サボタージュ
一ノ瀬エマは二言目にこう言った。
「サボタージュとコーンポタージュって似てると思わない?」
それを聞かされた二ノ宮サヨリはと言えば、口をあんぐりと開けっ放しにしてただ目の前の彼女を見つめるばかりだった。
「は?」と、空気の抜けたような音と共に。
「だから語感がさ、似てない?」
「……いや、その前に言ってたじゃん。えっと、なに?──」
「ああ、『毎日欠かさず登校しているんだし、今日くらいサボらないか』って?」一ノ瀬は、それのなにがおかしいのとでも言いたげな表情を浮かべる。
「不良め」二ノ宮は睨めつけた。
「不良って別に悪いとは断言してないからセーフ」
「アウト寄りでは?」
「何事も経験だよ。経験に勝る知識はなし。悪を知らぬ無邪気は邪悪。サボり方の予習だと考えれば良いんだよ。人生において何事も勉強でしょう?」
「べらぼうに喋るじゃない。貴女、詭弁を弄すると雄弁になるのね」
「あら、駄洒落みたいですわね」
「誰かさんの悪影響を受けたみたい」
「まあ、サボタージュって所属するコミュニティを壊滅させるっていう、
「それって駄目じゃない」
「ううん、駄目じゃない」一ノ瀬はにっこりとして、「たったふたりだけだから、
二人は鞄を手に、教室から出た。授業に参加するのは個々人の自由。自分で自分のことを真面目だと考えている二ノ宮も、授業内容を録画できることから、抜け出すことになんら抵抗感はない。机の上に一匹の
学校を出ると、観測カメラから発せられるセンサーが目と耳とに向けられた。これで個人を識別し、手の甲にチップを入れるまでもなく、人の出入りを管理している。とは言え、こんなことをせずとも体内の
街中を走る
二人は車を降りてカフェテラスに入る。その際、一ノ瀬は不意に「カフェに入る。カフェイン」と言ったので、二ノ宮は吹き出した。席に着くと、一匹の虫が飛び込んできた。虫はテーブルに向けて光を投射し、メニューを表示させた。移動費のことも考えてみると、二ノ宮にはさほど小遣いはないので、コーヒー一杯で数時間は粘るつもりだった。それぞれが注文すると虫は飛び去っていき、一ノ瀬が口を開いた。
「ところでさ、何故サボタージュをコーンポタージュと比較したかわかる?」
彼女の得意げな顔を見て、二ノ宮はなんとなく、どうでも良いことをこれから話すのだろうことを察知し、無言で先を促した。
「サボタージュは朝飯前ってことだよ」
二ノ宮は短く嘆息する。
「やっぱり不良じゃない」
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