14冊目~相談~
「で?」
「で……なんか最近、別に悪いやつじゃないんじゃないかって思いだしてさ……」
「あれだけ嫌いだって言ってたのにな」
からかい交じりのヨハネスの言葉に、フレドリックは酒の入ったカップをあおり、一つ息を整えた。
「あの時は!……あの時は嫌な奴だったんだよ」
「ほー」
この日、フレドリックは偶然非番の重なったというヨハネスを捕まえて城下の酒場に来ていた。
フレドリックの呪読事件やヨハネスの用事が重なって、なんだかんだ二人で飲むのはあの愚痴の日以来だった。
その話の流れはいつの間にかなぜか彼女について話という名の相談のようなものになっていた。
どんな話も面白そうなと言った様子で耳を傾けてくれるやつなど、この王宮にこいつくらいなものなのだからまあしょうがない。
しょうがないのだが。
「何が起こったのか聞きたいもんだね」と、同い年のはずのくせにニヤニヤとそれはどこか子供の小さな成長を嬉しがる親のような生温かい目を前面に押し出してこちらに向けてくるヨハネスに、少々うざいと感じていつものように脛を蹴り飛ばしたのは言うまでもない。
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痛みに悶絶しながら机に突っ伏すヨハネスを横目に順調に用意した酒を減らしていると、
「そういえば……」
「ん?」
ようやく回復したらしいヨハネスがむっくりと顔を起こし、頬杖を突きながらこんなことを聞いてきた。
「その子の名前なんて言うんだ?」
確かになんてことはない質問だ。
普通、人との関係というのは名前を知るところから始まるものであるから。
「……」
しかも最近では「お茶会」なるものをやるようになった。
ただの護衛よりはよく話すようになってきて……。
「……知らない」
「……は?」
一切の焦りを見せずにあっさりとフレドリックがそう答えると、笑顔のまま固まったヨハネスから間をおいてそんな間の抜けた声が聞こえた。
「いやだから、そういえば知らない」
「はぁ!?」
もう一度、今度は自分でも確かめるように答える。
「忘れたとかではなくか?」
「ああ、聞いてない」
こちらが妙に冷静だと相手が慌てふためく様子が面白く感じるなと、どこかの誰かさんの表情のような冷めたような思考が頭をよぎった。
「おま、は?まじかよ」
「聞くタイミングを逃したというか、それ以上にここまで話すようになると思わなかったというか」
「いやいや、それでも……フレドリック、お前ほかのご令嬢方の名前とかは覚えてたよな?今まで会ったことなくても」
「それは、これでもバートン伯爵家の三男で、一応貴族の端くれだからな。たしなみというか……あとは覚えてもらおうと大体向こうから名乗ってくる」
「はー、これだから顔のいい奴は」
傾けたカップの向こうからじっとりとしたあきれた色のこげ茶目。
---そういうものだと思ってたがやっぱ、あんなくそったれた家でも一応貴族だったんだな
チッと一つ舌打ちをして傾けた杯に、もう酒はなかった。
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