「彼」の出現
ニッコリと笑う彼にどう返事したらいいかが分からなくてたじろぐ。
「驚かせてごめんね。その病気を調べてる人なんて珍しいからつい。」
優しい声色とこちらへの気遣いが見えることで警戒レベルを少しだけ下げる。
しかし、しばらく人間関係をまともに築いてこなかったことで激しく動揺してしまった。
「その本より、こっちのほうが色々書いてあるけどもう読んだ?」
何か冷やかしてくるつもりもないようで、純粋なアドバイスをくれた。
しかしこの人も、病気について調べているのだろうか?
不審すぎる相手に対してやっぱり、なんともいろんなことを考えてしまう。
しばらく人とかかわらない間で人間不信になり、自分でも嫌気が差してしまった。
素直にアドバイスを受け入れられない自分にもやもやしつつ教えてもらった本を読む。
1日じゃ読み切れないほど内容の濃い本には言われたとおり他に読めないような内容がかいてあった。しかし、そこにも、対処法はかいていなかった。
肩を落とす私を見て先程の男性は申し訳なさそうな顔をする。
「あまり、役には立たなかったかな」
そういうわけでもない、ただ…。と私は話し始める。
「君は、親愛性忘却症なんだね。」
学校で初めて、私の病気を知る人ができた。
それからもたくさんの図書館やネット、メディアの情報を探したが未だ対処法は見つからない。
そろそろ大学2年生になる。
1年以上探し続けて成果はない。諦めるしかないのだろうか。
彼は、その間も情報を持ってきてくれたり、独自に調べてくれていたようだが、成果はなかったと毎回肩を落としていた。
少しずつ私達は親しくなる。そのたび私は怖くなるのだ。いつ、彼のことすらわからなくなるのか。
きっとそんな不安が伝わってしまったのだろう。彼は私によく、そんな顔しないで。一人で思いつめないで。そして彼はニッコリ笑い、
「笑って。」
そう言うようになった。
病気を知っている以上、これ以上関係が深まればどうなるかわかっているだろう。しかしそんなことに臆することなく、今を楽しめばいいと彼は言うのだ。
私は大学で親愛性忘却症について研究したい、と進路を提出した。学校には私の病気も伝わっているからこそ、すんなり通ったのかもしれない。腫れ物扱いには慣れたものだ。
彼はもとから医学系や、未知の病気を研究していたらしく学年はひとつ上だった。
”親しい”の基準がわからない今、自己紹介を交わすだけで何かが起きてしまう可能性すらある。彼についてを知るのは本当に少しずつになっていた。
何もかもが消えてしまう前に、君だけは。 幽山あき @akiyuyama
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