第53話 ごあいさつ③
「え? アルフレッド君が?」
「はい、その、まっったく個人的な姉弟間の問題ですので、もちろんシオンさんが嫌なら断って頂いて構わないのですが……」
正門を抜けて会いに来てくれてシオンさんは、扉を開けるなり目に飛び込んだ私の浮かない顔を見て目を瞬いていました。
うーん、でも普通に嫌ですよね、貴重な読書の時間にそんな審査の視線を向けられるなんて……。
「いいえ。望むところです、これってアレですよね」
「アレ?」
「『お前なんぞに娘はやらん!!』ってやつですよね、本で読みました!痺れます! 俺がんばるので!」
「な、なんかちがうと思いますがありがとうございます……」
「それに俺も会ってみたかったですし、トールさんの大事な弟さんに」
と言って笑ってくれるシオンさんに、不安だったのが一気にほぐれて、思わず胸がいっぱいになってきゅっと抱きつきます。
「と、トールさん? 珍しいですねトールさんからしてくれるの、うれしいですけど……」
「…………本当はいつもしたいんですよ、恥ずかしくてできないだけで」
「爆弾発言だ……」
「ただ今日は、アルがいる前でこういうこと一切できないだろうから。今のうちにです」
「爆弾魔だー……」
いちゃいちゃ禁止令に打ちひしがれるシオンさんは、名残惜しそうに角のあるあたりをすり寄せて息を吐きました。
* * *
「………………」
「初めまして、居住区に住んでます、シオンです。お姉さんとは先月からお付き合いさせていただいてます。種族は
「………………」
詰所前で落ち合い、にこっと笑ったシオンさんに、アルフレッドは笑い返さず──ひそひそと訝しげに私に耳打ちをしました。
「あまりにも顔が良すぎない……? やっぱり騙されてるんじゃ……」
「じゅ、獣人さんってみんなそうだから……大丈夫ですよアル、シオンさんはそんなことする人じゃないです」
「いや確かに良い人オーラがにじみ出てるけど……むしろ姉さんと同じで騙されやすいタイプの人種っぽいけど……ていうか18歳って本当? 姉さんより年上に見えるけど」
「アル、姉に対してそんな認識を……!? 獣人さんってみんなそうだから、ちょっと実年齢より上に見えるの。というか精神年齢は私より上疑惑があるの」
「だろうね……」
「やだ……知らないままでいたかった弟の私に対するこの評価……」
こそこそと会議する私たち姉弟にシオンさんは「?」と首を傾げ、にこやかに言いました。
「あの、トールさん。時間ももったいないし今日の調停をお願いしたいのですが」
「ハ!はい、そうですね。ではアル、図書館行きの乗合馬車に乗るので……」
「そうだ、今日はいつもと少し行き先を変えたいんですが良いですか?」
「? ええ、もちろん」
「それと、トールさんに預けていた俺の図書貸し出しカードをお借りしたいです。持ってますか?」
「はい、手帳に挟んでいつも持ち歩いてますよ」
ポン、と鞄を叩いて頷くと、アルは怪訝そうに眉をひそめます。
「なんで姉さんが持ち歩くのさ」
「貸し出しカードは紙製だから」
「あー……」
紙を食べてしまう神山羊の本能と、本好きというシオンさんの曲げられない性分とを鑑みたのでしょう、アルはちょっと哀れむような目でシオンさんをしげしげと見つめました。
「でも、本、借りるんですか? 居住区に持ち帰ったらたぶん……」
「そんなことしませんよ、禁種指定は受けたくありませんし。……これは俺のひそかな夢その3なんですが、せっかくの機会なので思い切ってやってみようかなって」
へへへと気恥ずかしそうに笑うシオンさんに、アルと二人首を傾げます。
「では行きましょうか。……ああそうだアルフレッド君、俺とトールさんの距離が近いなあと思っても、それはオーラ範囲の関係上の不可抗力なので。怒らないで下さいね」
そう言ってさらっと私と腕を組んできたシオンさんに、私は頬を染め、アルフレッドはくわっと目を見開きました。
……いや、オーラ範囲は1メートルなので、普段はさすがにもうちょっと離れてる気がするんですけど!?
でもまあアルはそんなこと知りませんし、調停師である私が黙っている以上は糾弾することも出来ません。
もしかしたらアルフレッド以上に策士かもしれないシオンさんに目を細めつつ、私はその上機嫌な横顔に口をつぐみふてぶてしく共犯関係を結ぶのでした。いちゃいちゃ禁止令あっさり破りましたね……。
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