3冊目〜愚痴〜

「だぁ! なんだよ!! なーにが『智の番人』だよ! ただの無愛想で生意気な嫌な奴じゃねえかよ!!」


 ダンと勢いに任せてテーブルに酒の入った瓶を打ち付ける。


「ははは。それ、もう何回目だよ」


 向かいに座る赤茶色の髪の男が苦笑交じりにそういった。


「ヨハネス。てめぇ、他人事だと思って……」

「そらだって、他人事だもんさ」

「クソっ」


 フレドリックはケラケラとおかしげに笑うヨハネスの脛を舌打ちをしつつテーブルの下で蹴り飛ばす。


「ちょい、痛いって」

「ハンッ、ざまぁみろ」


「にしてもな、普段の『好青年フレドリック・バードン』の本性がこれだって知ったら、城の侍女やらいいとこのお嬢様方はどう思うだろな」


 いてて、と蹴り飛ばされた脛を擦りながら、ヨハネスは厭味ったらしくそう言った。


「んなもん、知るか。勝手に相手の理想像押し付けられるこっちの身にもなれよ。」

「さあ、残念ながら俺には関係ないからな」

「薄情者がっ」


 再び足元で脛の蹴り合いが始まる。


「そういや、そのお嬢さん。お前の猫かぶりにも動じなかったんだろ? それってスゲーな」

「動じないどころか、無表情。ニコリともしなかった」

「ふーん」

「淡々と『護衛役の規則』を言って、言い終わったら言い終わったで『じゃあ帰れ』、みたいな。また腹立ってきた」

「『規則』って?」

「ん? ああ、大したことない。」


 フレドリックは酒の入った瓶をひっつかんで立ち上がると、それを掲げてわざとらしく『規則』を唱えた。


「一つ、書庫の奥には立ち入らないこと。二つ、不用意に本には触らないこと。三つ、特別な来客などの他には人を入れないこと。四つ、書庫の入り口と渡り廊下の入り口の鍵を必ずかけること。」


 フレドリックは一度言葉を切り、「ほおー」と感心したように声を上げるヨハネスに目を向けた。


「んで、五つ、王命は何があってもどんなことになっても遵守すること」


 そう言い終わると、すとんと元の場所に座って、手に持つ酒瓶の中身を飲む。

 ヨハネスは机に肘をつき、頬杖をついた。


「まあよお、一番目から四番目まではまだ納得いくとして、五つ目は何か変な規則だな。」

「そうだよな。当たり前だっての」

「でもそうか…書庫には行けないのか……」


 不機嫌そうにケッと言い捨てるフレドリックに対し、ヨハネスは残念そうにぼやいた。


「なんだよ、来たかったのか?」

「そりゃそうさ、呪読師なんて滅多にお目にかかれないし、何よりお前を前にして無表情なんて、どんなか気になるしな」

「いや、想像のままの方がいいと思うぞ? あれの場合。」

「はは、お前にそこまで言わせるとかよっぽどなんだな……ま、頑張れよ」

「やっぱ、お前って薄情者だよなぁ」



そう言って、フレドリックはもう少なくなっていた瓶の中身を一気に飲み干した。

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