第10話物語を閉じる前に①

『今日は大雨』


今日は大雨

誰かが泣いてる

傘をさしてあなたのもとへと走って行きたい


今日は大雨

声が聞こえない

雨音に掻き消えたあなたの声

ごめんね、今度はちゃんと聞くから

もう一度お願い


今日は大雨

濡れたくない

外へは出れず閉じこもる

膝を抱えて閉じこもる


今日は大雨

明日の天気は?





『足跡』


あっちにふらふら

こっちにふらふら

あちこち足形手形をつけて

悪者は世界を逃げ回る


どこから現れどこへ行く

逃亡紀行は未だに終わらず

捕まる素振りも見せずにわらう


ぺたぺた現場に足跡残しては

混乱させては離れてく


立ち入る人にもペイント付けて

「もっと広げてくださいな」

「ワタシの為に歩いてくださいな」



今日からアナタも共犯者






『空席』


ポツンとのこされた誰かの椅子

座る人をただ待つ寂しい椅子

座っていた人はもう戻らないのに


空いてしまった席には代わりに誰かを座らせよう

空いているからひとまず座らせよう


違うの

そこは誰かの為だけにある椅子なの

代わりの人なんて座らせないで


空いた席は空いたまま

座っていたはずの誰かの幻を

時折思い出させる





『空を見上げて』


青い空に落ちていく

不思議な空に吸い込まれて

高い空に沈んでく


顔を上げればどんなときだって

私の上には空が広がる

空という夢幻の舞台

風がおどって

太陽が輝き

星が歌って

月がわらう


決して手の届かない永久の舞台


時間の許す限りは

地上の観客席で見上げ続けたい





『届いています』


届いてます

あなたの声が届いてます

あ、うるさい

届いてるんですって

何度も言わないで

聞こえてますよ

わかったわかった

あー、はいはい

聞いてる聞いてる

そうですねー


届いています

届いているだけ

ただ、中身を開けようとしていない


本当に届いてもらいたいものは

不在中





『今日も雨の日』


今日も雨の日

いつまで続く

泣きはらした空は

笑うことも忘れてしまうのではないか


日の当たらない大地に緑は戻らず

濁流は全てを呑み込み

せっかく植えた種すらも

零へと還してしまうのか


今日も雨の日

明日もきっと雨の空

きみの心を晴らしてくれる

太陽はどこにいった?





『届いているのに』


届いています

届いているんです

だけどあなたに伝えられない

「届いているよ」と伝えられない

伝え方がわからない


何て言ったらいいだろう?

何て答えればいいだろう?


届いた全部の中身に対して

返事は「Yes.」か「No.」で答えられるくらい

全部が簡単だったらいいのになぁ






『春雨』


本日も天気は雨のち雨

一歩一歩と春がやって来る


雨が降る度あたたかくなる

雨が降る度緑が伸びる


春雷、雨を引き連れて

稲光空に走らせ

目覚めを促す




春の雨よ

どうかすべてを洗い流して

世界に新しい季節を呼び起こして

「麗(うらら)」と例える春はまだ来ず

桜が散ってしまう

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