メイク
「好きな人ができた」
と、一ノ瀬エマが言った。携帯端末から見せられた画像には、確かに整った顔立ちの男の人が写っている。しかし二ノ宮サヨリは気がついた。右上にあるロゴマーク──"株式会社・非実在性"という文字に。
「これは?」二ノ宮は聞く。
「作ったの」一ノ瀬ははにかんで、「私の趣味全開……って、ちょっと引かないでよ」
最近の
今では専門の造形作家までもが現れて、様々な人を作るためのレシピが紹介されている。
「ちょっと課金しちゃってね」
一ノ瀬は
「こういうのが趣味なの?」
「まあね」心なしか、一ノ瀬は恥ずかしそうに笑う。
「恥ずかしいなら見せなければいいのに」
「趣味は恥さらしです」
「露出狂の派生系? 誰も得しないと思うけど」二ノ宮はちらとホログラムを見て、「でもまあ、悪くはないと思う」
「でしょう!?」
一ノ瀬は嬉しそうに二ノ宮の肩を何度も叩いた。それが少しばかり痛い。
「ねえ、二ノ宮もやってみない?」
「え、私が?」
「そう。作るのは時間がかかるけど、やってみると案外楽しいよ」それにね、と一ノ瀬は続けて、「自分でも知らない嗜好に気付けるよ……」
何故か怪談話をする時のように、おどろおどろしく話してみせる。二ノ宮は口角を上げて、
「好きな人を作る──か」
「そうそう。ほら、貸したげる」
と、一ノ瀬から端末を受け取る。
「じゃあ作ってくるから、ちょっと待っててね」
「あいよー。それまで"ナカハマ君"と遊んでる」
部屋を出て行きかけて、二ノ宮は立ち止まった。
「ナカハマ君って誰のこと?」
「こいつ」
一ノ瀬はホログラムの男に向けて指を差した。すると、ホログラムは顔をきょろきょろと見回すリアクションを取る。
「喋らないもけれど、見ているだけでも楽しいからね」
「まるで道化みたい」
「ところでさ」一ノ瀬は突然、話題を変える。「道化の英訳ってピエロ? それともクラウン?」
「さあ、どっちでも良いんじゃない?」
「もしかしたらさ、王宮に呼ばれた人がクラウンって呼ばれるんじゃないかな」
「その心は?」
「
二ノ宮は舌打ちをして、部屋を出ていく。その後調べてみると、ピエロはフランス語だった。
それから数分後。
「私なりのイケメンができたよ」
扉越しに二ノ宮の声が聞こえ、
「じゃあ見せて」一ノ瀬はワクワクして待っていた。「それにしても、やけに早かったね?」
「メイクは得意なの」
「あれ、もしかして経験者? 前にも人を作ったことがあるの?」
首を傾げる一ノ瀬の元に、二ノ宮が現れた。彼女はしかし、自分に
「えっと……男装?」
「私の理想の男性です」
「ナルシシストかあ……救い難いなあ」一ノ瀬は吹き出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます