から確認したから、間違いない。」
チュンの言葉に付け加えると、リーダーは「そうか。」とだけ返した。
ご褒美としてもらった珈琲に手を伸ばす。熱いが、それがまたいい香りを引き立てて、良いらしい。…でも、イマイチよく分からない、と内心呟きながら、角砂糖を一つ、二つ…五つ目を入れるところでリーダーから、「やめろ。」と声が掛かる。五つ目をカップに落とし、ミルクもたっぷり注ぐ。
「…もう珈琲じゃねぇな。」
呆れた様子で呟くリーダーに視線をチラリと向ける特に気にすることなく、一口飲むと、甘さが口に広がる。それに少し胸の真ん中が暖かくなるのを感じる。それを“安心”するということを知ったのは、リーダーに出会ってからだ。
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