24冊目~騎士団長~

 それは突然の通達だった。






 朝早くにグレアムから、王宮騎士団騎士団長による緊急招集令が出たと言われ、急ぎ身支度を整え向かった、騎士団演習場の広場には、小高い指揮台を基準としてずらりといった具合に整然と所属別に並んだ騎士達で覆われていた。




「見ろよフレッド、今日は一番隊の、しかもまで参加だ」


「ああ、どうやらよっぽどのことらしいな」




 黒を身につける者が多い集団の右端、ゴテゴテと記章が張り付いた戦闘には不向きな白い騎士服の集団を視線で指し示しながら、小声のヨハネスが肩をつついてくる。




 一番隊、別の名を王宮親衛隊。


 ほかの隊とは違い、所属条件は貴族であることであり、個人の武芸武術の能力より容姿容貌の方を重視され、貴族で集まっているから当然身分や血統を重んじる。


 そのせいもあり、一番隊の隊員はほかの騎士団員、特に平民出身の騎士団員を見下す者が多く、対立が生まれやすい。






 そう、返事を返した時。






「傾注!」




 指揮台から号令をかけられ、反射的にそちらの方に意識を向ける。




「これより……」




 指揮台に立つ副騎士団長ではない見覚えのない上官らしき男が当たり前のように進行を始める。




「ヨハネス、あの上官誰か分かるか?」


「いや……見覚えがない」




 前を向いたまま、バレないように小声で話しかける。


 が、ヨハネスにも見覚えがないらしく、返ってきた声は推し量りかねているようなそんな声色を含んでいる。




 サッと見える範囲の周囲の顔色を窺ってみるが、皆、小隊長であるはずのグレアムですら、ヨハネスと同じような僅かに訝しんだ面持ちで前を見据えていた。




「急遽、騎士団を退団されることとなったトラヴィス・フレッカーどのに代わり、本日より我が王宮騎士団を率いられます」




 そう言うと、信仰をしていた男は頭を下げて二歩、下がる。




「ヘクター・ロジャーどのです」




 指揮台にのぼってきたのはブラウンアッシュの髪のメガネの男。




「……副騎士団長?」




 誰かが言った。


 それをきっかけにしてざわざわと波紋のようにして喧騒が広がっていく。


 フレドリックもヨハネスと困惑した顔を見合わせる。








「静粛に!」


 一声でそれまでの空気が静まり返る。




 ハッとして前を向いた。


 指揮台の上の男がスッとメガネの位置を直す。




「今日から私がこの組織の長となります。王命なので異論は認めません、よろしいですね」




 男の顔は笑顔、しかし目の奥が冷たい。




「……面倒なのがやってきたな」


 ヨハネスが小さくぼやく。








 全くその通りだと、そう思った。








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