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7月19日。ロンドンはベントリー修道院に設置されたRAF戦闘機軍団の情報中継室に北海の東海岸沖を航行している輸送船団から「敵機発見」の報告が入った。敵機は進行方向から見て、ノーリッジに向かうと見られた。情報中継室はイギリス中部のウォットノールに構える第12飛行群司令部に連絡した。
第12飛行群司令部はただちに、ダックスフォード交戦セクターに出撃を要請した。ベントリー修道院の通報から約5分後、第19飛行中隊から6機のスピットファイアがダックスフォード飛行場から離陸した。
グレツキが所属する第17飛行中隊を隷下に置くデブデン交戦セクターにも第12飛行群司令部から同報が伝わった。デブデン飛行場からも6機のホーカー・ハリケーンが出撃した。ハリケーンもRAFの一角を担う戦闘機である。
ダックスフォード、デブデン飛行場から離陸した12機の戦闘機はノーリッジの上空で合流して北海の輸送船団に急行した。
この時、ダックスフォードから離陸したパイロットの1人、セルジュ・シュピルマン中尉は色めき立っていた。シュピルマンもグレツキと同様、元はポーランド空軍のパイロットであり、イギリスに亡命する以前からグレツキと兄弟のような付き合いをしていた。シュピルマンは無線でデブデンの戦闘機部隊に話し掛け、グレツキがいるかどうか問い合わせたが再会は果たせなかった。グレツキはこの日、出撃せずに他の仲間とともに次の出撃要請に備えて待機していた。
この出来事をデブデンから派遣されたズデネク・コシュラー中尉は記憶に留めていた。
12機の戦闘機を指揮する
ただちに、イギリス空軍機は高度を上げてドイツ空軍機の上空で後背を取ることに成功した。
空戦は激烈を極めた。
コシュラーと
コシュラーが続いてユンカースを追跡しようとした刹那、無線に怒鳴った。
「クソッ!捕まった!」
バックミラーに背後の敵機が映っている。1機のメッサーシュミットに追尾されている。コシュラーは急降下して振り切ろうとする。敵機のパイロットはコシュラーが急降下する度に距離をじりじりと距離を詰める。かなりのベテランらしい。コシュラーの真後ろにピタリと張り付き、7・92ミリMG17機関銃からわずかに銃弾を送った。コシュラーのキャノピーが吹き飛ぶ。
《機体番号P407のハリケーン、名前は?》
無線が自分のハリケーンを呼んでいた。コシュラーは名乗った。
《よし、コシュラー中尉。水面ギリギリまで降下しろ》
「どういうことです?」
《説明は後だ!水面まで降下しろ!敵に燃料は残っていない》
コシュラーは水面15メートルまで急降下する。ハリケーンを水平に戻し、機体のコントロールに神経を集中させる。時速500キロで飛ぶ戦闘機にとって、高度15メートルはほとんどゼロに等しい。
無線の主が言った通り、敵機は降下の途中で追尾を諦めて機首を上げる。刹那、敵機の上空に進入したスピットファイアからブローニング機関銃が炸裂する。先ほどコシュラーを追い詰めていたメッサーシュミットはキャノピーが吹き飛び、北海に墜落した。
コシュラーはスピットファイアに礼を言った。スピットファイアのパイロットがキャノピーの中で親指を立てる。
その時、スピットファイアの上空で1機のユンカースが銃撃を受ける。一瞬で炎に包まれた敵機が白煙を引いて錐揉み状に落下し始め、スピットファイアに激突した。2機とも炎に包まれて急激に高度を下げる。やがて、はるか眼下の海面に小さく白い水しぶきが上がった。パラシュートは上がらなかった。コシュラーは呆然として声も出なかった。
空戦は終わった。
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