第19話物語を閉じる前に⑩

『寒いから』


今夜は寒いからシチューを食べる

今夜は寒いから湯船に柚子が泳いでる

今夜は寒いから靴下を履いて寝る

寒い寒い冬のある夜


今夜は寒いからココアを飲む

今夜は寒いからあなたと電話をする

温かいココアを飲みながら

隣に居ないあなたと電話する


本当は手を握って

冷えた心を暖めたいの







『雪の粒』


ハラリひらりと舞い落ちた

風に流され冬の雨


溶けずに落ちる雪たちは

何かを抱えて降りてきた

誰もが抱える冷たい粒

溶けてしまえば大洪水


氷が水になる前に

急いでお家へ飛び込もう

凍える夜が来る前に

今夜はきっと水が氷になるだろう

何かを包んで凍るだろう


ヒラリはらりと舞い散った

誰かを溶かした冷たい雫


今夜はとても寒いから

急ぎ足で落ちてくる

今年始めの雪が降る






『ウィンター ソルト』


ふわりと息が白くなる

寒い寒いと言葉を凍らせ

誰もが体を縮ませる


もこもこパチパチ毛糸の鎧

今年はみんなでひつじになろう

春が来るまで籠城だ


扉の外には冬が舞う

肌を突き刺す冷たいソルト

パラパラ誰かが振り掛ける

ソルトを舞わせる白い風

ほんの少し辛い風


言葉も心も凍らせる

冬のソルトがまざる風

空へと高く舞い上がり

雪となってカムバック


今年も来ました冬将軍

お帰りください冬将軍

ジョークも言えるようになるその頃には

花の蕾がほころび出す


冬が置いてった今年のソルト

いつもより、ほんの少しだけ、

涙の味が多い気がした




まだ寒いね

winter salt







『向日葵』


冷たい風の中、花開くひまわりを見た。


苦しいですか?辛いですか?

こんな季節に咲かなくてもいいのに

そんな風に言わないで。

せっかく咲いたのにすぐに折り捨てないで。


どこかで彼らが咲いている。

必要とされなくても、きっと咲いている。


風が強くて、冷たくて、寒いこんな日に。

太陽のように花開くひまわりを見つけた。


苦しいですか?辛いですか?

伝えたい言葉はそれじゃない。

こんな日に花開く彼らと出会えて嬉しいと、笑ってあなたに伝えたい。


冷たい風の中、枯れることなく花咲くひまわりを見つけた。








『なにかしたい』


自分は何にもできないからさ

何かしたい

自分は特別じゃないからさ

何かしたい


今したい

今からしたい

これからしたい

明日でいいや


なんにもできないからさ

すぐにいいやで終わらせちゃう

何かしたい気持ちも

軽く放り投げちゃう


したい気持ちを握ったままでいられるならさ

自分のために何かしたい

あなたのために何かしたい


何ができるか考えるよりも

始める覚悟を

踏み出す勇気を

今この言葉にのせて

誰かにおくりたい


何かしたい

何かしたい

きっと何かできるはず


何かはわからないけど

きっと何かできるはず




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