18冊目〜侯爵〜
フレドリックが詰め所に立ちよるとグレアムと騎士団の詰め所には似合わないようなとても身なりの良い男性が廊下で話をしていた。
「おや、君が呪読師の護衛役、フレドリック・バードン君かな?」
横を通り過ぎるため、挨拶だけして書庫に向かおうとしたとき、男性がフレドリックに声をかけてきた。
「はい、そうですが……」
「ああ、フレッドいいところに。こちら宰相をされているのモラン侯爵だ」
呼び止められた理由、男性の顔に見覚えはなかったためフレドリックはちらりとグレアムの方に目配せをした。
グレアムはそれを受けてフレドリックに男性を紹介する。
「はじめまして、王宮騎士団第三番小隊所属、フレドリック・バートンです」
「宰相のジョゼフ・モランだ」
フレドリックが礼の形を取ると、侯爵も簡単に自己紹介をする。
「よろしくお願いします……。えっと、私に何か御用でしょうか?」
「これをだね、呪読師どのに届けてほしい」
本題を尋ねると、侯爵は控えていた従者に持たせていた木製の箱をフレドリックに渡させた。
箱には特徴らしきものはない、重さも書類と言われても特に違和感はない。
が、箱の大きさは書類が入っているというよりは何か物が入っているそんな大きさの箱である。
「中に入っているのはとても重要な書類でね。傾けず、振らず、落とさず、慎重に彼女のもとまで持っていってほしい」
妙に何度も確認するのが気にかかるが、特に断る理由もない。
「はい、承りました」
「頼んだよ。では私はこれで」
グレアムとフレドリックがそろって礼をし、立ち去る侯爵とその従者を見送った。
「ほら、俺の言ったようになっただろ?」
「分かってます、感謝してますよ」
「もっと感謝しろよ」
「俺、頼まれたものがあるので」
姿が無くなったところで自慢げな顔のグレアムを適当にあしらい、フレドリックは書庫に向かった。
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「おはようございます」
「おはようございます。昨日の今日でなのですが、とても重要な書類だと言われました」
挨拶もそこそこに依頼されたものを手渡す。
「今日は、重要な書類ですか……」
「はい、とても慎重にアイリスどのに渡してほしいと」
「……宰相どのですね」
「あ、はいそうです。どうしてわかったんですか?」
「なんとなくですね」
箱を見たその瞬間、何も言っていないのにもかかわらず彼女は依頼者を言い当てた。
そのことに驚きを隠せずにいると、彼女が手に持った箱をカウンターの上に置き、フレドリックの方を振り返る。
「中身、見られますか?」
「え?いいんですか?重要な書類なのでは……」
「見ればわかりますよ」
彼女の背後から箱の中身を覗き見て、目を丸くさせた。
「これは……茶菓子?」
「ええ、貴方からかわれたんですよ」
「は?から、かわ、れ、た?」
片言になるフレドリックを横目に小さく微笑んだ。
「ええ、宰相どの、よく何か差し入れを持って来てくださるのですが、いつも何かに紛れさせてこっそり渡してくるのですよ」
「へー……」
アイリスのその表情は名を聞いた時と同じ表情。
「ちょうど二人分ありますし、お茶の時間にありがたくいただきましょうか」
「そう、ですね。楽しみにしておきます」
「では、今日も業務よろしくお願いいたします」
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