12冊目~復帰~
「おはようございます!王宮騎士団第三番小隊所属フレドリック・バートン、本日より護衛役復帰します。ご迷惑おかけしました」
珍しく書庫のカウンターで本を読んでいる呪読師どのに声をかける。
「体調はもうよろしいのですか?」
「はい、もうこの通り。何ともありません」
嫌味の一つくらい飛んでくるかと思ったが、本から顔を上げた彼女は普通に心配してくれるらしい。
---なんだ結構優し……。
「『毒消し』、きちんと飲まれました?まさかとは思いますが、忘れていたり…まさかとは思いますが、鍛錬をしていたなどということはないですよね?」
---前言撤回、こいつほんとに嫌な奴だな?!
「いただいたこの世のものとは思えない味のする『毒消し』が効いたようで、昨日も別段体調に変化はありませんでしたが、ご厚意に甘えて安静に過ごさせていただきました」
『毒消し』に関しては誇張でも何でもない。
粘度の高い液体がドロリとのどを通り過ぎていく不快感、鼻に抜けていく妙な青臭さ、何を混ぜればこうなるのかと言いたくなるような後引く甘みと苦み。
正直、もう二度と口にしたくない。
「きちんと飲んでいただいたようで良かったです」
涼しげな顔でパタンと本を閉じ、立ち上がった彼女はそのままカウンターから出てきた。
しかし、いつもとは違い書庫の奥に向かわず、何故か近くの本棚から数冊本を手に取りこちらに帰ってきた。
「こちらの本はすべて呪書でもなんでもない本です」
唐突にそんなことを言い出して、手元の本を渡してくる。
「これ、は?」
「暇つぶしです」
「ひま、つぶ……」
何の脈絡もなく渡された本に多少困惑しつつも、一番上に重なっているのタイトルの文字を目で追う。
『騎士ダンカン忠誠伝』
「な!『ダンカン忠誠伝』しかも初版!なんでこんなところに!」
「ご存じでしたか」
「ご存じも何も!ずっと読みたくてさがし……あ」
部屋が静まり返った。
いつの間にか被っていた猫がはがれていた。
焦る。
まずい、その言葉が頭を駆け巡る。
何とか、どうにかしてここをごまかさなければ。
焦る。
こんな時に限って、言葉は出てこず、いつもは無駄に回る舌が回らない。
「そんなに喜んでいただけたなら用意した甲斐がありましたね」
先に沈黙を破ったのは、少女のそんな淡々とした言葉だった。
「一応、ほかの分類のものも用意したのでご自由になさってください。では私はこれで、またお昼ごろに」
フレドリックが何か返事をするその前にそう言い残して彼女は書庫の奥へと去って行った。
いまだ本を抱えたままのフレドリックはその場に取り残されたまま。
「また…昼頃に?」
飲み込めたのはその言葉だけだった。
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